喰らう男

三夏ふみ

神託の猫

 喋る猫に出会ったのはこれで三度目だが、神を名乗るやつは初めてだ。


「普通は、逆じゃないのか?」

「まぁ、そうですかね」


 事故から助けたその猫は、長い尾を左右に振り、前足で顔を撫でる。仕草は、猫には見えても、到底神には見えない。


「こちらとしても、のっぴきならない状態でして、どうかお願い出来ませんかね?」

「メリットを感じない」


 恭しく頭を垂れるが、一蹴して歩き出す。


「そもそも、あんたが神だって確証がない」

「イデアです、イデアと言います。でも、困りましたね。どうしたら、信じてもらえますかね?」


 早足で歩く俺の足元を、トコトコと付いて来る。


「こんなのはどうでしょうか。1人捕まえる事に1つ願いを叶えます」

「後払いか?」

「それは仕方ないですね、そういう決まりなので」


 どうにも。上から目線なところは、神に相応しい気もして来たが……。


「そもそもどうやって、捕らえるんだ。その落ちた天使って奴を」

「落ちたではなく、落としたです。それはその時が来たら分かりますので」


 いつの間にか先頭を歩く白い後ろ姿に、深くため息を付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る