エロゲ太郎が異世界でエロゲ屋を始めるようです。
窓際ななみ
第一章 異世界のエロゲ屋さん
第1話 魔王との最終決戦!エロゲーの想いが世界を救う!
「くっ……、異世界から召喚された勇者とはいえ、貴様は人間族……! あたしの魔法を受けて何故……、何度も起き上がることができるのだ……!」
魔王と魔族が支配する世界最北の地『リンゴゴ』
その国の入り口にそびえたつ魔王城の最上階で、業火の炎を纏った杖を携える魔王と名乗る魔族の女と、白く透き通る輝きに満ちた剣を構える人間族の男が、互いに傷ついた体で対峙していた。
男が装備している防具は、半分以上が魔王の鋭い爪の斬撃と魔法攻撃で半壊しており、露出した肌は深い傷跡と火傷で覆われていた。人間族であれば致命的ともいえる状態であるにも関わらず、男は倒れず魔王に屈しなかった。
魔王は、理解の及ばない目の前の光景に、初めて人間族に恐怖を感じてしまう。
対照的に魔王に対して闘志を燃やす男は、閃光のように走り魔王との距離を一気に詰めると、光迸る聖剣を振り下ろす。
「お、おのれ!」
魔王は業火の炎を纏った杖を両手で構え、男の振り下ろした聖剣を辛うじて受け止めようとする。聖剣と杖が交わった瞬間、炎と閃光が流れ星のように飛び散り去った。
「くっ……、そんなボロボロの状態で、一体何処からこんな力がでてくるのだ……!」
魔王は受け止めた杖もろとも、男にジリジリと押されていく。人間族よりも体力も魔力も桁違いの能力を魔王は持っているはずなのに、目の前の男は、そんな魔王の力すらも跳ね除けようとしているのだ。
「ぐ、ぐあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
魔王は残った力を絞り出し、目の前の男を押し返す。流石にこのまま押し切れないと悟ったのか、男は後ろに高く跳躍し体制を立て直した。
「はぁ……、はぁ……、お前……は、何が望み……?」
力を使い果たし敗北の可能性を悟った魔王は、この状況を打開しようと突然交渉を持ちかけた。
「異世界から来た人間の勇者よ、認めよう……。このあたしと同等……、いや、それ以上の力を持っていることを……。しかし、この私を倒した後、どうするの……?」
「…………?」
「気が付いているのでしょう? もう、元の世界に戻れないことを……? それに、その勇者の力は、魔王という危機が去れば人間族を怯えさせ、間違いなく勇者を迫害しようとするわよ……」
「……迫害……か……、そうかも……しれないな…、世間は、オタクに……に、厳しいからな……」
男はブツブツの何かを呟きながら、魔王の言葉に耳を傾けた。魔王は交渉を続けた。
「それで、どうかしら……。 このあたしと取引しない…?」
「……取引……?」
「そうそう、あたしがこの世界を制圧した暁には、『世界の半分』をあげましょう。この場で『魔族種契約』をしても構わないわ。魔族種契約の意味はわかるわよね…?」
「……噂程度には……」
「魔族種契約を結べば、魔族種は絶対に契約は破らないわ。人間種のように嘘を付くことができない。そういう契約よ」
「……魔王にも……、効くのか……?」
「ええ、もちろん。あたしだって『魔族』だから。それに、興味がでてきたの。あたしと同じ程の能力の人間に。このまま共倒れなんて結末は避けたいわね。それこそ腹黒い人間族の意図した通りになりそうだし……」
「……うむ……」
魔王は本心で話していた。悔しいが、目の前の男の力量は、魔王と同等かそれ以上だった。人間種でありながら、その力の源が何なのだろうか? 魔王はその答えを確かめたいと思ったのだ。
構えは解かないが、魔王の言葉に男は思考を巡らせている様子だった。これは交渉に脈ありと、魔王は男の言葉をじっと待った。
「……しかし、俺は……、世界の半分などに興味はない……」
「!? ちょ、ちょっと待って! じゃ、じゃあ、全部とか? そ、それは勇者として少し強欲じゃないかしら……? 世界の半分もあれば、なんだってできるわよ? 数えきれないほどの人間の女も貴方の思うままだったりするんだけど……」
「世界の全部もいらんし、ハーレムに興味はない」
「ええ!? も、もしかしてそっちの方なの……? いや、男も思うがままだと思うけど……」
「違うぞ! 男にもそういった興味はないからな!」
男はきっぱりと否定する。
「じゃ、じゃあ何……? 世界以上に何か欲しいものが、お前にはあるっていうの……?」
「……ああ……」
「そ、それは、何かしら……? 」
一体、どんな答えが返ってくるのだろうか…。魔王は興味津々で尋ねてみる。
「『藤林せおり』だ」
「ふじ……ばやし……せおり……?」
この世界では聞いたことの無い言葉だった。その言葉が何を意味しているのか魔王の知識をもってしても分からなかった。
「あ、あの、その、ふじばやしせおり……? ってなんなのかしら……? 聞いた事がない言葉なんだけど……」
「ふふ、よし分かった。『藤林せおり』について、詳しく教えてやろう」
男は不敵な笑みを浮かべる。魔王は勇者と何度か対峙してきたが、これほどまでの嬉しそうな表情は見たことが無かった。『藤林せおり』というものを語るのが、それほどまでに嬉しいことなのだろうか…?
