第5話

 最後に残った本館は、大富豪だったキャスパー博士の祖父が建てた屋敷で、今は博士と使用人しか住んでいないそうだ。

 内部の造りは豪華だったが、異常に発達した熱帯植物のせいで、ジャングルみたいになっていた。


「うひゃひゃひゃひゃ。探検の日々を思い出すなあ」

 館の主であるキャスパー博士はのんきに笑った。


「お帰りなさいませ、旦那様」

 と、声がしたほうを見ると、螺旋らせん階段のそばにパパイヤの木が生えていた。幹には真面目そうな顔があった。


「げえっ」とフレアが後ずさりした。


「やあ。ただいま」と博士は返事をした。「うちの執事だ。パパイヤなんかになっちゃって。かわいそうだが、元に戻してやる術もない。一思いに刈ってやってくれ、アリス。あとで私が責任を持って食べるよ」


「食べるんですか!?」

 フレアは驚愕の表情を浮かべた。


 アリスは次々に人間草を刈り取って、ジャングルを切り開いた。

 一部屋だけ鍵がかかっていて入れなかったが、ほかの場所の人間草はすべて駆除しし、残すは図書室だけとなった。


「ここに騎士がいるのかしら」

 と、フレアが緊張した面持ちで言った。


「ここに残り二体がいる可能性もある」と博士。


 おそるおそる中に入ると、部屋の真ん中に、白衣を着た青年が立っていた。


「おや? 君はたしか……」


「あなたのせいですよ」と青年は言った。白衣のすそからワサワサとハエトリグサのような腕が生えてくる。「あなたがあんな恐ろしい研究に手を出したから……!」

 青年は博士に向かって猛スピードで突進してきた。


「うひいいい」と博士は本棚の間を逃げ回った。「思い出したぞ! 君はリブリジアに火をつけようとした新人じゃないか! おかげで大変なことになった!」


「だまれええ」と青年はほとんど錯乱状態で暴れまわった。


 アリスは攻撃しようとしたが、本棚が邪魔でうまく鎌がふるえなかった。


「博士! 外に出て!」と、アリスは叫んだ。


 博士が図書室を出ると、青年も後を追いかけた。

「逃げるなあ! 出て来い!」

 彼は叫びながら廊下を走り回った。


 アリスは背後から切りかかったが、青年の反応は速く、ハエトリグサの葉に挟まれてしまった。頭の花びらがヒラっと一枚散る。


「僕は知ってるんだぞ……博士は、あのマッドサイエンティストは、リブリジアを使って自分を」


 ズドオォン!

 と、銃声がして、青年の頭に穴があいた。

 ハエトリグサの力がゆるんで、アリスはするっと抜け出した。

 振り返ると、博士が猟銃を構えて立っていた。


「いいもの見つけちゃった」博士はそう言って、もう一発撃ち込んだ。「さあ、アリス! 今だ!」


 アリスは大鎌をふりかぶって、青年の体を真っ二つにした。

 体内から騎士の首が転がり出て、ハエトリグサの青年は枯れてしまった。


「うひゃひゃひゃ。よくやったぞ、アリス」

 博士はめたが、アリスは少し混乱した。

 これほど自我を持った人間草に会ったのは初めてだった。それに彼が何を言おうとしたのかも気になった。

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