やっぱりお前がいい

銀じゃけ

第1話



 『諸君、この度は我らユオ隊への入隊歓迎する。これから、この国と隊について簡単だが説明する。心して聞くように。』



 僕の配属しているユオ隊の入隊式。5回目になるけど相変わらず式典になると皆、人が変わったようにきちっとするよね。

 入隊式は退屈だから好きじゃないし、そもそもなんで僕がこの隊に入れたのかすら謎なんだよね。


 僕の住んでいるジェーゴ国は小さな国で、周りを大国に囲まれていて毎日のようにどこかで戦いが起こってる。

 どこの国も自分たちの領土を示すために壁がたてられてるけど、僕たちの国はその壁すら簡単に破壊される。国が小さい分、物資もないからね。

 でも国民は主に国の中央に住んでいて、周りには木とかが生えてるから比較的安全を保障しているんだけど、夜に関しては看守の目も届きにくいし、絶対に安全ですとは言えないからそのために結成された、僕たち夜間警備専門部隊ユオ隊がいる。


 ユオ隊は簡単に言うと夜に国を守る部隊で、2人組に分かれて見回りしてるんだ。それが大体10組ぐらいだったかな?忘れちゃったけど。

 僕たちは夜目が効く人間が集められていて、まぁそれが入隊の絶対条件だし…あ、あと魔法が使えることも条件の一つだね。

 日が沈んだら僕らの仕事の始まりの合図で、日が昇ってきたら終わりの合図。騎士と呼ばれる昼の警備部隊の人たちと変わるんだ。正確に時間は決まってないから夏の勤務は短いけど冬はすごく長い…。

 ちなみに僕は夜でも昼とほぼ同じくらい見える目を持っているけど、魔力量はそこそこで体力がないから戦闘要員には向いていないって理由で、最近はユオ隊本拠地で敵の索敵や書類整理の仕事をメインでやってる。いわゆる下っ端って感じだね。バディって言われてる戦闘員達かっこいいよね。憧れるけど僕にはもう遠い夢のまた夢かな…。


 って僕は誰に説明してるんだ!?

 よし、初心に帰るために自分にってことにしておこう。またぼけーってしてるって言われちゃう。



「おい、フィードなにぼーっとしてんだ?」



 ほらね、やっぱり言われちゃったよ。

 この言葉使いが荒い人がさっき新入隊員に挨拶してた隊長のルイスなんだけど、さっきと全然違うよね…。



「ぼーっとなんてしてないです。僕たちユオ隊について思い出していただけです。」

「ほー。俺の話を聞かずにねぇ。」

「まぁ、まぁ、毎年も同じ事言ってるんだからしょうがないじゃないか。変な事考えている奴らよりはいいと思うけど?文句があるなら毎年違う口上でも述べたらどうだい?ルイス。」



 ルイスを制止してくれたのは、副隊長のガルシアさん。おっとりしてるけど、戦闘では冷静だし、話をすると聞き上手で僕の憧れてる人でもあるんだよね。



「ガルシア…お前何でこいつを庇うんだよ。」

「別に庇っている訳じゃないさ。フィードだって5年も同じ入隊式の口上を聞いていれば飽きるさ。ね?」

「いや、あの…」



 ルイスの圧に押されそうだったから、ガルシアさんが割って入ってきてくれたのは嬉しいけど、2人の言い合いに僕を巻き込まないでください。

確かに5年も同じ口上だと飽きるけど。



「ほら、フィードが困ってんだろ。からかうの辞めてやれよ。」

「そういうルイスだって楽しんでたじゃん?」

「あ、お二人とも僕のことからかっていたんですね。」

「うん。」「まぁ。」

「あはは…。」



 あ、そういう…

 僕はそういういじられキャラ?みたいな立ち位置じゃないと思ってたんだけどな。ちょっとショック。



「隊長、フィードをからかうのはやめにしてもらって、さっき言っていた支給品って何ですか?」



 もうセシリオにまで言われたら僕は終わりだよ?あ、セシリオっていうのは僕の幼馴染で、なんだかんだ面倒見のいい兄貴…は不服だから、弟って感じ。



「あーセシリオか、それはだな、ちょうどいい、これから説明するか。おいみんなよく聞け!なんと国からAI搭載のゴーグルが支給されることに決まった!」



 知らない間に周りに隊員が集まっていたみたいで、あちこちから歓声が上がる。

 AIかぁ~、周りの国ではすでに戦いに使えるレベルのAI機能付きの物資の支給が始まってるって噂で聞いてたけど、ついにこの国にも来たんだね。

 まぁ、僕みたいな下っ端ポンコツ戦闘員には支給されないから関係ないか。



「そして、今回の支給は戦力の拡大の為、国から全隊員に支給されることが決まった。」



 え?全隊員って、僕も入るってこと!?わー、嬉しいような嬉しくないような?僕みたいな非戦闘員がもらっていいのかな。



「ゴーグルは明日の訓練開始時に配布する。その為明日は全員訓練に参加するように。訓練開始は17時だ。それまで各自解散!!」



 AI機能搭載のゴーグルか、僕に使いこなせるかが不安だよね。今の僕じゃただでさえ訓練もまともにできないのに、不安だ…。







 僕たちは夜に活動しているから朝はみんな寝てることが多くて、だいたい17時~18時から僕たちの共同訓練の後、任務に就くって流れなんだね。

 毎日任務があるって訳じゃないから順番に非番がもらえて、3日間もらえる。その人たちは3日間の訓練には参加しないで各自好きにしていい日。

 今日は年に何回あるかわからない全員集合する日。

 

 さすがに全隊員が集まると圧巻だよね。今回は非戦闘員もいるし、少数精鋭といえど30人ぐらい?いるから余計人が多く見える。



「さて、全員集まったようだな。これからAI搭載のゴーグルを配布する。各自取りに来るように。」



 各自支給されたゴーグルを受け取ってまじまじと見てたり、装着してみたりしてる。僕も早くほしいな。



「フィード、はいどうぞ。」

「ガルシアさん、確認なんですけど、僕なんかが受け取っていいんですか?」

「何を言っているんですか。あなたもユオ隊なんですから、受け取ってください。」

「でも僕、非戦闘員ですよ?」

「今回は国から全員へって言われてるんです。それに、これを付けたら世界が変わるかもしれないですよ?」

「世界が変わる…そんなこと、ないですよ。」



 とりあえず必ず受け取らないといけないっぽいから受け取ったけど、見た目は水の中に入るときに使うゴーグルって感じ。ただ、このゴーグルで入ったら絶対に水は防げなさそう。



「よし、全員受け取ったな。それじゃあ説明するぞ。」



 隊長の説明によると、装着者の癖をAIが学習してサポートもしてくれるらしい。まぁ、AIだしね。能力としては周囲の魔力検知だけじゃなくて通信機能もあるらしいんだけど…。今までは戦闘中通信するのに耳に機械を入れないといけないから、片耳がふさがって外の音が聞こえずらいし、常時音が流れてくるわけじゃないから余計邪魔。ずっと声が聞こえてても邪魔だと思うけどね。今回は耳に機械を入れなくてもいいっていうからどんな感じなのか楽しみ。

 それよりも僕にとって魔力検知が一番うれしいかも。索敵している時も自分の見えてる範囲だったら教えてくれるらしいからありがたい。僕の目だったら他の人よりも遠くまで見えるはずだし、これで僕も少しは役に立てるといいな。



「さて、説明は以上だ。ここからは実際に使ってもらう。俺も初めて使うからわからないことがあれば全員で共有して解決していくぞ。いいな?」

—はい!!


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