正義の暗殺者

緑のキツネ

第1話 復讐

2100年、世界中でインフレが起きた。バブルの再来とまで言われ、100円のお菓子が1万円になっていた。そんな社会で問題視されたのが、貧富の差だった。富豪達は、更にお金を蓄えていき、貧しい者は、家を売り、最低限の生活も出来なくなっていた。貧しい人達は、最低限の生活をする為に、富豪を次々に殺し、お金を略奪して行った。2050年、貧しい人達を救う為に結成された殺し屋、通称ゴブレットは、今では、2000人以上の人が居る。そんなゴブレットに対抗する為に生まれた組織が殺し屋対策本部、通称シガレットだった。




ここは、警察トップクラスの警視長0係。数多くの難事件を解き明かし、2000人近く逮捕してきた。銃の腕前、推理力、判断力、全ての面で最強の5人が集まっている。その中に私は居た。私は、大野莉音。警察になって、3年が経った。警察学校の生徒だった時、銃のテストで100発100中。その銃の腕前が高く評価され、犯人を脅し、次々に捕まえていき、トップクラスに上り詰めた。そんなある日、大事件が起きた。





いつも通り、警察署に行き、事件の整理をしていた時、突然警報が鳴り始めた。そして、AIが言葉を話し始めた。


「未来警報!!未来警報!!40分後に、ケーキ屋の隣の路地裏で女の人が殺されます。地図を表示します」


このAIは未来を見て、実際起きる映像と場所を教えてくれる。その名も未来くんだ。未来くんはどの部署にも設置されていて、事前に何が起きるか知る事で、対策する事が可能になる。未来くんは画面を起動し、殺害される映像を流してくれた。その映像を見た瞬間、私の体が震え始めた。


「大野さん、大丈夫ですか?」


上司に心配されるぐらい、私は震えていたのかもしれない。


「大丈夫……です」


「何かあったらすぐに言ってくださいね」


「はい……」


私の頭は、真っ白になった。全然大丈夫では無い。その画面に映った犯人の顔は、私の記憶の中にある顔と一致した。10年前、デパートでお母さんを殺した男だ。






10年前、お母さんは遊園地で人質になってしまった。


「ママ……」


「1時間以内に俺の元に100万円持ってこい!!」


1時間以内に100万円なんて……。無理だよ……。そして、1時間が経ち、お母さんに銃が向けられた。


「サヨナラ……立派な警察になってね」


それだけ言って、お母さんは頭を撃たれた。



立派な警察……。今、私は立派な警察になれたのかな。



警察になる夢は、幼稚園の頃からずっと持っていた。警察ドラマを見て、警察に憧れ、悪者を捕まえる正義のヒーローになりたいとずっと思っていた。でも、お母さんが死んでから1年間、私はその警察の夢を諦めようとしていた。私はお母さんにずっと言っていた。


「けいさつになったらママをわるものからまもってみせるよ!!せいぎのヒーローとして!!」


結局、お母さんは殺された。私はお母さんを守る事が出来なかった。もう警察になる理由なんてない。私は諦めていた。私は何をして生きていけば良いの?お父さんは出張で居ない。お母さんも亡くなった今、誰を頼れば良いのかも分からない。孤独な世界で、私は自殺をしようと考えた。


ピンポン


インターホンが聞こえ、扉を開けると、お父さんが立っていた。お父さんが2ヶ月間の出張から帰ってきた。


「お父さん……もう死にたいよ」


泣きながらお父さんの元に抱きついた。涙がお父さんの服を濡らしていく。お父さんは私の背中を3回優しく叩いた。



「人は誰かに大切に育てられ、誰かに支えられ、生きる事が出来ている。お母さんやお父さん、学校の教師や友達……。でも、この世界には、命の大切さも分からないバカな奴がいる。そいつらは、息をするように簡単に人を殺していく。誰かがこの世界から居なくなれば、誰かが悲しむ。だからこそ誰も悲しませないように生きていかなければならない。お前は、警察になって、悲しんでいる人を助ける正義のヒーローになれ!!」


