第3話 転生しちゃいましたわ

メリー・アンポワネットとして転生してから5年が経った。

私はアイゼンベルグ王に仕えるアンボワネット侯爵の娘。

10数人の召使を抱える大きなお屋敷に、両親と兄と住んでいる。

いわゆる私は侯爵令嬢なのだ。


ブロンドのふわふわヘアーに、翡翠石のように青みがかったパッチリとした瞳。

卵のようなつるつるの肌は、転生前の私には決して無かったものだ。


たとえ5歳児といえど貴族の娘の一日は意外と忙しい。

連日の礼儀作法の練習に、読み書きの授業、一般常識の勉強に護身術の訓練まである。

鼻を垂れながら男の子と走り回っていた、前世の子供の頃とは大違いだ。


午後からは魔法の練習。

この世界には魔法というものが存在する。

魔法が使用できるのは貴族や王族だけらしい。

魔法は火、水、氷、風、土、雷、光、闇の8属性が存在し、精霊の力を借りて魔法を発現するようだ。

属性は家ごとに決まっており、通常は1属性しか扱えないらしい。

アンボワネット家固有の属性は風魔法で、私も5歳になるとすぐに風魔法の訓練を受けさせられるようになった。


ここまでは他の令嬢とあまり変わらないが、私はある点で他の令嬢とは異なっていた。

そう、私は生まれながら悪役令嬢語しか話せないのだ。


私が話す言葉の全てが悪役令嬢語に変換される。

言い換えれば、お上品な嫌味しか言えないのだ。


(あっ、丁度良い所にドジっ子メイドのマーサが来たわ。

お父様に言われたのかしら、顔が隠れるほどの本を持って歩いているわね。

ちょっと手伝ってあげようかな。)


マーサも私に気付いたみたいだ。

私に声をかけようとした瞬間に、持っていた本を床に全部落としてしまった。


「何をしてらっしゃるの?お父様の大事な本を落とすなんて!あなたよりも価値がある本ばかりなのよ!(大丈夫マーサ?。ケガはなかった?)」


私の発言にビクッとするマーサ。

違うのよ。私はあなたを心配してるのよ。


「も、申し訳ございません、お嬢様!お怪我はございませんでしたか?」


「私がケガをしたらどうなさるおつもりでしたの?もういいわ、行ってちょうだい。(私は大丈夫よ。ありがとうマーサ)」


このように私は本音が全て悪役令嬢語に変換される。

ツンデレなんて生易しいものじゃない。

デレさせてくれないのだ。

残念な女神の悪意しか感じられない。

私はこの特殊能力を使って、異世界初の悪役令嬢になるのが義務付けられているのだ。


あの駄女神いつか泣かせてやる!



・・・・・・・・・・・



私には二人の兄がいる。

長男のヨゼフィスは、私よりも3つ年上だ。

金髪ブロンドのストレートヘアで、妹から見てもウットリするほどの美形だ。


ああ、誰にも邪魔されずお兄様だけを見ていたい♡


将来は騎士団に入団することを目標としており、毎日の剣の鍛錬は欠かさない。

その上、社交的で誰に対しても優しく、彼の女の子たちの評判が良いようだ。


イケメンで強くて、性格がいいって最強じゃないでしょうか!


駄女神のせいで本音を癒えない私にも、優しく接してくれる数少ない人物だ。


もう一人の兄アルベルトは、私の1つ年上だ。

同じくブロンドヘアーの少年で、逞しい体つきのヨゼフィスと比べ線の細い美少年といった印象だ。

長男のヨゼフィスと違い病弱で、頻繁に流行り病を患ってしまう。

ただ、いくら生死を彷徨うような病気を患っても次の日にはケロッとしている。

本当に病弱かどうかも怪しいもんだ。


彼は超がつくほどシスコンで、いつも私にべったりとくっついて気を惹こうとする。

はっきり言って超うざい!

私の悪役令嬢語どころか、本気の嫌味に対しても全く動じないのない鋼のハートの持ち主なのだ。

機会があれば、口いっぱいに梅干をねじ込んでやりたい。


私の母、モリアはブロンドヘアが似合う美しい女性だ。

やや?かなり?ぽっちゃり系で、社交界ではおデブ淑女と陰口を叩かれている。

普段はあまり気にしていないようだが、パーティ等に参加する時は1時間以上かけてコルセットと挌闘している。

お肉をぎゅうぎゅう詰めにしたその姿は、焼き目を付ければ香ばしそうだ。

ただ、私はその域まで達していないので、可能な限り自分の体型は維持したいと思う。


母は見た目通りおおらかな性格で、私の悪役令嬢語にも気にする様子もない。

むしろ私がどんな悪役令嬢語を話すかと楽しみにしている兆しがある。

それが彼女なりの愛かどうか分からないが、私にとっては救いなのだ。


父は私たちが住むアイゼンベルグ王国と、隣国ヴェネパール王国をつなぐ外交官のような仕事をしている。

そのため家に帰ってくることがほとんどなく、大半はヴェネパール王国で暮らしている。

父はアイゼンベルグ王のお気に入りで、外交官の枠を超えた仕事まで任せられているらしい。


離れて暮らしてはいるがとても家族思いであり、月に一度は一人一人に手紙を送ってくる。

たまに帰ってくるときは大量のお土産を従者に持たせるので、ぎっくり腰になった従者が後を絶たないという。

それでも私たちは父が帰ってくるのをいつも心待ちにしていた。


ただ、子供の前で母とイチャつき過ぎるのは精神衛生上良くないので、ほどほどにしてくださいませ。


こんな個性的な家族に囲まれたら、私の悪役令嬢語なんて目立たない。

私が何を言ってもこの家族は笑って許してくれるのだ。

このままここに住めれば、私は幸せに暮らせるでしょう。

ただ、そんな展開にあの駄女神が満足するはずもなく、私はある日王太子殿下と運命の出会いをしてしまうのだ。

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