願い事

笑門みら

願い事

願い事


 四つ葉のクローバーを見つけると、幸せになれる。


 こんな迷信は、僕たち四つ葉のクローバーにとって大変迷惑なことである。正確に言葉を理解して欲しい。誰も“持っていると”とは、言っていない。“見つける”だけでいいのだ。四つ葉

のクローバーを見つけると、「あっ、ラッキー。」とか言って、摘み取ってしまう。


 「はぁー。」


そんなことを思っていると、自然にため息が出てしまう。


「どないしたんや?」


面白い口調で話し掛ける主は、僕の友人。


「まさか、またあのことを考えよったんと、ちゃうやろな?」


僕は、小さくうなずいて聞き返した。


「君は、何とも思わないのか?」


「そんな事より、あの水玉模様の赤い服の姉ちゃんに、どう話し掛けたらいいのか、一緒に考えてぇな。」


「・・・こいつ絶対長生きしそうだ。」


「なんか言ったか?」


僕は、慌てて、「何も。」と言い、思考を前に戻そうとした。


「僕らはそんな力持ってへんのに、人間はアホやさかい。そんな迷信を信じとるんや。自分の幸せは、自分でつかまな。」


と目でテントウムシを追いながら友人は言った。確かに、僕らは他のクローバーより葉っぱが一枚多いだけなのに、幸せを運ぶクローバーなんて呼ばれるのは、おかしい話だ。


「そうだよね。それに、人間の幸せより、自分のことで手いっぱいだよね。」


と言い返すと、


「でも、起きるとも確定せぇへんことを、うじうじ考えてるお前のほうが、もっとアホかもな。」


と言われ、緑色の葉を赤くして友人をにらみつけると、友人は笑い出した。すると、


「あっ、四つ葉のクローバーがある。二つも!!やったー。」


 しまった。見つかってしまった。髪を三つ編みにした女の子が、嬉しそうな顔を向けていた。


もう終わりだ、と思っていたら女の子は両手をパンパンと叩いて、


「お母さんに昨日の0点の答案用紙が見つかりませんように。」


と言い終えると、微笑んで行ってしまった。


 僕たちは、あっけにとられボーとしていた。


「可愛い姉ちゃんやったな。」


と、友人は緑色の葉をまっ青にして言った。


「お前、葉が青くなってるぞ。」


と言うと、


「そうや。どこかに黄色に変わる奴おらへんかな?信号トリオができるで。」


と、とぼける友人を見て僕は笑いながら言った。


「僕たちは何もできないけど、あの子の願いを叶えてあげたいな。」


「そうやな。」


青く澄んだ青空を見上げながら、僕たちは女の子のことを思った。


 女の子がその後、別の答案用紙が見つかり、こっぴどく怒られてしまったことをしらずに・・・。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

願い事 笑門みら @8saku_m

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る