フラグゲッター

 リョウ・エイフールは、ソワソワしていた。ソワソワソワソワしていた。どれくらいソワソワしているかと言うと、エロ本を初めて買った時くらいソワソワしていた。

 いよいよ、フラグゲッターの時間……しかも、好きな子と友達と。

 打ち合わせ、と言うほどではないが、友達とリョウが良いとこ見せる、という風に約束したし、これで何とかなるだろう。

 現在、スタート前の時間。オフェンスとして旗の周りにでも、一番陣地から早く出られる場所で待機していた。

 その中のカエデに、イケメンクインが励ますように声をかける。


「楽に行きなよ、カエデ。リョウは良い腕してるから、なんとかなるよ」

「うん、超任せろし」

「いざとなったら、マサオミは見捨てて良いからね。て言うか、ちょこちょこしてて邪魔ならマサオミを撃っちゃっても良いから」

「おっけー!」

「……」


 ……本当にリョウも少し引くけど、なんでクインは正臣にだけ当たりが強いのか、未だかよくわからない。

 いや、理由はわかると言えばわかる。プライドが高い上に、たまにぐさっと来ることを言う正臣に腹を立てる理由はわからなくもない。

 ……でも、やっぱりちょっとなんか不思議だ。なんだかんだ仲良さそうに見えるのだから尚更。

 一方、言われている正臣は少し複雑そうな顔をしている。そりゃそうである。


「あー……ま、マサオミ。平気か?」

「あ……だ、大丈夫だよ、リョウ伯爵」

「呼び捨てにしろって言ってんだろ。てかなんで貴族の階級?」

「最近ね……その、前の世界……じゃない、ま、前々から考えてた悪口に対する耐性の付け方を思いついて……」

「へぇ、どんな?」


 ちょっと気になる。ドッジボール部の先輩は基本、捻くれているので、何かの参考になるかもしれない。


「その……あ、相手をね……幼稚園生くらいの男の子だと思えば良い、と思う。そのくらいの……そのくらいの素直じゃない男の子なら、構って欲しくて色んな人に強く当たったりするから……」

