第2話本性現したね
結果から言おう、そのまさかだった。
「死ぬ!!!!!私のキャリアが死んじゃうううううううううううううう!!!」
僕ほどの『人間違わられ』になると、その反応を分類わけできてきたりするものなのだが、目の前の女神様の反応は極めてユニークなものであった。
『身分証明書を確認するまで自分の間違いを信じない』までは典型的な反応だったのだが、さすが女神。『身分証明書だけでは信用ならん』と、地面に幾何学模様を書くと何やら俺に対して術を行使し、それでも納得いかなかったのか『一回殺してみるか』と焼殺・絞殺・銃殺・刺殺・圧殺と殺した後に化けの皮が剥がれないかを確認し始めたのである。
…尤も、それも徒労に終わったのだが。
「私が悪いのかぁ!!!キャリアなんて求めた私がぁぁあがぁぁぁぁ!!!」
ちなみに、この白目を剥いて髪の毛を掻きむしって絶叫する女性を『女神』だと認めているのは、見たことがないくらい美人で、何やら淡く輝く白いローブに身を包んで、自分を殺しては生き返らせたりしてたからである。
…てか、キャリアとかあるんですね。女神って。
「あああああああ、もう嫌やああああああああ!」
内からの衝動に耐えきれなくなったのか、女神は椅子からずり落ちると、ついに床を転げ回り始めた。彼女が、デスクにぶつかるたびに、書類が一枚また一枚と宙を舞ってしまっている。
そのうちの一枚、デスクを挟んで座っている僕の足元にまで飛んできてものを見ると、『スドー・シュン』について書かれていた。
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大英雄スドー・シュン。
片田舎の領主の嫡男として生まれる。次男との所領争いに勝利した後、奇策をもって隣接する超大国アガラシアを制圧。
さらに、異世界より伝来した魔術を広く領民に伝授し、楽市楽座などの経済政策で地力を高めたのち、全世界に対して宣戦布告。
結果、近隣諸国を手中に収め、七百五十年間動乱が絶えなかったエリクシア大陸に恒久の平和をもたらす。
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裏を見ると、写真が貼ってあり、そこには白い顎髭を蓄えたおじいさんが笑顔を浮かべて写っていた。
どうして僕と間違えたんだ…。
「…一つ質問してもいいですか?」
俺の声を聞くと、女神は我を取り戻したのか、芋虫みたいな格好から跳ね起き、こちらにむかってにっこり笑顔を浮かべてきた。
金色の髪にはあちらこちらに書類のカスがついており、先ほどまで淡く輝いていた白いローブも床を転げ回った時の衝撃で、折れ目がついてしまっており、何だか無惨な姿だった。
「ええ、どうぞ。」
「もし間違いなら、このおじいさんを呼び戻せばいいんじゃないですか?」
「呼び戻す?」
「ええ、僕を死んだままにして、おじいさんだけ転生させれば…」
考えれば簡単なことである。
間違えたらやり直せばいい。
転生できないのは残念だが、人間違いに漬け込んで利益を享受するわけには行かない。
僕ももう一度『他人と間違われつづける人生』は送りたくないし、女神も救われるしウィンウィンの提案である。
しかし、
「それができねぇから、困ってるんだろうが。」
返ってきたのは、半ばやけくそ気味な女神の言葉だった。
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