ウェポンマスターとアークウィザードと
みない
第1話 オーク討伐戦
「クソ虫が舐めんなぁぁぁ!」
洞窟内に男性の怒号が反響する。
オークの群れを駆逐しに来た、二人組の青年の一人、ゲイルが襲い掛かって来たオークを返り討ちにしながら洞窟の奥へ奥へと進んでいた。
「……はぁ、喧しい。もう少し静かに出来ないのか」
ジークは先行して突っ走るゲイルを傍目にオークの討伐証明部位を拾いながら、オークの鮮血と、ゲイルのハチェットで刎ね飛ばされた四肢が、四方八方に飛び散らかっている洞窟を奥へと歩いていった。
この洞窟の近くにあるエルフの集落がオークの襲撃を受け、数人の女性エルフの誘拐もされたらしい。その結果ギルドに緊急任務としてゲイルとジークに仕事が回ってきた。
Aクラスのギルドナイトとして活動している二人はソロでの行動が多かったが、ここ数週間ほどギルドの上層部からの任務を受けるために二人でパーティを組み活動していた。今回の任務も、連携を取って行動することを意識する必要のあるオークの群れの討滅任務をギルドが二人に回してきた。
「さて、どうするか」
ゲイルが走っていった方向とは別の通路から人の気配がする。洞窟内の構造はゲイルと共有しているから、ゲイルと分担してオークの殲滅と人命救助に入ったほうがいいと考えていた。しかし、ゲイルの走って行ったほうから上位種のオーク、オークキングが一体とオークシャーマンが複数体。少なく見積もっても三体以上の気配を感じ取っていた。
ゲイルの実力を考えれば、オークシャーマンが複数体いたところで問題ないだろう。しかし、そこにオークキングがいるのであれば話は変わる。指揮官となるオークキングがいる以上手間取る可能性が高いだろう。場合によっては返り討ちに会う可能性すらあり得る。
「まあ、こっちは後回しでいいか」
生きているかわからない人命救助よりも、Aクラスのギルドナイトの方が損失が多いとジークは判断し、ゲイルの走って行ったほうへと急ぐ。
ジークが走ってゲイルに追い付くと、ゲイルは通路から大広間を観察するように壁に張り付き中の様子を窺っていた。
「やっと追いついたか。アレを見ろ」
ゲイルが大広間の方を指差す。
そこには数人のエルフとそれを捕縛しているオーク。そしてそれを監視しているオークキング。三体以上と踏んでいたが、七体のオークシャーマンがそこらをうろついている状態である。このような状態ではゲイルも正面から突っ込むという選択をできなかったようだ。
「どう攻める?」
「難しいな。なんとか視線を逸らせないと突っ込む隙すらないな」
シャーマンが絶えず動き回っている以上、迂闊に手を出せば返り討ちに会うのは目に見えている。
「下がりながら叩くとかか」
ゲイルが策を考えるが、ジークは眉を顰める。
「難しいだろうな。シャーマンが魔法を使う以上、ある程度距離を取られる」
警戒心の高いシャーマンを相手に罠を仕掛けるのは難しい。それをゲイルも理解している。慎重なシャーマンを分断しようにも、キングが指揮するシャーマンを相手に付け焼刃の分断策が機能しないことを知らないほど、オークとの戦闘経験がないわけではない。
「だな。なら、どうする?」
正面から突っ込むのは難しい。罠を仕掛けるにしても、シャーマンとキングを分断する手間を考えると、やりたくはない。
「そもそも、シャーマンとキングを分断するだけなら、魔法で十分じゃん」
ジークはゲイルに思いついた策を伝える。
「バカじゃねぇの? だけど、面白れぇのは違いねぇ」
ゲイルもノリノリでジークの考えた策に乗る。
合図は一番キングに近いシャーマンが捕虜から距離を置いた瞬間。
その一瞬で、ゲイルがキングを討ちに行く。ゲイルにシャーマンの目が行けば、あとはジークが後ろからシャーマンを落とすだけ。七体居ようが十体居ようが、キングの指揮のないシャーマン如きに後れを取るようなことはない。
ほどなくしてシャーマンが捕虜からある程度距離を置いた。
「ゴー!」
ジークの合図でゲイルが通路の入り口から身を乗り出すと、魔力による身体強化で強化した脚力を活かし、一瞬でキングの元に辿り着く。
「キングの首、貰いに来たぜ?」
オークキングの首を狙い、ハチェットを振り落ろす。しかし、それはキングの腕で止められてしまう。
『ブオオオオオンォォォン!』
シャーマンに向けて号令をかけるが、それで動くシャーマンは既に二、三体しかいなかった。
「もう遅いぞ」
キングが反応しないシャーマンを確認しようとしたときには、ゲイルのハチェットがオークキングの首を刎ねとばしていた。
シャーマンの目がゲイルに向いた瞬間から、ジークはウィンドカッターでシャーマン数体の首を斬り飛ばしていた。大広間にいたシャーマンの注目が一ヶ所に集中すれば、背後から音も無く殺すことなどジークには造作もなかった。一体のシャーマンが、近くにいた仲間の首が落とされたのに気づいたときには、キングに襲い掛かるゲイルではなく、自分達の背後にいる敵の方が危険だと自分の首が地に落ちてから気づいていた。
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