「君、今まで僕をそんなふうに思っていたのか!?」

「ひぃっ!? じ、地獄耳……!」

「お前だけほんとに実弾で撃たれちまえー!」

「やばっ……逃げなきゃ!」

「いや逃げんなお前!? もう始まるから!」

「お、オーキスくんも落ち着いて……!」


 鬼ごっこが始まりそうだったので慌てて止めたが……今のは正直、正臣が悪い。流石に言い方がある。


「マサオミ……調子に乗るなよ。僕は絶対に君を倒す……!」

「はいはいもう分かったから……お前ももうこっち来い」


 また正臣が煽られて何かほざく前に、連れて場所を変えた。こいつら本当に見る限りは仲悪いのだが……それでも必ずどこかで絡んでいるのだから不思議だ。

 まぁ、でもこういうやり取りができるうちは悪いことではないのだろう。お互いにシカトし始めてからの方が大変だ。

 とりあえずクインから離れられたし、改めて三人で話し始めた。


「うしっ、とりあえず隠密行動な。敵に見つからないように動いて、先制攻撃で必ず相手を落とす」

「はーい」

「う、うん……」

「じゃ、本番じゃ俺についてこいよ?」


 作戦は単純。見つからないように進み、敵を倒す。四人倒した時点で陣地に戻り、可能な場合のみ敵を倒して撤退。少なくとも絶対にカエデを囮にしたりはしない。

 無事に戻って来れたら、いや戻って来れなくても次のオフェンスがまた突撃し、する少しずつ敵のディフェンスを削り、旗を奪うのが重要だ。

 さて、そんな話をしている間に、いよいよスタート時刻。全チームの旗がある位置に魔法でハンカチが飛んで来た。

 クラスのリーダーであるクインがそれを拾い、中を見る。

 中身を読んだ直後、全員に視線を移し、静かに告げた。


「スタートだ」


 直後、オフェンス三人は突撃し、そして他全員が配置についた。

 正直、やってて楽しいのはドッジボールだけど、見てて面白いのはフラグゲッターだよね、と思うリョウは、このゲームについて色々調べていたこともあった。

 その上、肉が賭かっているこのゲームをやると分かった時からは、さらに研究して来た。部活停止になってからは暇で仕方なかったし。

 そのためにもまずは……速攻で敵の陣地に入ることだ。


「走れ! 急げ! ……で、敵陣地の木に身を隠せ!」

「了解ー!」


 狙い撃ちされやすいのは、陣地の境。敵は馬鹿でもない限り、陣地の境ギリギリで身を隠しているだろう。

 そして、敵が踏み込んできた瞬間、蜂の巣にする。

 その前に、こっちは向こうの陣地に着いてしまえば、その後の仕事はとても楽になる。

 ただでさえ、ステージは森の中。木だけじゃなく所々は草も生い茂っていて、しゃがめば隠れられるところだってある。

 つまり、向こうに到着すれば、場所次第で隠れられるのだ。


「よし、後少しで着く……人影も見えない!」

「だね。このまま……あれ?」

「突っ切れ!」

「ま、待って待って! マサオミくんがいない!」

「は?」


 言われて振り返ると、いるにはいる。……だが、自分達より10メートルほど後方でヨタヨタと脚をもたつかせていた。


「ち、ちょっ……ま、待って…ヒィッ……なんで、そんなっゼェっ……足早っ……!」

「「……」」


 まだ50メートルと少しくらいしか走っていないはずなのだが……なんであんなにもたついているのか?


「おい、何してんだマサオミ! 早くしろっつーの!」

「ちょっ、ま、魔法……使わせっ……おぉえっ……!」

「……あーもうっ! 仕方ねえな!」


 慌てて引き返してマサオミをおんぶし、敵の陣地に三人で潜り込んだ。

 運が良いのか悪いのか近くには茂みがあったので、その中に三人で飛び込む。その直後……足音が聞こえて来た。


「来てる? 二組きてる?」

「来てない! 狙われてないっぽい!」

「よーしよしっ、とりあえずクリア」


 そんな声が聞こえる。どうやら自分達が狙っている一組のディフェンスらしい。

 ゲーム開始から、およそ30秒。早くもオフェンス三人は敵に囲まれた。


 ×××


「全員、木を遮蔽物にして下手に顔を出さないように! 姿が見え次第、射撃して!」


 クインの指揮の元、二組と同じように速攻を仕掛けてきた三組と四組を弾いていた。

 他のみんなが木の影に隠れる中、クインだけは堂々と姿を晒す。

 クイン・オーキスという生徒は、家柄や見た目からかなり目立つ。だからオフェンスにも参加できなかったわけだが、それ故に使える作戦もある……。

 目立っているクインに、敵は集中する。


「!」


 クインに向かって飛んでくるペイント弾。が、それに対してクインは用意しておいた木の枝でガードする。

 ペイント弾とは、ペイントする弾丸を射出するのではなく、水鉄砲と同じ仕組みで色付きの液体ということだ。

 基本的に銃は中の弾に浮遊魔法による慣性で、高速で射出するため、普通は見てから避けられないが、水鉄砲は浮遊魔法をかけ続ける。

 その上、引き金を引き続けると中の液体が空になるまで出続けると言うことだ。

 スピードの制御は出来ないが、多少ならば魔法で曲げることは可能である。


「……っ!」


 バックステップをしながら、その水に対し銃を向け……相殺した。

 水と水が押し合いになる中、ガサガサっと左右から音がする。すぐに位置を把握した。


「8時と3時!」


 その号令とほぼ同時、木の後ろからクインを狙っていた三組の生徒に、木の上から二組のディフェンスが水鉄砲を叩き込む。


「嘘っ……!?」

「マジ……!」


 これで二人、と思いながら、水鉄砲の軌道を地面に逸らさせる。もうこれで、どちらかが押し勝とうと当たらない。

 そうお互いに判断し、引き金を引く指を緩めながら銃口をすぐにお互いに向け合う。

 パシュッパシュッ、と二つの射出音。液体が飛んだ先には、三組の生徒の胸はカラフルに汚れ、そしてクインは……体を逸らして避けていた。

 三組のオフェンス、全員脱落。二組の脱落者無し。

 その結果にホッとするまでもなく、クインは手元で水鉄砲をクルクルと回しながら、腰に差した。


「……あと四組」


 そう告げた時の仕草と視線で、二組の女子はみんな目がハートになっていたが、クインは何一つ気付かずに警戒を続けた。

 こんなことで喜んではいられない。正臣はきっとかなりの戦果を上げてくる。だが、負けない。奴が完璧にオフェンスを終えるなら、クインはもっと完璧にディフェンスをこなしてやるだけだ。


