(12/47)ウエイトレスがけしからん

 むにゅ。

 え?むにゅ?

 もにゅ。

 え?こっちはもにゅ?

 ……わかりにくくて申し訳ない。

 何をしてるのかと言うと寝返りをしていたのだ。

 最初は左に。次は右に。

 えっと……、なんか最近も似たようなことがあったような?

 と思いつつ、身体をまた左へ返しむにゅに顔をうずめた。

「……ん、んっ。なんか苦しいんだよ?……って、きゃーっ!」

 リタの声。

 と同時に頭を叩かれた。

「な、なに?なにー?いやー!」

 リタの第二声。

 今度は耳に痛みやってきた。

「痛い!痛いっ!痛いーっ!」

 俺も叫んでしまう。

 どうやら俺は耳を引っ張られているようだ。

 そのまま引っ張られ顔を埋めていたむにゅから遠ざけられる。

「カ、カイ、何してるの?」

 目を開けるとすぐそこにリタの顔があった。

 と思ったら、俺の耳を離しベッドを降りたかと思うと物凄い勢いで壁に背をつけた。

「っていうか、ボクに何かしたの!」

 その勢いとは別に、まだベット上にそのまま横たわる俺の右側からもそもそと動く気配がした。

「もう。。。リタぁ、朝から騒がしいわよ?」

 声の方を見るとシャーロットが目をこすりながら上半身を起こしていた。

「さ、さ、三人でベッド……」

 リタはそう言うと、へなへなと腰を落とした。

 えっと……?

 俺は真上を見た。

 ……見たことのある天井だ。

 いつのまに朝になったのだろう。

 いや、その前に。

 いつの間に俺はベッドに?

 っていうか、なんだこの状況。

「カ、カイ!どういうこと?女の子二人とベッドって!このハレンチメガニスト!」

「リタ、とりあえず落ち着け」

「ケダモノメガネ!キチクメガネ!」

「いいから落ち着いてくれ」

「……許せない」

「頼むから落ち着いて。な」

「許せないっ!ええーっい!」

 リタが自分の前で腕を交差させ俺に飛び跳ね向かってきた。

「リタぁ、あなたがこのベッドに来たんでしょ?」

 リタのジャンプとほぼ同時にまだまどろんでいるシャーロットが髪を整えながら声をかけた。

「え?待って、待って!」

 と、リタが声を出す。

 しかしそんなことでリタのフライングクロスアタックは止まるはずもなく俺のあごに的確にヒットしたのだった。

 で。

 リタは無言で床に直に正座をしている。

 それを横目に俺はシャーロットと話す。

「つまり、また酔いつぶれた俺を、シャーロットがまたこのベッドに運んできてくれて」

「そうです」

「リタも酔ってるので家に帰そうとしたら、シャーロットと一緒に寝るのはズルいとだだをこねて」

「そうです」

「さっきのようにベッドに跳びこんできて、さんざん暴れて、いつの間にかに高いびきとなり今朝になったと」

「はい、そうです。カイさん、昨日も空き部屋がなかったもので狭くなってしまってごめんなさい」

 シャーロットと俺のやりとりをリタは小さくうなだれてただ聞いている。

 俺はリタへと顔を向けた。

「で?誰がハレンチだと?誰がケダモノだと?」

「……スミマセン」

 リタが更に頭を下げ、いっそう縮こまった。





 

「おーい、キエール二つと本日の煮込みくれー」

 ギルド内に冒険者の太い声が響いた。

「はい、ただいまー」

 俺はその声に応える。

 そんな朝を過ごした俺は今ギルドにいた。

 目的は二つ。

 一つは依頼失敗の報告。

 ただ期限はないとのことなので依頼書は持っていても良いらしい。掲示板にも同じ依頼書が掲示されており成功者が早い者勝ちで報酬を得られるとのこと。

 そしてもう一つの目的は他の仕事をするためだ。

 昨晩、シャーロットの身にも心にも優しく染み渡るご飯を食べながらアドバイスをもらったのだ。

 冒険者のような仕事ではなくもっと簡単なものが良いんじゃないかと。

 その結果。

 ギルド併設の食堂で黒のスーツのような服に身を包みウエイターをしているのだった。

 今は無一文だけど、宿代や食事代、ギルドの登録料とかきちんとシャーロットに返さねば。

 優しいシャーロットは気にしないでと言ってくれているが、やっぱり何となく嫌だった。

 それで身の丈にあった危なくない仕事、つまりウェイターのバイトをしているのだ。

 ある者は仕事を求め、ある者は情報交換、またある者は暇潰しにと、ギルドの食堂はいつでも賑わっているらしく、人手は常に募集しているらしい。

 まあ使えるギフトのない俺には、こういったところから始める方が良いんだろう。

 ……しかし。

 俺は周りを見渡す。

 しかし、けしからんことだと思う。

 何がって?

 ウエイトレスがけしからん。

 だって……可愛すぎるだろ?

 ギルドの食堂には数人のウエイトレスが働いているのだが、もれなくみんな可愛いのだ。

 ウェイターだけでなくウエイトレスの彼女たちもまた制服に身を包んでいた。

 黒を基本としていて、その端々に白のフリルがあしらわれており、短めのスカートの裾がふわりと広がっている。聞くと男性だけでなく女性の間でも人気の制服とのこと。

 ミニスカメイドの様に可愛らしい制服なのだが、着ている彼女たち自身もまた可愛い。

 きっとそういうこともあって、この食堂はいつも人気なのかもしれない。

 で。で、だよ。

 彼女たちが動くたびに裾がふわっと舞い上がって、そのおみ足の付け根が見えそうになったり、そのお胸が魅力的に挑発してきたりするわけなのです。

 まったくもって、けしからんのですよ。

 見えそうで見えない。服があることでその中を想像させる。

 それもまた魅力だけど、やっぱり、ほら、ねえ……。

「はーい、ただいまー」

 冒険者に声をかけられたウエイトレスがオーダーを訊きに小走りで近寄っていく。

 スカートはひるがえり、そのお胸も軽やかに存在を主張する。

 やっぱり目を奪われる。

 くうっ~っ。

 この見えそうで見えないのももちろん良い。

 もちろん良いですよ?

 ただ…、ただ…。

 じれったい!

 やっぱり、もっと中身を近くで見たいっ!

 いや普段はそんな力強く思わないよ?

 でもこの環境だと仕方なくない?

 俺は近くにいたウエイトレスの胸元をつい見つめてしまう。

 じぃーっ……。

 透けたりしないかな。とか。

 目を細めてみたりして。


 ポピン♪

 頭の中で音が鳴り、ニュース速報の字幕のようなものがさっと横切った。

 えっと……『透視』とか書いてあったような?

 

 と、チラシのようなものが視界に広がった。

 うん?

 依頼書?

 目の前に依頼書があった。

 なんだなんだ?

 りきみきった目をこすってみる。

 見えているものがウエイトレスの胸元に戻った。

 そして視線を感じる。

 胸元の持ち主あるじからじっとりとした目で見られていた。

「いや、は……は、ははは」

 笑いにならない乾いた声でごまかしてそそくさと視線を移す。

 じと目の彼女もさっさと場所を移動した。

 しかしなんだったのだろう?

 もう一度彼女のいた場所を改めて視てみる。

 すると……、その奥には依頼書掲示板があった。

 お?あ?あぁーっ!

 ひょっとして……そういうこと?

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