・海峡都市アイギュストス - そば屋 -
こうして現在。
俺とコスモスちゃんは新たな我が家、海上コテージに落ち着いた。
少しボロいけどちゃんと掃除がされていて、窓の向こうには波音を立てる海原が広がっていた。
ベッドは2つ。
コテージの中央には囲炉裏があった。
「我が主よ」
「えっと……何、コスモスちゃん?」
「美味い食事に腹が満たされ、新たな我が家でこうしてくつろいでいると、無性に――ムラムラとしてこぬか?」
「ム、ムラムラって……。紐の身分で発情できるほど俺は図太くないよ……」
「クククッ、照れ隠しか」
「君はもう少し紐の自覚を持とうよっ?!」
コスモスちゃんから距離を取って念のために家の出口側に立つと、俺はこの先のことを考えた。
このままではダメだ。
マリーはいい子だけど、あのやさしさに甘えてしまったら俺はダメになる……。
コスモスちゃんは元からダメなやつだからおいといて、俺は俺ができることを考えなければ。
「考えずともよい。細かいことはイエローに任せて、我らはくっついて昼寝でもしようではないか。明日からがんばればよい」
「明日からか……」
「お腹いっぱいになって疲れただろう? 昨日も大変な1日だったではないか。休息も大切だそ、我が主よ……」
「それも、そうかな……。なんだか急に眠く――って! 人を堕落させんなよ……っ!? 一瞬、本気で心が揺らいだだろがよ……っ!?」
「まぐわおう♪」
「いや、まぐわわねーよっ?!」
あ、そうだ!
屋台を手に入れよう!
買えないようなら木材を買って自分で造ろう。
これ以上あの子の世話になったら俺はダメになる!
「ただいまなのですよーっ、お兄ちゃんっ♪ ちょっとお外に出てきて下さいなのですよ~っ!」
「ちっ、もう帰ってきおったか……。ぬぅ、このムラムラをどうしてくれる……っ」
「どうもこうもしないっての……。マリー、実は俺も相談が――」
マリーが呼んでいるので家を出た。
海上コテージには桟橋が付随していて、マリーはその桟橋の先にある共有エリアで俺たちを待っていた。
「屋、台……。屋台ぃぃっっ?!!」
いったいどこで手に入れてきたのだろう……。
マリーは大きな屋台を引きながら、こちらにニコニコ笑顔で手を振っていた……。
「じゃーんっ、なのですよーっ! 中古で、いいのがあったのですよーっ!」
「バ、バカな……」
「おおっ、よくぞやったイエローよ! 後は食材の手配だけだな!」
「はいなのですっ。仕入れもマリーに任せてほしいのですよーっ、一番、得意なのですよ!」
前略、学長センセ。
テイムしたドラゴンが優秀すぎて、俺、ダメになりそうです……。
食器の片付けすら拒む超ダメドラゴンの次は、命じずともなんでもかんでも1人でこなしてしまう、超働き者のロリ風ドラゴンちゃんでした……。
「うむうむ、少しボロいがまあ及第点だ。これならばいつでもあちらの仕事を始められるな。でかしたぞ」
「えへへー、ありがとうカオスちゃんっ」
「イエローよ、今後とも我とニコラスのために粉骨砕身せよ」
「うんっ、がってんがってんなのですよーっ!」
絶対にああはなるまい……。
コスモスちゃんのムダに気位の高い姿を横目に心に誓った。
屋台には既に深鍋や燃料となる薪、ザルや幅広の器まで全てが揃っていた。
これならばいつでも闇ラーメン屋を始められる。
その屋台には提灯が吊されていて、そこには『そば屋』とあった。
身近な雰囲気のいい店名だ。
俺たちも早いうちに店の名前を決めておこう。
「美味しいラーメンで、みんなを幸せにするですよ~」
「本当にありがとう、マリー」
「えへへへ……。それでそれで、みんなでがんばってっ、お金を稼いでっ、いつかはっ! お爺ちゃんのお店に負けないくらい、立派なお店を持つのですよーっ!」
「えっ……?」
いや、でも、ラーメンってこのアイギュストスでもご禁制――
「我らの店かっ、いいではないかっ!」
「はいですっ! そしたらっ、かわいい物もいっぱいお店に置けるのですよーっ!」
「ちょ、ちょっと待って2人とも……。ラーメンがご禁制っていう、肝心の問題を忘れてない……?」
「そですねー……。でもでも、きっと、なんとかなるですよー♪」
「イエローの言うとおりだ。我らのラーメン道を阻む者は、みーんな滅ぼしてしまえばよい♪」
「よくねーよっ!? 一応言っとくけどっ、この町では絶対っ、早まったことはすんなよっ?!」
「ちょっと心配ですね……。カオスちゃん、メッ、ですよ~?」
「わかった……。イエローが言うなら多少は我慢しよう」
俺がいくら言っても聞かないのに、コスモスちゃんはマリーにメッされると不承不承ではあるが応じた。
俺、本当に自分がドラゴンテイマーなのか、確信が持てなくなってきたよ……。
「なんだ、その目は?」
「いや、別に……」
だけど、自分たちの店か……。
もし本当に店を持てたら、こんなに嬉しいことはない。
障害が山ほど現れるだろうけど、野望を持つだけならばタダだ。
「店、欲しいね。無茶なのはわかってるけど、欲しいかどうかで言えば、超欲しいね……」
「欲しいです! がんばりましょうっ、いっぱいいっぱい、ラーメン作って、おっきなお店を建てるのですよ!」
仕込みのできる拠点。
販売のできる屋台が揃った。
さあ、ここからが俺たちのラーメン道の始まりだ!
がんばろう!
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