プロになるはずだった天才fpsプレイヤーが銃を手にして異世界転生!?世界でたった独りのガンナーとして名門貴族に迎え入れられる
鳴雷海影
Episode1:Tutorial
『ROUND19 10vs9』
『MATCH POINT』
そう画面に大きく表示され、自然と気が引き締まる。マウスを握る手も汗ばんでいる。ふうっと大きな息を吐く。あと一勝。
『START』
チームメイトと一斉にスタート地点から駆け出し、それぞれの持ち場に急ぐ。
「索敵する」
「Aにスモーク焚いた」
「Bに敵2人来てる」
「スキル使えるよ」
味方は着々と準備をして爆弾を設置する敵の動きを監視し緊迫した声で報告を続ける。しかし、敵の方が一枚上手だった。2度の銃声。
「ちっ、やられた」
「俺もだ。スナイパー注意」
Aの2人が脱落。残り3人。さらに1発。
「しまった、裏から来てる」
1人脱落。残り2人。
「落ち着け、まだ勝機はある。ares後ろを任せる」
「ああ、ordinはBを頼む」
俺は慎重にスナイパーのスコープを覗き、壁から顔を出す。見えたのは少し開けた空間だった。ちょうどキャラクターの身長ほどの高さの直方体型のオブジェクトが1つ、それと対面には2階建ての建物。二階に窓。一階には半開きになった扉がある。
「1人やった1人やった!」
aresが叫んだ。しかし即座に撃ち返された。
「すまん、油断しちまった。敵がミッドからそっちへ向かってる。」
残されたのはただ独り。一方で敵は4人残っている。だが、もう勝ちは確定していたようなものだった。敵の動きは十分把握できた。さあ反撃の時間だ。
まずはaresの報告通りやってきた敵を待ち伏せしてヘッドショットを決める。
1人脱落、残り3人。
次に持ち場を離れ迂回して先ほどの建物の中を側面の窓から覗く。ドアの裏にはやはり1人が間抜けに正面を見たまま立っている。1発。
1人脱落、残り2人。
すると爆弾を設置した音が鳴った。Aか。残り30秒で敗北。しかし巻き返すにはあまりにも十分すぎるほどの長さだった。
ここで予備として温存していたスキルを発動してAの周囲を索敵し1人の位置を特定。正面のオブジェクトの真後ろ。さらには防御用の壁を設置しスタングレネードをAに向かって投げ入れ走り出す。瞬時にオブジェクトの裏へ回り込むと1発。
1人脱落、残り1人。
さらに、壁の向こう側から銃を構えて近づく足音が聞こえた。こちらもすかさず銃を構える。ちょうど正反対にいる。そして壁が消え敵の身体が目の前に見えた瞬間、同時に発砲した。
『HEADSHOT』
そう画面に表示されると現実世界の背後で大きな歓声が起こった。こちら側の弾は相手の頭に当たったみたいだが相手の弾はわずかにずれたようだった。
「早く解除だ!」
急かすaresの声を聞き爆弾のもとへ向かい解除する。残り1秒。ぎりぎりだった。
『VICTORY』
再び歓声が沸く。
「やっぱ、さすがだぜ」
「うちのトップは格が違うな」
「優勝おめでとう」
「やっぱり1位卒業はordinだったか」
大人気fpsゲーム「Tartaros」。たった1年前にダウンロードが始まったばかりであるが、今やその魅力故にプレイヤー人口は激増し、遂に賞金総額が1,000万円を超える大会までもが開催されることが決定。そして、当然それに伴ってゲーム事務所は次々とプロのプレイヤーを募集するようになると同時に養成学校を開き候補生の育成を始めたのだが、その1人がこの俺、事務所「烈火」に所属する霧嶋貫である。
今日は卒業間際の最終試験として校内での疑似大会の決勝が行われ、見事優勝を果たした俺はたった今早速プロ入りが決まったところだった。
くうぅぅぅ、ついに、この時がきた。胸の高まりが抑えられない。親の反対を説得したあの日から過酷なトレーニングを積んだ日々が身にしみてしみじみと思い出される。
やったよ、母さん。そして、マイ。今まで苦労かけてごめんな。
涙は堪える。本番はこれからだ。
でも、やっはり一件落着だよな。肩の荷が降りたような気分だ。
明日からまた頑張ればいい、そう思い荷物を持って競技用の部屋を出て寮の自室へ向かう。
廊下を歩いていると講師の山岸がこちらへ向かってくるのが見えた。どこか真剣な面持ちだ。
「お疲れ。優勝したんだってな」
山岸は祝の言葉をかけるが、あまりにもそっけないように見えた。表情も妙に曇っていた。何かあったのだろうか。
「は、はい。ありがとうございます。先生、何か問題でもあったのですか?」
「い、いや、大したことはない」
そう言うと山岸は何か表情を曇らせながらそそくさと先の競技用の部屋へ入っていく。
何が胸の奥でざわざわとしたものを感じた。
不安はその夜、最悪の形で現実となったのであった。
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