本の虫研究室

霧谷 朱薇

観察手記と日記帳 Ⅰ

 大陸暦××××年六月八日。

 白銀の大地に建つ研究所の最奥で、ある科学者が不可思議な生物と出逢った。






【科学者の観察手記】



 被験生物の記録 №1


 仕事の合間に行っている実験の経過を見ていた試験管の中身が忽然と消えている。

 そして、試験管の棚から文献へ向かって何かが這ったような痕跡がうっすらとあり、文献の上には見たことのない黒い物体、……否、生物らしきものが寛いでいた。

 非現実的な仮説を即席で立てるとすれば、プランクトンが突然変異し可笑しな生物へと姿を変えたのかもしれないが……仮にそうだとしてこの生物の大きさは小指ほどだ。

 昨夜まで試験管の中身に変化は無かったし、流石に短時間で急成長しすぎではないだろうか。


 生物の躰を観察してみると色は全体的に黒く、頭部と思われるところからは触覚のようなものが四本生えている。

 躰の大きさは小指ほど、体毛は短いが躰全体に生えているのが確認できた。

 何匹もの蛇が絡みついて一つの塊になっているような、なんとも不思議な形をしている。

 何かの幼虫なのだろうか。


 何にせよ、今日からこの生物を観察し記録を付けるていくことにした。

 “本の虫”、通称“テップ”と命名。

 まぁ、そう名付けたのは弟子なのだが。

 テップは微動だにせず文献の上にいる。



 ◇◇



【弟子の日記】



 六月八日


 先輩が謎の生物を生み出してしまった。

 以前××海の海水を検出したが、その海水中にいたプランクトンが薬品を体内に取り込み、突然変異したのではないか、というのが先輩の見解のようだ。

 上にはまだ報告はしないらしい。

 俺はその生物にテップと名付けた。

 意味は特にない。

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