第4話 装備調達
ゲイルはジークと別れると、一人武具屋に来ていた。
ドラゴンの出現に伴い、弓矢や撃竜兵器として運用できそうなものはほとんどギルドで買い取られ、武具屋に置かれてはいなかった。もっともゲイルが探しに来ていたものにはギルド職員は買い取って行かなかったようだ。
(ふむ、剣も槍も斧もある。ただ、どうもな)
ウェポンマスターとして武器の目利きはジーク以上にあるが、その目を以てしても良い武器以上の物は見つからなかった。
良い武器はある。しかしそれでドラゴンの鱗を貫けるというわけではない。ゲイルの能力を踏まえても、ギリギリ通るかどうかと言うラインである。
「こいつらじゃキツイよな」
均一価格で売られている剣が入っている樽から離れると、これまた均一価格で売られている槍に目を向ける。
相当数の槍が入れられているが、そのほぼすべてが似たり寄ったりなものであった。
「こいつも、この値段でいいのか?」
同じように樽に入った一本の槍を店主に向けて掲げる。
「ほう。なんでそう思った」
店主がゲイルに興味を持ったように質問する。
「こいつは他のやつとは質が違う。なんつーか、見た時点で他のとは全然違う作り込み? オーラ? みたいなのを感じんだよ」
ゲイルのこの言葉に店主は負けたというように諸手を上げる。
「いい目をしてんな。ここに来る奴等とは雰囲気が違うから、もしかしたらと思ったがその通りだったな。そいつは
「いいのか? オレが使うとすぐに壊れるぞ」
「上等だ。テメェの力で壊せるもんなら壊れるまで使い潰してやれ。どうせテメェは
店主はゲイルが何を目的に武器を探しているのかを見抜き、それに耐えられる武器を探しに店の奥へと入って行った。
その間ゲイルは他に使えそうな武器がないか見て回るが、普通の武器として使う分には申し分ない。むしろ一生モノとして使い込めるくらいには、上等な得物ばかりである。しかし、竜殺しとなると中々に厳しいものである。竜の鱗一枚剥がしたところで刃こぼれし、使い物にならなくなるのが関の山である。
「奥に引っ込んでて出すのに手間取ったが、こいつも一緒に持ってけ。銘を
店主が店の奥から持ってきたのは、一振りの刀であった。丁寧に拵えられた鞘から刀身を抜くと、すらりとした実戦経験があるとは思えない綺麗な片刃の直刀。実戦用というよりも、儀礼用もしくは観賞用の武器として見た方が正しいようなものである。到底竜の鱗を貫けるような代物には見えない。
「本当にこいつ斬れんのか?」
竜殺しの武器として使えるようなものと思えないようなものを、持ってきた店主に疑いの目を向ける。
「ああ、切れ味だけは保証していい。だが」
切れ味の保証は出来るが、それ以外に問題を抱えていると言いたいような雰囲気が店主から伝わってくる。
「どうせ、この剣が所有者を選ぶとかそういうのだろ? それなら試していくか」
ゲイルは軽いノリで店主が持ってきた刀を手に取る。
「どうだ?」
「ん-、良い刀じゃねえか。まだ試し切りした訳じゃねえから何とも言えないが、それでも大業物なのは間違いないな」
なんともなさそうに刀を手にするゲイルに店主は驚きつつも、裏手にある試し切り用の巻藁が置かれている演習場に案内する。
軽く何回か素振りをし、刀の重さに体を慣らす。
巻藁を立て、その前にゲイルが立つと、そのまま刀を袈裟切りで振り下ろす。
「なっ、なんだと⁉」
「……嘘だろ?」
ゲイルは一切の抵抗を感じることなく、巻藁を真っ二つに斬り裂いていた。巻藁はおおよそ人体と大して変わらない抵抗を、持っているはずのものである。それを簡単に斬り裂けるということは、人を簡単に殺せる刀であることの証明である。しかも、ゲイルはまだ魔力を刀に通しているわけではない。ただこの刀の切れ味だけで、人を簡単に斬りふせられる武器であることに他ならない。
「この切れ味なら竜殺し《ドラグスレイブ》も出来そうだな。本当にこれも
これほどの大業物を無料で寄越すとなると、気前がいいを通り越し何か別の物があるように感じてしまう。
「どうせドラゴンを屠るか、撃退しなけりゃ、この町に未来は来ねぇ。だがらそいつをしっかり竜殺しの役に立ててくれよ」
この武具屋の店主はドラゴンがこの町に侵攻してくることを知り、それでも自分の店に来る戦士のために、この店を開き続けていた。
「当然だ。竜殺しのためにここに来てんだ。ドラゴンを捻り潰して帰って来るから、そん時はドラゴンの素材で武具拵えさせてやるからな」
ドワーフの店主を指差し、確実に討伐して帰ってくると言い武具屋を後にした。
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