 ×××


 茂みの中、外の一組の生徒達がウロウロする中……オフェンス三人は揃って身を屈めていた。


「……どーすんだよ。もうかれこれ10分くらい動けてねーぞ」

「12分……」

「細えな。てか数えてたのかよ。あと多い方が良くねーだろこういうの」

「ねぇ……まだここにいなきゃダメ? 髪とか超汚れるんだけど……」

「わ、分かるけどダメだっつの……今、動いたら蜂の巣にされて終わりだ」

「……実際はぐしょ濡れ……」

「分数も実害もどうでも良い……!」


 そんな事をヒソヒソと話す。見回りしている連中の配置は何となく見えているが、何となく構成は分かった。

 こっちに来てから、ディフェンス組のメンバーは半分は木に登り、もう半分はウロウロし始めていた。

 つまり、ウロウロする側は餌。最初から監視している木の上のメンバーで抑える。

 ……つまり、こうして上から見えない草の中で身を隠している自分達はイレギュラーなわけで。これは有利を取れているのかもしれない。

 ちなみに、ヒソヒソ声がバレていないのは、敵の地上班も割とおしゃべりしているからだ。

 これの有用性には、リョウも気付いているよね? と、視線を横にずらすが……。


「てか、いつまでこうしてんの? このままだとうちら何も出来ないけど」

「そ、そんなん言われても仕方ねーだろ周りに敵いて動けねんだからやむを得ず致し方なくこうなっているわけで可能な限り動かない方が高い肉を食べられる可能性がメキメキ上昇するから」

「いや早口で何言ってるか分かんないんだけど……」


 ……好きな子と密着出来ていて、普通にリョウはウキウキしていた。こいつ……と、普通に割とドン引きである。

 とはいえ、正臣に何か言う権利はない。三ヶ月、狩猟で鍛えたので転生直後の、ヒョロガリなのに贅肉だらけの身体よりはマシになったが、基本的に魔法に頼りきりで仕事をしていたこともあって、基本的に運動神経は悪い。ただ、反射神経は鍛えられた。