その言葉を聞いた瞬間、私は警察になることを決意した。悲しむ人が居ない世界。みんなが笑顔で居られる世界をつくる為に……。



お母さんを殺した奴には牢獄という罰を与えてやる。そう思い、車に乗り、現場に向かった。車の上に赤いランプを付け、サイレンを鳴らし、最大時速で現場に急いだ。私は、現場に到着した。ケーキ屋には多くの人が並んでいた。怪しい人物が居ないか1人1人確認しながら、列の周りを歩いた。まだ犯人は来ていなかった。殺害予定時刻まで残り10分を切った時、犯人らしき顔の人物が、1人の女を横に連れて、ケーキ屋に来た。その女が今回の被害者だ。私は近くの電柱の裏に隠れて、2人を見ていた。


「ケーキ、久しぶりだね」


「うん。誘ってくれてありがとう、たけくん」


「こっちこそ嬉しいよ。それより、今日は何円、持ってきたの?」


「たけ君の為に10万持ってきたよ」


「本当に嬉しいよ。俺もみきちゃんの事大好きだよ」


「私も大好き」


「そろそろ水族館に行こうか」


「うん」


10万円……。もしかしたら犯人は、10万円を狙っているのかもしれない。ケーキ店の外に出た瞬間、犯人は、その女の口を塞いだ。女は意識を失っていく。その女を連れて、路地に入ろうとした。私も急いで後を追い、犯人と目があった。


「警察だ。お前は許さない……」


「黙れ!!」


バン!!


犯人が私に向かって発砲してきた。避けようとしたが、肩を掠めてしまった。肩から出る血を抑えながら、犯人の方を向くと、犯人は誰かと電話を始めた。


「暇な奴、誰か来い!!」


やばい。援軍を呼ばれる。早く……捕まえないと。10年前の記憶が蘇る。お母さんが殺され、私は何度も泣いた。悔しかった。お母さんを守る事が出来なかったから。でも、今やっとその仇を打つ事が出来るかもしれない。


銃を持つ手に力が入る。路地は次第に狭くなり、やがて行き止まりになった。私は、銃を犯人に向けた。警察学校での言葉が蘇る。



「銃は人に撃ってはいけない。人に撃てば、殺人者と変わらない。人に当てない努力をしなければいけない」



ダメだ……。人に向けて撃ったら……。でも、お母さんを目の前で殺された時の悲しさ、辛さ、何も出来なかった無力感、全ての思いが頭の中を過ぎる。


「お母さんを殺した……復讐だ」


そう言って、私は犯人に向けて無意識に引き金を引いてしまった。ふと、我に帰った時、目の前に倒れた人がいるのに気がついた。周りには私しか居ない。その時、私は全てを悟った。復讐のために人を殺してしまったと。


「……警察失格だ」


人を殺す警察なんて、立派な警察じゃ無い。正義のヒーローでも無い。殺し屋と変わらないただの悪者だ。


倒れた犯人の胸の中に名刺が入っていた。


ゴブレット ⭐︎ 石井雄人 (いしいたけと)


ゴブレット……。人を殺して、お金を奪っていく殺し屋。10年前からずっと存在しているが、未だに謎が多い組織だ。




その後、0係の部長から罰を受けた。正当防衛という形で罪は軽くなった。しかし、多額の罰金を課せられ、転属をされる事になった。


「お前には、トップクラスは向いていないとずっと思っていたよ。寧ろ、こっちの方が向いていると思うよ」


そう言って、転属場所が渡された紙をもらった。


0係→殺し屋対策本部 シガレット


シガレット。噂には聞いた事がある。殺し屋を捕まえる為なら殺しても構わない。暗殺能力が高い奴らが集まる女だけの組織だと言われている。そのシガレットに転属されることになった。

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