オーロラ・オーケストラ
歩弥丸
プロローグ 或いは光の戦場
想定される
「巡天機の
戦場の無人化が進んだ結果、
『巡天機、発艦宜し』
設定は正常でありいつでも作動できる、と堂艦制御系から応答があった。
「巡天機1番隊から3番隊、発艦せよ」
私は
詰まるところ、その姿が好きだからこそ、私は指揮官として堂艦に身を置いているのだ。
※ ※ ※
程なくして、巡天機1番隊が接敵した。
「敵」の正体は定かではない。我々地球人類の文明に敵意を持つ異星の存在、と仮に定義されている。
『
「言われなくても!」
本部からの遠隔助言と前後して、操作盤の1番隊の
「1番隊、突撃!」
操作盤に、敵性体の方向に向けて
指令に基づいて、巡天機はある程度自律的に戦闘を行う。ただし、それは事前の指揮官による教導の範囲内でのことだ。
『接近戦においてはなるべく自部隊が多数、相手が少数になる状況を選び、多対1の状況を作れ』
1番隊にはそのように教導してきた。そして今そうなっている。
巡天機が小刃剣を選んだのは同士討ちの危険を回避するため、そして一般に巡天機より二回りは大きい敵性体の懐により入り込みやすくするためだ。敵性体は拳を振るうが、三色の光はその巨腕をすり抜けるように螺旋を描き、巌めいた巨体の腹に、脇に、股に飛び込んでいく。
「押し込め!」
小刃剣が敵性体に突き刺さり、炸裂した。
「よし、離脱だ」
1番隊を後方に把操、2番隊と入れ替わるよう指示した。六条の光が交錯する。
「2番隊、砲撃準備! 3番隊、2番隊の後ろへ!」
2番隊の標識を触操。3番隊の標識を把操。2番隊と3番隊はまだ
だが、そうやって向かってくる敵性体が、既に三発の直撃を受けた半壊のものであれば、話は別だ。
「2番隊、
忙しなく手を動かす。2番隊の放つ空間波動が敵性体装甲と共鳴し、その組成を揺るがす。やがて、敵性体のうち1体――先ほど1番隊に刺されたもの――が崩壊し、爆発した。その爆圧は残る5体の敵性体にも少なからぬ損傷を与えた。
「3番隊、突撃!」
二足二腕形態をとった3番隊が入れ替わりで前に出る。今度は
『弱った敵の懐を1対1で突け』
3番隊には、1番隊とは違う教導を与えている。三条の光がまばらに進み、それぞれ別の敵性体と接敵する。
足を振り回す敵性体がいた。それを光撒いてかわす巡天機がいた。
拳を飛翔体めいて飛ばす敵性体がいた。それを切り飛ばす巡天機がいた。
瞳から闇を放つ敵性体がいた。それに
一つ、また一つ、光が闇を払い、打ち払っている。
※ ※ ※
『完封ですね』
本隊から通信が来た。
「巡天機を戻すまでが戦闘だろう?」
私はそう答えて操作盤を見る。1番隊から3番隊まで9機の巡天機が健在のまま戦闘を終えた。光を曳きながら、堂艦に戻ろうとしている。
本当にこれだけなのか? 第2波・第3波の攻撃はないのか?
私としては当然警戒はする。仮算定・実光学双方の情報を重ね合わせて推定する。
やがて、自軍の巡天機9機の光とは異なる光の筋が、操作盤の隅に見えた。敵性体は光を然程反射しないし光を曳かない――動力原理が巡天機とは根本から異なるのだと考えられている。自然天体の光でも届出済み人工天体の光でもないならば、それは。
「本隊! 我が軍以外の巡天機がこの宙域を航行するという情報はあるか」
『ありません。届出済み天体でもありません。光流……それも我が軍の波長とは異なります!』
「何だと!?」
その返答の意味することはただ一つ。敵性体ではなく、地球人類の中に、我ら地球軍とは「別」の敵がいる、ということだ。
地球人対地球人の、巡天機同士の、想定されていない戦争が始まろうとしている。
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