 まぁ、何にしても、このままでは自分のクラスの作戦が台無しだ。

 なんだか、野球で投手が「打者の援護がなくて調子を崩す」という意味を少し理解出来た気がした。

 まぁでも、じっと観察できたこともあって作戦は頭の中に出来た。

 リョウのアホはこのままを望んでるっぽいし、カエデに作戦を考えられるとは思えないし、もうここからどうこうするのは自分しかいない。


「しりとりしない?」

「良いよ」

「りんご」

「ゴルゴン」

「やりたくないなら言えよ」

「あ、あの……一応、だけど……作戦は考えた、よ……?」

「マジか」

「どんなん?」


 カエデも聞こうとしてくれていた事に少し安堵しつつも……しりとりが盛り上がらなくてよかった、という意味でも安心してしまう。


「こ、ここから少しずつ……そうだな、まずは5分おきくらいに液体を射出して……」

「敵に当てんのか?」

「え? あ、いやっ……当てなくて大丈夫……ていうか、絶対に当てないで……そ、それで……えと、て、敵に見つかりにくい場所に」

「? それ意味あんの?」

「うっ……あ、いや……あ、あるけど……」


 作戦は頭の中で出来ているが……上手く説明できる自信がない。何せ、上手くいく根拠もないし、博打にも近い。

 言っても理解されないんじゃないかな……と、言い淀んでいると……真ん中のリョウがため息をつきながら言った。


「ちゃんと聞いてやるから話してみろ。案を採用するにしてもボツるにしても、聞くくらいしてするから」

「ー!」


 そうだ……上手く伝えられるか否かで悩んだ結果、どうせ伝わらないなんて決めつけるのは良くない。

 伝わるように頭の中を整理し、ちゃんと説明すれば良い。

 深呼吸し、頭の中で整理しながら……何となくリョウに感謝しつつ、作戦を説明した。


 ×××


 教員達は、競技範囲の外側で生徒達を見張る。範囲から出てしまう生徒はいないか、逆に外から範囲に入り込む動物はいないか、それらをしっかりと管理する。

 ……で、ついでに、中の様子をちょいちょい確認しつつ、スペル魔法で遠距離から会話という手段で、教員の間でマウントを取り合うわけで。


『テメェら汚ねえぞ! 俺のクラスだけ集中狙いしやがって!』


 送り先はライト・イハートとアイザック・アップル。序盤で三組と四組の生徒が同時に二組に来たのは、アルバを蹴落とすためだ。


『当然でしょー? 最初はラフプレーを進んでやろうとしていた人のクラスなんだからー』

『当然だろ、この教員にあるまじきバカめ。というか、貴様はこの前の飲み代も私に押し付けてまだ返していないだろう。絶対にミノタウロスは渡さん』


 二人揃ってそんなことを言い始める。双方とも全くその通りなのだが、悲しいかな。アルバは逆ギレのプロだった。


『知るかバカども! だからってお前ら他党を組んで一クラスを狙うとか大人として恥ずかしくなーのか!』

『アルバカが言わないでくれますー?』

『アルバカが言うな』

『人の名前と暴言を繋げてんじゃねーよ!』


 一応、作戦は伝えた。鉄砲玉に近い作戦ではあったが、一番現実的だ。

 外側から見える様子には限界があるからオフェンス三人がどうしているのかは分からないが……何となく嫌な予感がする。


「大人げねェ奴らめ……あいつら、本当に大丈夫なんだろうな……?」


 そんなことを呟きながら、持って来た漫画を読みながら見張りをしている時だった。

 ふと目に入ったのは、範囲の外側。動物がモゾモゾと動いている。確か名前は、ブルーベアー。臆病な性格故に攻撃的で、その膂力は裏拳で大木をへし折るほどだ。

 あれが範囲に入ったらまずい。杖を抜いたアルバはクマに向けたが……どうも様子がおかしい。足元が妙にフラついている。


「……」


 何にしても、近寄らせるわけにはいかないので……浮遊魔法でこっちに連れて来た。


「っ!?」


 連行されたブルーベアーはすぐに驚き、アルバを見るなり唸り声を上げたが……アルバはそれに対し眉間に皺を寄せ、それ以上の威嚇を見せる。


「だーってろ。殺すぞ」


 そう呟いて大人しくさせると……脇腹が目に入った。そこから血が流れており、小さく尖った石が減り込んでいる。……おそらく、銃に使う弾だろう。温度魔法による高熱と威力の上昇効果がある奴。


