第6話 酒場の情報

 ゲイルとジークは予定通り北の町の宿場で落ち合うと酒場に出向いていた。

「そっちはどうだった?」

「いい武器を仕入れてこれた。これでドラゴンを討伐しに行ける」

 ゲイルは以前まで愛用していたハチェットは、オークエンペラーとの戦闘の際に刃こぼれを起こしていた。前にいた町の鍛冶屋に「このレベルのハチェットの刃を、研ぎ直せるほどの技術を持っている砥匠としょうはいない」と言われ、愛用していたハチェットの使用を諦め、新しい得物を探しに武具屋に行っていた。ゲイルの顔を見れば満足そうにしているところからも、相当な業物を仕入れることができたことが伺えられる。

「こっちも情報は手に入ったが、あまりいい情報ではないな」

 ギルドの副マスターから仕入れた情報をゲイルと共有する。

 ドラゴンが下山しようとする兆候はまだないが、数日中に雨が降る予報が出ている。雨が降ってからドラゴンの怒りを買い、下山し町を襲う可能性が極めて高い。もし、そうなってから討伐隊や撃竜設備を動かしたとしても町が壊滅することを免れるとは思えない。

「つまり、できるだけ早い内にドラゴンを倒す必要がある。だけど討伐隊をまだ動かせない。ってことか?」

「ああ。そういうことだ」

 動けるギルドナイトを連れて行くとしても、討伐までは厳しいだろう。

「お、あんたらも討伐隊に参加する口か?」

 酒場で話しているからか、ゲイルとジークの会話を聞いていたらしい男性とそのパーティメンバーが二人に声を掛けてきた。

「ああ。そのつもりだ」

「え? 違……むぐっぅ」

(お前は喋るな。討伐隊の情報を仕入れるぞ)

 余計なことを言おうをするゲイルを押さえつけ、喋らないように通告する。

「あのドラゴンは数年前にも現れたらしくてな。そんときは雨が降る兆候もなかったから山に立ち入り禁止しになっただけだったんだ」

 御伽話のドラゴンと呼ばれるきっかけは、数年前に現れた時についた呼び名であり、北の町に元々あった赤龍伝説から取られたものらしい。

「その竜の言い伝え自体、眉唾物って扱いだったってことらしいが、数年前に現れた個体と今回の個体がもし同一個体だとしたら、言い伝えの通り英雄が竜を退けることになるらしいぞ」

 ゲイルもジークもその男性は竜殺しの英雄として名を馳せたいような雰囲気を感じ取っていた。

「だったら、あの竜が襲ってくる前に倒しに行かないのか?」

 ジークはドラゴンの討伐に向かう気配のない男性を煽るように聞いてみる。

「バカ言うな。アレをアイツの領域内テリトリーで倒せる程の強さは俺たちのパーティにはない」

 この男は自分達のパーティの実力を客観的に判断した上で、ギルドの討伐隊として戦うことを選んだようだった。

「そうか。なら俺たちとは感覚が違うな」

 ジークたちは明朝には山に向かい、ドラゴンの様子を窺う予定である。

 観測隊がドラゴンの様子を観察しているが、あくまでそれは北の町に有事が訪れる前に伝達するためのものであり、交戦するためのデータを収集する目的ではない。そのためもし仮にドラゴンが町に下りて来た場合、ほぼ犬死することになる先鋒部隊をに防衛戦線を下げながら戦闘し、本隊となる迎撃拠点での討伐を目指すことになる。ギルドナイトを多少犠牲にしてでも防衛しきれれば、ギルドとしてはドラゴンから町を防衛できる組織として名をあげることができる。

「ゲイル。帰るぞ。明日は早くに出る」

「了解。んじゃ、宿に帰りますか」

 二人は男性を置いて、宿の方に歩いていこうとする。

「も、も、もしかして、君らはドラゴンを狩りに行くとでも言うのか⁉」

「何言ってんだ? 最初っからそのつもりだ」

 ゲイルは捨て台詞のように真実を告げて宿の方に歩いていく。

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