(31/47)せっかくだから見に行かね?
「確かに」
ジーナが依頼書に浮かび上がった俺の名前を確認した。
「ありがとうございました。こちらをどうぞ」
受付のカウンター越しに報酬を手渡してくれる。
そして、にっこりと笑い首を傾げた。
「カイさん。初めての依頼完了おめでとうございます」
くぅ〜っ、ジーナも可愛いなあ。
「「やったー!!」」
後ろではリタとチィが歓声を挙げている。
仲間が喜んでくれると一層俺も嬉しい思いが大きくなる。
良いもんだなあ、仲間って。
と、いきなり真顔になるジーナ。
「しかし、カイさん、よく依頼完了できましたね。チッ」
あれ?舌打ちしてない?
「てっきりできないかと思ってましたよ」
え?
「だって、リタさんからの情報は……」
ジーナの顔がみるみる曇っていく。
「そのくせ自分は出来る方に賭けているなんて」
え?え?
「とんだマッチポンプ詐欺じゃないですか」
大きな声はではないものの明らかに怒っている様子だ。小さな握り拳が力んで赤くなっている。
「え?その、ごめん?」
とりあえず謝ってその場を去る。
リタが近寄ってきた。
「いやあ、カイ、おめでとう!おめでとう!何度でも言うんだよ。おめでとう!」
「おい」
「え?あれ?何怒っているの?ああ、そうか」
俺の肩をばんばん叩きながら言葉を続ける。
「むしろ『ありがとう』なんだよ」
「そういうことじゃねぇよ。お前、俺の依頼ができるかできないかで賭けをしていたのか」
「まあ、ね!そういうことなんだよ」
リタは舌を出してウインクする。
「おい!人の仕事をなんだと思っているんだよ」
「だって……チィもなんだよ?」
「あいつまでもか!」
「でもいいじゃない。ボクもチィも出来る方に賭けていたわけだし」
そう言いリタはうなずくと俺の肩に手をおいて言葉をつなげる。
「仲間を信じた結果なんだよ?」
「うるせー!賭け事を綺麗事に浄化するな!」
と、騒ぐ俺たちに声がかけられる。
「仕方ない。カイが上手くいったなら御祝儀だな」
「コトンボとはいえ最初の依頼完了なわけだしな」
「そうだな、おめだとう」
次々と冒険者たちがやってきた。
なんだかんだでいい奴らばっかりだ。
「まあ、受け取れ。勝負は勝負だしな」
「パーティメンバーを信じて自分の仲間にかけて一人勝ちか。それもいい話だ」
「新たな冒険者の誕生だ」
みんな、リタとチィに小銀貨を渡していく。
「へへ。まいどありーだよ!」
……なんか納得いかない感情が俺の中でおさまらないが。
まあでも、口々におめだとうだの言って一緒に喜んでくれているから良しとするかあ。
「でもさ」
懐が豊かになって顔が緩みまくっているリタに話かける。
「ん?なに?」
「ギフトもらえる時って音と共に字幕が流れるんだな」
「ジマク?」
「『トーシ・トーシ』の時なんかは速くてなかなか読めなかったんだけどさ」
「読む?」
「ほら『ポピン♪』って音と一緒に字幕がさ」
「ジマクって何?ギフトの時は音がするだけでしょ?」
「え?」
「授かった音はするけどどんなギフトなのかわからないから、いつ使えるようになるかは運次第だし。そういう意味ではカイってすごいよね。すぐ使えるなんてラッキーなんだよ」
「んん?」
と、その時。
ギルド中に短く大きな鐘の音が何度も繰り返し響き渡った。
同様に外からも止まず繰り返し聞こえてくる。
「なんだ!?」
俺は声を上げ周りを見渡す。
冒険者たちは一斉に立ち上がっていた。
受付の中にいたジーナが出てきて叫んだ。
「みなさん!落ち着いて聞いてください!」
ギルドの中が静まり返った。
緊張に満たされた空気が重く満ちてくる。
ごくり。
誰かがツバを飲みむ音がいやに大きく聞こえる。
ジーナは冒険者たちを見回し身体中で大声をあげた。
「魔……魔人が城壁の外に現れたとのことです!」
その声の直後、一瞬、鐘の音が途切れた。
静寂で満たされる。
が、すぐに誰かの怒鳴り声が打ち破る。
「なにぃーっ?」
途端にギルド中に騒めきがやってきた。
「魔人だとぉっ?」
「こんな田舎にぃっ?」
「やばくないか?」
統制の取れていないガヤガヤとした声が渦をさらに大きくしていく。
声が声を呼び、また誰かの声をあげさせる。
混乱は混沌を生み混濁へと化し誰もの声が一層大きくなった。
「俺、魔人をこの目で見るの初めてかも!」
「あ、俺も俺も!」
「でもさ、なん用だろ?」
「あ。わかる!わたしもそう思った」
あれ?
「せっかくだから見に行かね?」
「だよなー!行くべ行くべ!」
なんか軽くない?
「冒険者のみなさーん!とりあえず落ち着てくださーい!」
ジーナがことさら大きな声を出した。
しかし冒険者たちの高揚はおさまらない。
「みなさーん!みなさんてっばー!おい、聞けこの野郎!」
ジーナが大きな音をたてて片足を乗っけた。
視線がジーナに集まる。
「ギルドからの依頼です!
「「「「「おおおおおっ!」」」」」
冒険者たちの声が地響きのように一致した。
各々腕とともに雄叫びをあげ、我先にとギルドから駆け出していく。
「リタ、チィ!俺たちも行くぞ!」
「でも魔人なんだよ?」
「コトンボ以下のあなたに魔人は危険でしょ」
「何言ってるんだよ。お前ら魔人見たことあるのかよ?」
二人は横に首を振る。
「じゃあ、行こうぜ。俺も見てみたいし。それに……」
俺は二人を見て言う。
「俺たちだって冒険者だ!」
そして二人の手をとって駆け出した。
リタもチィも俺に引きずられるように進み出す。
「カイ、待ってよ。ボク、戦闘には不向きなんだよ?」
「ちょ、ちょっと。チィも戦ったことないし」
二人は不安な表情を浮かべている。
「大丈夫、大丈夫」
だってさ。
「強そうな冒険者さんたちの後ろから見るだけだし」
「「……なにそれ」」
二人の冷たい視線が突き刺さるが構わずに走り続ける。
城壁の外に出た。
赤く頑丈で重そうだけど身体の線が強調されたどセクシーな鎧を身に纏った人……魔人?が小高いところに立っていた。
そして鎧の上には紅いファーが肩から下げてられていた。
女の人?だよなあ?
え?
あれ?
「ねえ、カイ」
うん、俺もそう思う。
「見たことあるんだよ?」
うん、俺もあるね。しかも昨晩ね。
「あれって」
「ねえ、あれって」
リタとチィが顔を見合わせたので俺が引きとった。
「デトさん?……だよなあ?」
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