Chapter6 まさかの急接近⁉

 8時43分。


「なんやかんやで、京都線の各駅停車は初めて乗ったな」

 充が今、降り立ったのは、大阪市東淀川区に位置する上新庄駅。

 阪急千里線との乗り換え駅である淡路駅から京都方面へ一駅進んだ所だ。

 上新庄駅は快速、準急、そして各駅停車の普通が停車する駅で、優等種別である特急などは全て通過する。

 京都本線の利用は、大抵、特急か快速急行である充にとって、この駅で降りることはもちろん初めてである。

「もうちょっと乗ってても良かったけど、ただ乗ってる途中でを思いついてしまったからな」

 京都方面のホームから大阪梅田方面へ向かう電車が到着する反対側のホームへ足を進める。

 この先、南茨木駅という駅でに乗り換えをしようと充。

 しかし、その道中、の思いつきにより、大きく方向転換することを決断した。

(これは面白いことになりそうやな……)

 下り線のホームに上がった。

 目の前を快速急行が通過して行った。特急などの優等種別に当てられる9300系だ。

(次の電車は……)

 案内板に表示されているのは、8時50分発の準急、天下茶屋てんがちゃや行きだった。



「皆さま。まもなく5号線に京都河原町方面へ向かう電車が到着いたします──」

 ホームに阪急オリジナルの接近チャイムが鳴り響く中、普通の高槻市たかつきし行きが入線してきた。

 製造から今年で50年となったベテラン車両の5300系だ。

 ホームドアと車両のドアが同時に開き、孝之は降りる人を待って乗り込み、ロングシートの座席に腰を下ろした。

 孝之はこの電車で3つ先の駅、淡路駅へと向かう。

 充が千里線で天神筋橋六丁目てんじんすじばしろくちょうめ方面に乗り換える可能性があるからだ。

 天神筋橋六丁目駅とは、大阪市北区に位置し、阪急と大阪メトロの共同使用駅で、阪急千里線、大阪メトロ堺筋線(堺筋線と千里線は直通運転を行っている)、大阪メトロ谷町線の3路線が乗り入れている。

 この乗り入れ路線のうち、孝之が最も警戒しているのは、谷町線だ。

 谷町線は大阪府守口市の大日だいにち駅から八尾やお市の八尾南駅までを結ぶ路線で、車両の紫のラインカラーが特徴だ。

 この路線の八尾南駅方面へ向かう電車に乗車すると、東梅田駅、つまり大阪梅田へと出ることができる。

 そこから、阪神で尼崎あまがさき、尼崎よりなんば線で難波へと向かう──このような乗り換えを駆使した作戦で逃走を図るのではないか、孝之は頭の中にある路線図からこのような推理を考えた。

 しかし、折り返すかもしれない。

 そこはどう動いてくるか……。

(とにかく、淡路駅で待機しよう)

 電車は崇禅寺そうぜんじ駅に到着した。

 次がいよいよ、目的地、淡路駅だ。

 その時だった。

『8:50 上新庄駅 6号車』

 充からの乗車報告。

「これは──」

 きたかもしれない。


 

 上新庄駅を経った充は、早速、LINEに自分の乗車報告を行った。

 車内は平日だが、それなりの混雑具合だ。

(大丈夫やと思いたいけど、今回は同時発車じゃないからな……)

 上新庄駅を8時50分に発車する電車は、今乗車中の準急以外なく、鬼チームにはすぐに彼がどの電車に乗っているのか特定できてしまい、捕まるリスクがかなり高い。

 ゲーム開始からまだ1時間経過していない。

(ここで捕まるわけにはいかない!)

 犯罪を犯した人物が絶対に考えるワードを頭に浮かべていると、窓の外の景色に巨大な建造物がいくつも現れた。

 淡路駅が近い合図である。

 無数の巨大な建造物の正体は、現在行われている淡路駅の周辺の交通渋滞解消のための高架化工事で、その完成予定はおよそ10年後。

 しかし、当初の計画では2020年に全て完成していることになっていたが、何度も工事が遅れているため、地元からは「いつになったら渋滞が解消されるんだ」と不満の声が出ているらしい。

「まもなく、淡路、淡路です。北千里きたせんり、大阪梅田、宝塚方面はお乗り換えください──」

 緩やかなカーブを曲がり、淡路駅構内へ入って行く。

 充は席から腰を離して、ドアの前へ。

 停車。ドアが開き、他の乗客と一緒に車両の外へと出た。

「さぁ、淡路に到着……えっ、ちょっと待って! ヤバいヤバい!」

 降りた瞬間、充が斜め左方向のおよそ5メートル先に見つけたのは、──見慣れた孝之のシルエットだった。

「えっ、ヤバいヤバい……」

 途端に脈が早くなり、緊張に身体を包まれてしまった。

 果たして、充はこのまま、捕まってしまうのだろうか。


 ☆次回 Chapter7 接戦

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