第7話 初めて食べてくれた女の子
「だ、大丈夫!!?」
僕は慌てて、キッチンから出て女の子が倒れた場所に向かう。
結構な音がしたから、ひょっとしたら怪我をしているかもしれない。急いで駆け寄り、膝に寝転がせるように仰向けに体勢を変えてあげれば。
「ふおー! 別嬪さんでやんすね?」
カウルも一緒に来てくれていたのか、女の子の顔が見えるとそう言っていた。
「そう、だね」
たしかに、綺麗な女の子だった。
顔に擦り傷とかはいくつかあったけど……酷い傷はない。それ抜きにしても、女の子の顔は整いすぎていた。髪はちょっとボサボサだけど、綺麗な赤毛のポニーテール。
目は大きそうで、目尻の具合を見ると猫っぽい感じがした。顔の大きさは小さいのに、顎とかはシャープで。
体つきも、冒険者らしい防具を身につけているが華奢な印象を受けた。僕が体を動かしても起きないってことは、気を失ったのかな?
たしか、倒れる前に『食べ物』って言っていたような。
「……ケン兄さん?」
「カウル、お願いがあるんだけど。さっきのパン。この子に食べさせたいんだ」
「いいんでやんすか?」
「何もしない方が酷い奴だよ」
「わかったでやんす!」
と言って、カウルはあんまり離れていないキッチンから、ピューッと、ピューって感じにパンを取って来てくれた。
僕は僕で、女の子が食べやすい体勢に体を起こして支えてあげた。防具抜きにしても、ちょっと軽いのが心配だ。
「大丈夫?」
もう一度声をかけてみると……女の子のまぶたがピクピクと動き出した。ゆっくり動き出すと、綺麗な紫色の瞳が!その色に、やっぱりここは異世界なんだなあ、と改めて実感。
「……だ、れ?」
「とりあえず、危害を与える人間じゃないよ? ちょっとした料理人。パンあるんだ。食べてくれる?」
「! ぱ……ん」
僕の言葉に、光が見えなかった瞳の色が明るくなった気がする。
パッと顔も明るくなってはくれたけど、カウルが差し出してくれていたバターロールを見て、すぐに驚いちゃった。
「どうぞでやんす〜」
「す、スライム!? え……しゃべれ??」
「あっしはカウル言うでやんす。兄さんの相棒でやんすよー」
「え、え?」
「僕らが作ったパンなんだ。よかったら、食べてください」
さ、とカウルが差し出したバターロールと僕らを見比べてはいたが、お腹の音も鳴りだしたので……我慢出来なかったみたいで、そっと手に取った。
「あったかい!」
「出来立てだからね?」
「……どこで?」
「あそこで」
「やんす」
僕らが指を向けると、出現させたままのオープンキッチンを見て目を丸くしたが。
お腹が限界だったのか、バターロールのいい匂いに我慢出来なかったのか。
カプっという勢いで、バターロールにかぶりついてくれた。
すると、ぱあって白い光が女の子から出てきた。
「お……い、し!! な……にこれ。体力が戻って??」
カウルのは直接見てなかったけど、やっぱり僕らが作ったパンにはポーションの効果があるみたいだ。顔に出来た擦り傷とかもどんどん消えていく。
女の子が夢中になって、バターロールを食べ続けてくれるのには……作り手としてはすごく嬉しい。決して、前世の先生達のように高度な技術で作ったものではないのに……あんなに美味しそうに食べてくれるんだから。
「もっといる? それと、もっと美味しい食べ方はどう?」
「! い……いいの?」
「うん。あ、僕は……ケントって言うんだ」
「あ……たしは、エリザベス=バートレイン」
「エリザベスさん、だね。こっち来てくれる? カウルも手伝って」
「合点承知!」
せっかくだから、もっと美味しい食べ方をしよう。
ポーションのパンだけど。
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