「我慢しろよ、クマ公。よっ……と」


 それを、摘出した。この一発だけっぽいので、こいつはポケットに入れておく。

 さて、その上で、消毒液で拭いてやった後、生徒が怪我した時用の包帯でクマの傷口に当てる。サイズがでかいので、持っていた包帯を全て使い切って巻いてしまった。


「うしっ……まぁ、これで良いだろ。オラ、行け」


 そう言うと、ブルーベアーは逃げるようにさっき来た道とは別方向に走り去っていく。

 生徒用の包帯がなくなってしまったので、現地に来ている副担任に持って来るようスペル魔法で手紙を送った。

 さて……周囲に目を配る。この三日間はこの森には校外学習が来ると言ってあるから、ハンターはいないはずだ。

 つまり……密猟者がいるかもしれない。


「……」


 警戒しておくことにして、とりあえず今は漫画を読み続けた。


 ×××


 本当にうまく行くのか? と、リョウは少し疑心暗鬼気味だった。まぁ、うまく行くと思わないわけにはいかないわけだが。

 既に正臣が言った通りにペイントはそこそこの箇所に広がった。

 後は……バレる前に、一人を落とす。


「じゃあ……行ってきます……!」

「気を付けてねっ」


 気合いを入れた正臣が……下から一人の胸に照準を合わせ、射出した。


「えっ?」

「どした? ……は?」

「え、な、何それ?」

「てかまって、さっきからめっちゃ撃たれてないか俺ら?」


 一人が急にアウトになったことにより、周囲の人間も困惑する。周囲に散らばっている液体が視界に入り、余計に混乱が広がっていた。

 その隙に、正臣は豪快に草から姿を飛び出させ、水鉄砲を構えた。


「!?」


 さらに一人を穿った後、その後は適当に乱射して周囲を怯ませながら、正面から突撃した。


「! アンモナイトか……!」

「単品とかなめてんのか!?」

「やれ、殺せ!」


 敵の群れの間を走り抜けていく正臣の足はとっても遅いが、的が小さいので中々、当てられていない。

 木の上からの攻撃も運良く避けていた。

 当然、周囲の一組の生徒も後を追う。……つまり、リョウとカエデに背中を向けたわけだ。


「行くぞ」

「うん……!」


 二人とも草から顔を出し、銃を構える。音が聞こえて追いかけていたメンツが足を止め、振り返ったのは良い的になってくれた。


「オラオラオラっ!」

「めっちゃボーナスタイムだし!」

「まだいた……てかいつからそこにいたんだよ!?」

「やばっ……!」


 さらにリョウが四人、カエデが二人倒し、合計で八人撃破した。

 だが当然、敵もやられっぱなしじゃない。撃ち返して来て、リョウがカエデの腕を掴んで近くの木に身を隠した。


「っぶねぇ……! 戻るぞ陣地」

「は!? マサオミくんは?」

「無理だろ、助けに行くのは。今戻らねーと全滅するぞ」

「えー……や、そうかもだけど……」


 チラッ、とカエデが森の奥を見る。まぁ……確かに損な役回りをさせたのかもしれない。

 いや……だが、ここで行ったって意味ない。絶対助けられないし、落とせても一人や二人。勝てる気がしない。

 ……いや、もう迷っている時間はない。仕方ないので行くことにした。


「じゃあカエデだけ先に戻れ。俺が行く」

「え、なんでアタシだけ?」

「全滅したら意味ないから。ほら、早く!」

「はーい」


 そのままカエデを見送り、リョウは深呼吸してから正臣の後を追った。


 ×××


 で、それから二時間が経過した。


「なんで二組で真っ先に君が落とされるんだ!」

「お、囮やるしかなかったからだよ!」

「僕が倒すまでに他人にやられるなよ!」

「そ、そしたら一生負けられなくなる気が……」

「はああああああ!? なんだとこの野郎おおおお!!」

「い、痛たたたた!?」


 勝ったのに、正臣はクインにコメカミをグリグリと攻められていた。

 いや、なんかほんとにガキっぽい理由で正臣には突っかかる奴だな……と、小さくリョウはため息。

 結局、あの後はリョウは助けることも叶わずに二人揃ってやられ、二組で二番目に早く散った。

 で、その二組だが……クインの指揮の元、一撃離脱特攻作戦を廃止してディフェンスに専念した。

 その結果、完璧なフォーメーション且つ自らを囮にした作戦で被害を十人以下に収めた挙句、敵の人数が少なくなったところで旗を奪いに行った結果、見事に優勝を勝ち取った。


「オーキスくん、すごーい!」

「流石、風紀委員じゃん! オーキスくんがいなかったらうちら勝てなかったし絶対!」

「やっぱ、警備隊の息子は違うわ」

「あ、ありがとう……でも、みんなが協力してくれたからだよ」


 と、褒めちぎられ始めたので、その隙に正臣は逃げ出してリョウの隣に来る。


「ふぅ……なんで勝ったのに俺は怒られてたんだろ……」

「今回ばかりは災難だったなお前……」


 そう呟きつつも、だ。序盤で死んだリョウも災難である。……ていうか、大体正臣の所為で活躍出来なかった節あるし。


「ご、ごめんね……リョウ将軍も……」

「おい、それもう役職じゃねーか」

「俺、あんま上手くアシスト出来なくて……」

「別にいいわ。……なんか、よく分かった気がするし」


 イベントの時だけ張り切って良いとこ見せようとしても、うまく行くはずがないってことが。

 結局、今日というチャンスはあったが……よくよく考えてみれば、チームの勝利に貢献するため動いていたのはリョウが知る限りでは正臣とクインの二人だ。

 自己犠牲、或いは自己の力をクラスのために使っていた。それに引き換え……リョウは一発逆転を狙ってカエデのために動いていただけ。

 もしかしたら、そういうところなのかもしれない。


「なぁ、マサオミ」

「なっ、何?」

「別に校外学習中じゃなくても良いから、また機会があったらカエデと話せるタイミングみたいなの、作ってくんね? クインと一緒でも良いし」

「えっ……た、多分無理……」

「あとは、自力でなんとかしてみっから」

「や、だから無……」

「できる範囲で」

「……それなら、まぁ……」


 とにかく、まずは自分の事より他人の事で色々考えられる人間になろう。

 そう決めて、とりあえず残り半分を切った校外学習は、忖度なしに楽しむことにし……。


「あ、いたいた。リョウ!」

「? か、カエデ?」

「ごめんね、さっき。アタシのわがままでマサオミくん助けに行かせちゃって……で、結局死んじゃって」

「いや、別にあれくらい……」

「でもあの状況で行ってくれたリョウ、ちょっと良かったわ。意外と友達思いなんだ」

「……そうだな。熱血男だな、友情に熱い」

「いや自分で肯定すんなし。……そんだけ、じゃね」

「おお」

「……」


 そのまま走り去っていくカエデの背中を眺めながら……リョウは正臣を正面から見据えて言った。


「今後ともよろしく」

「何を?」


 よろしくお願い申し上げた。


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