チーム・日進月歩は呪いでつなげられる
井ノ下功
第1話 正体不明の男たち
通報者の報告は間違ってはいない。
確かにそこには怪しげなスーツの男が二人と、泣いている女子中学生がいた。
けれど「犯罪だ」というのはちょっと早とちり。
ファミレスの窓際の四人席。女の子が入り口側・通路側に、二人の男はその隣と向かいに座っている。逃げようと思えば逃げられる位置に標的を置くなんて、どんなぺーぺーの犯罪者でもしないだろう。
それに、あんなにべーべー自由に泣かしているのも気になる。どれだけ小さくても泣き声は目立つものだ。犯罪なら脅すなり何なりして泣かせないようにするはず。
ところが、だ。
男たちの様子を見てみるといい。女の子の涙を完全に持て余しているのが手に取るように分かる。
隣にいる奴は慌てた様子で何か言っているし、向かいの奴なんか無関心を装ってパフェにむさぼりついている。無視しきれないで時折目線を上げるところなんか、対応に困っているのが丸わかりでいっそ可愛らしいくらいだ。
さらに言えば場所の選択だっておかしい。いくら来月には閉店するほど寂れているからといって、善良な人の目があるファミレスに居座る必要はないはずだ。平和ボケしたこの町にだって、もっと相応しい場所はいくらでもある。
時刻は夕方の五時を回ったところ。女子中学生を連れ歩いているといってもまだまだ白い時間。
この通り、犯罪でないことはほぼ確定。
とはいえ通報を受けた以上は行くほかない。俺が見誤ることだってあるし、気になることもある。
女の子は中学生だ。ここからそう遠くない中高一貫の女子校の制服。学校指定の鞄は中学生用の物。着こなしは完璧な模範生。唯一、小学生がビーズで作ったような安っぽいブレスレットだけが小さな校則違反だった。
俺が気にしているのは男たちのほう。自然、目が尖る。
彼らは一体何者だ?
ゆっくりと近付きながら観察を重ねる。
年代は俺とほぼ同じ。二十代の後半くらいだろう。
二人ともスーツを着てはいるけれど、とてもじゃないが勤め人とは思えない。どちらも妙に着崩しているし、ピアスや指輪をいくつも重ねて着けている。髪型だって自由なものだ。
通報した気持ちがよく分かる。堅気にはまるで見えないからな。
かといって、ヤのつく自由業にも見えない。
強いて黒と見るなら詐欺師かカルトの勧誘者か。けれどどちらのにおいも薄い。
中学生の隣にいる奴は、薄いピンクのワイシャツにアンティーク調のループタイ。留め金は某夢の国で十円玉と引き換えにもらえるようなメダル風のブローチ。茶色の髪は緩くウェーブして耳を隠している。そのゆるふわ頭と同じくらい緩い顔。情けない垂れ目は一部の女性に異様なほど受けそうだ。詐欺師としてもやっていけそうだが、それなら女の子を持て余したりはすまい。
パフェを食い終わってコーヒーゼリーに取りかかった奴は、なんというか、さして仲良くない親戚の葬式で疲れ切ったおっさんのスタイルだ。黒いネクタイをだらしなく緩めている。ざんばらな髪が目を半分くらい隠していた。カルト系と呼ぶには雰囲気が浅い。
崩れたコーヒーゼリーを豪快に流し込んで、その目がふと俺を見た。そのときにはもうテーブルのほぼ横にいたから、彼が心底嫌そうな顔になったのがはっきりと分かった――ついでに、奇妙な焦げ臭さと、そのワイシャツに小さな血の染みがあることも。
俺は思いきり笑顔を向けてやった。
「こんにちは。お取り込み中にすみませんね、お兄さん方」
「見ろよ、お前が泣き止まねぇからめんどくせぇのが来ちまったじゃねぇか、くそっ」
ざんばら頭が毒づいて、女の子がか細く「ご、ごめん、なさい」と言う。しゃくりあげるのは止まらない。
「そう責めるもんじゃないでしょう。何かトラブルですか?」
「お前にはこれがトラブってないように見えるのか?」
「まさか」
煽りは適当に受け流す。
「私に何かお手伝いできることは?」
「ねぇよ」
「えー、あるんじゃない?」
ぶっきらぼうに即答したざんばら頭と対照的に、ゆるふわ頭が見た目通りの緩さで俺を見上げた。
「お巡りさん相手のほうが話しやすいかもよ。ほら、僕らじゃ怖がらせちゃうからさー」
ざんばら頭は鷹揚に足を組んでソファの背にもたれかかった。
「んなもん知るか。だったら勝手に野垂れ死んでろ」
「まぁたそういうこと言うー」
ゆるふわ頭がふくれっ面を作った。女の子はしゃくりあげたままうつむく。なんだか話がよく分からないな。
俺はストレートに聞いてみることにした。
「ところで、お二人は一体何をされている方なんですか」
二人がほぼ同時に俺を見る。
そこで初めて彼らの目を正面から見て、俺の背筋が粟立った。なんだ、この迫力。ごく一般的な焦げ茶と黒の瞳。それが底の見えない井戸のように思えた。落ちたらおしまいだと薄ら寒くなる感覚。
ゆるふわ頭がへらへらと笑って口を開いた。
「僕らはねー、
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