もうひとつの、最終列車

よしだぶんぺい

第1話

 山あいのひなびた町にひっそり閑とたたずむ、ささやかな駅舎。

 ホームにぱらぱら見えていた人影が、最終列車に飲み込まれてゆく。もの悲しい汽笛が霜について響くせいか、凛々として、凩(こがらし)のようにも耳にとまる。

 煙突から、もくもくと吐き出される煤煙。それが、霜とひとつになって闇にとけてゆく。

 やがて、列車は、汽笛の余韻をホームにわびしく残し、黒洞々たる闇の中へと消え去った。




「それにしても、今日は気ぜわしい一日だった……」

 最終列車を見送った若い駅員はひとりごとのようにつぶやくと、ふと線路から目をはなして、遠くを見るような目をしながら、長く、深い、息をついた。

 なるほど、この若い駅員は、いつになく、慌ただしい一日を過ごしていた。

 現に、こういうことがあった。



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