3
部屋を出て礼拝堂に駆け込むと、その玄関の部分が壁ごと崩れ落ち、二メートルほど黄色い重機のブレードが入り込んでいた。
「なんでここが分かった?」
操縦席には先程のスキンヘッドの姿があった。俺の姿を見てにやりと笑みを浮かべると、再びエンジンが唸りを上げ、一度バックすると再度教会へと突っ込んでくる。
「佐竹さん!」
俺がどこに逃げればいいのかとまごついていると、後ろから呼ばれ、あの女神に腕を引っ張られて通路側へと引き込まれる。
「何だよ」
「とにかく、まずは奴らから逃げましょう」
「逃げるったって、どうすんだよ」
「私を使って下さい」
そう言うが早いか、女神は光に包まれ、その腕を俺へと伸ばし、抱き締める。
――熱っ。
突然風呂に投げ込まれたかのような全身の熱を感じ、佐竹は思わず呻いた。けれど、その声が出ない。まるで水中にいるみたいに声を出そうとすればするほど、何かの違和感が喉へと侵入してくる。
腹の奥底で何かが弾けた。
「何だよこれは!」
ようやく声が出たと思ったら、女神の姿はどこかに消えてしまっている。
『合体です』
「合体?」
『はい。佐竹さんと一つになって、女神の力を使えるようにしました。僅かですが、逃亡するには充分でしょう。さあ、行きましょう』
ふわり、と体が浮かび上がったかと思うと、佐竹の頭は通路の天井を突き破る。痛みがないなら完璧だった。だが痛い。それも酷く痛む。よそ見をしていて鉄柱に衝突したくらいの痛みに思わず目の前が真っ暗になったが、気づくと佐竹は教会の建物を見下ろしていた。
「あー」
その姿を見た母親に抱かれた女の子が指を差している。
教会の前で止まった重機から男が下りると、こちらを見て何か喚いていたが、流石に空に浮かんでいる佐竹に対して何かできる訳ではなさそうだ。
「これはいいな。このまま学校まで行こう」
『それはいけません』
「何故?」
『既に学校には刺客が放たれています』
「刺客っていうのはさ、アサシンとか、そういう類のサムシング?」
『意味が分かりませんが、端的に言えば暗殺を担う者です。相手方が雇った者が派遣されていると想像されます』
「でも女神の力があるなら何が来たって平気だろう?」
空を飛んでいるだけで何でも出来そうな気がしてくる佐竹だったが、内側の女の声はどうにも煮え切らない。
『女神という存在を誤解されているようなので言っておきますね。女神というのは神の女性版ではありません。多くは人間の生命や生活を助けるという役割が課されています。中には凶暴な女神もいたりしますし、戦闘能力を備える者も稀ですが存在します。けれど、女神とは本来、戦う為ではなく、傷ついた者を癒やすことこそが、役目なのです』
「つまり戦えない、と言いたいんだな?」
『はい』
使えねえ――と思い切り声に出しそうになって、佐竹は慌てて口を押さえた。
『声にせずとも聞こえますが』
「いや、その、売り言葉に買い言葉的なあれですよ、女神さん」
『それより、そろそろ次の手が来ます。どうされますか?』
「次って何だよ」
ふわりふわりと空中を漂いながら、風に流される風船のように空を移動していたが、雲間から黒い点が少しずつ大きくなってくることに気づいた。
「何だよあれは」
そう口にしている間にもその黒い物体はどんどん大きくなり、やがて耳障りな音と共に近づいてくる金属製の飛翔体なのだと分かった。ミサイルだろうか。
『緊急回避します』
「頼む」
一瞬目の前が閃く。
強烈な光に目を閉じた次の瞬間には、どこかの森の中にいた。
「ここ、どこだよ」
女神にその質問をしたと同時に、遥か遠くで爆音が響いたのを耳にした。
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