「『藤林せおり』。エロゲーでは異例の爆発的なヒットを記録した恋愛シミュレーションゲーム『どぎまぎメモリーズ2』のメインヒロインで、主人公とは幼なじみの高校生の女の子だ。才色兼備、勉強や運動もそつなつこなすメインヒロインい相応しい風格で、その無垢な笑顔と抜群のプロポーション、甘いボイスに多くのギャルゲーマーが魅了された。俺もその一人だった。それでな、イベントも幼なじみの王道的なものはもちろん、男心をくすぐるようなちょっぴりエッチなイベントも沢山あってな、彼女を攻略し結ばれるエンド見たさに多くのギャルゲーマーが『藤林せおり』の攻略に挑んだ。しかし、攻略難易度はすさまじく鬼畜で、誰もがことごとくお友達エンドで甘んじてしまっていたんだ。俺も何度も挑戦したが、幼なじみエンドが精いっぱい……。バグだとSNSで話題になっていたが、制作会社は完全否定していたし、どうやら、攻略にはかなり厳しい条件を満たさないといけないらしく……。そこで俺は……」
「……ちょ、ちょっと待って!……」
楽しそうに語る男の言葉を制止する。理解できない言葉も幾つかあったが、魔王の知識を総動員して、何とか男の話から意図する内容を導き出した。
「えっと、つまりまとめると、そのゲーム……、遊戯かしら? それに登場する女の子……『フジバヤシセオリ』を攻略したいってこと……? それに、複数人で攻略ってことは、ええと……、人間じゃないわよね……?」
「『藤林せおり』は確かに人間じゃあない。でも、ちゃんと二次元でも俺たちの中では生きた存在なんだぞ!」
「……あ、はい……」
(え、なに……? 遊戯に登場する人間じゃない女の子が、勇者が望むものだっていうの……? そんなものが『世界の半分』よりも大事なものだっていうの……?)
勇者の大切なものを知った魔王は、そのことに腹が立ってきた。人間でない一人の女のために、この魔王との交渉を断ろうというのか。魔王は全ての魔族の命の生存のために、誇りを懸けてこの戦争に挑んだというのに。目の前の男にふつふつと怒りが湧いてきてしまった。
「そんなもの……、『人間でない女一人』のために、このあたしとの交渉を断ろうというの……!」
魔王は、うっかり本音をもらしてしまう。
その瞬間、魔王は勇者から今まで感じたことの無い、殺意のようなドス黒い強い感情を感じた。これほどまでの深い闇のような殺気を放つものは、魔族の中にもそうそう居ないだろう。
「……そんな……もの……? そんな……ものだと……? 今、そんなものと言ったのか!?」
「ひっ」
そのあまりの殺気に魔王は失言に気付く。魔王は目の前の勇者の逆鱗に触れてしまったのだということを。
「……やはりお前も、母さんや大学のクソ連中のように、俺たちの価値観を否定するのか……! 俺にとって『藤林せおり』は、世界の半分よりも、大学の単位よりも俺にとって尊く、大事な存在なんだぞ!」
「で、でも、それって人間じゃなくてゲームの中の話なんでしょ……? ぜ、絶対世界の半分を貰った方がいいわよ……?」
激昂する勇者をなだめよう説得するが、勇者の怒りは収まるどころが更に強い殺気を放ち始めた。
「ふ・ざ・け・る・な……!」
「ちょ、ちょっと待って! もう一度冷静に話し合いましょう。こちらも少し熱くなってしまったし、たかがとか言ったことは謝るから……」
しかし、そんな魔王の説得も空しく、勇者は魔王に獣のように襲い掛かってきた。既に力も魔法力も尽きかけていた魔王は、辛うじて杖で防ぐのが精いっぱいだった。
勇者の猛攻を何とか杖で防いでいると、魔王最大の武具『業火の炎を纏った杖』から、割れるような鈍い音が発せられると、杖全体にヒビが入りる。
「ああっ!?」
杖は粉々に砕け纏っていた業火の炎は、砕けた破片とともに小さな炎となり辺りに消えていった。杖を失い勇者の攻撃を防ぐ手立ても無くした魔王は、完全に敗北したことを悟ると、その場にガックリと膝をつく。
魔王の喉に、勇者の聖剣の先が突きつけられる。
「終わりだ、魔王。『藤林せおり』の存在価値を否定したこと、地獄で永劫に後悔するがいい」
「……そうね……、その『フジバヤシセオリ』という存在は、このあたしが魔族の未来を想う強さよりも強かったということを、お前は証明したのだからな……」
新人類歴765年――。こうして、魔王は異世界から召喚された勇者によって倒されれ、世界に再び平和が訪れるのだった。
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