6.村の家に迎えたら
「名前どーすっかなー。お前はなんて名前がいい?」
帰る道すがら声をかけたけど、オウムはおとなしいままだった。やっぱり緊張しているのかなと少し心配した。
しっかし生まれはニュージーランドだっけ? そしたら英語しか通じないんだろうか。俺そんなに英語得意じゃないし、しかもNZはクイーンズイングリッシュって聞いたぞ。日本の英語ってアメリカ英語じゃなかったか? それじゃ結局英語で話そうとしても通じねえじゃんとかなんとか思いながら、どうにか祖父母の家に着いた。
まだ道中ところどころ雪は残っていたが、朝の早い時間以外は凍結もそれほど心配しないですむ。それでも油断は禁物だけど。慣れない道だ。いや、慣れた道であっても気を引き締めて運転しないと。
だって舗装されているとはいえ山道だし。
「ただいま。オウム連れてきたぞ~」
小さめの持ち運び用の籠に入れたオウムを、土間で伏せているタロウに見せた。タロウは立ち上がり、クンクンとオウムの匂いを嗅いだ。オウムはそれまでおとなしくしていたが、タロウに興味を引かれたのか、籠の中でのそのそとタロウに近寄った。なんか動きが弾んでいるようで楽しそうだ。
「タロウ、まで名前は決まってないけど今日からコイツもここに住むから。できるだけ仲良くしてくれよ?」
基本は俺と同じ部屋だけどな。
荷物も取ってこないといけないので俺はばあちゃんにオウムを預けると軽トラに戻った。
大き目の籠だの、餌だの、おもちゃだのいっぱいある。こういった用品だけでもけっこうな値段がするんだろうなと思った。
「あら、随分大きな籠ねぇ」
「大きめの鳥っつーか、まぁ檻みたいなもんだよ。俺がいる時は俺の部屋で放すから、部屋に入る時は気を付けてくれ」
「わかったわ。で、名前は?」
「まだ全然思いつかない」
「それじゃ困るでしょうよ」
ばあちゃんは苦笑した。
そうだろうかと首を傾げた。居間の方から声がした。
「お前、まだなのか?」
「はいはい、海人が戻ってきましたよ」
ちょっとの間も待てないのか。困ったじじいだと思う。口は悪いし人使いは荒いしとんでもないじじいだ。
俺がここに住まわせてほしいっつったら家賃を払え、だもんな。いや、もちろん払う気でいたぞ。俺は普段働いてるから、その間オウムを看てもらうことになるしな。
でもだからって十万はねえだろ。こちとら役所関係のバイトだから給料は安いんだ。
さすがにばあちゃんが怒って、今のところは五万で手を打ってもらった。それでももらいすぎだってばあちゃんが難色は示していたけど。でももっと金がかかる可能性もあるわけだから、その時は増額しようと思っている。
え? なんでたかが役所のアルバイトがそんなに金をポンと払えるのかって?
ま、それはおいおいな。
さて、オウムである。小さい籠では全然動けなくて困るだろうと、大きい籠に移すことにした。大きい籠を床に置き、両方の入口を合わせる。で、ばあちゃんに大きい方の籠の入口を開けてもらうことにした。
で、いっせーのーせで開けたんだが、思ったよりうまくいかなくてオウムは籠から飛び出してしまった。
「ちょっ、おい待てっ!」
まだ飛ぶほどではないらしく、トトトトトッと逃げていく。確か身体を押えるとだめなんだっけか。ずっと籠生活で筋力が衰えていたのが幸いし、どうにか捕まえて首と足を持った。身体を押さえると窒息してしまうことがあるんだとか。
「ミーヤァーーーー!!」
で、すっごく大きな声で鳴いた。悔しいのだろう。
「海人、ごめんね」
ばあちゃんが済まなさそうに謝る。
「いや? ばあちゃんは悪くないよ。コイツ、俺が思っているよりはるかに頭が良さそうだ」
さっき小さい方の籠を足で蹴るような真似をしたのだ。
「キーヤァーーーー!!」
「うるさいぞ!」
じいさんがたまらないというように叫んだ。じいさんの声の方がうるさいって。
「じじいの方がうるせえ」
「なんだと!?」
「おじいさん、やめてくださいよ」
「ミーヤァーーーー!!」
「あー、わかったわかった。でっかい籠の方に入ろうな。もうわかった。お前の名前はミーだ」
あんまりケアって音には聞こえず、俺の耳にはミーヤーとばかり聞こえた。ヒナだからかもしれない。
「猫じゃないだろう」
じじいがツッコんだ。
「別に? 猫以外にはミーってつけちゃいけないなんてことはないだろ?」
「まぁ、そうだが」
「ミー、明日は俺の部屋で出してやるから今はおとなしくしててくれ」
今度こそ大きめの籠の入口を開けてもらい、中にオウムを入れた。
なんだか、これだけの動作にすっごく疲れた。
水を用意したり餌を用意したりしてへとへとである。最初はミーヤーミーヤー鳴いていたオウムだったが、水と餌を入れてやったら大人しくなった。もしかして腹が減ってたとか? まぁ違うだろうな。
いいかげん外に出たくなったのだろう。気持ちはすっごくわかる。俺は籠の中に指を入れた。オウムは俺の指をつつき始めた。おもちゃかなんかと思ったんだろうか。
「痛い痛い」
嘴の先が長く尖がっててかじかじされると痛い。
そんなこんなで、金曜日の夜は平和に過ごせたのだった。
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