第43話 お姉様の離婚騒動ですわ

「お前は自分が何を言っているのか分かっているのか!?」


 執務室からはアルド公爵の怒鳴り声が聞こえてくる。


「なんでダメなのよ! 良いじゃない。私はそうしなければいけないのよ!」


「何だそれは? そんな子供の言い訳が通用するかっ!」


 セリアは執務室へと入り、この言い争いに割って入る。


「お父様? あの男はお姉様を愛してらっしゃらないわ。それどころか見下し、良いように利用していますのよ?」


「それはお前が気に入らないからそのように見えているだけだろう? セリアよ。ゼイルはな、きっちり仕事もこなすし社交も出来る。カリアのような馬鹿娘を支えるには奴しかおらんのだよ。」


 確かにカリアは言葉遣いはなっていないし、礼儀作法も及第点に届くかどうかの馬鹿娘だった。ちなみに、ゼイルと言うのはカリアの旦那である。


「……最終的にクルライゼ公爵家が乗っ取られ、お姉様が捨てられても良いという事でしょうか?」


「そんな事は言っておらん。そもそもだ、カリアがいなければ婿養子は当主になれんぞ?」


 貴族家当主というものは血統を重んじるもの。婿養子に相続権はない。


 しかし……


「どうとでもなりますわ。お姉様の子供が生まれてしまえば、やりようは幾らでもあるものです。」


 セリアの言う通り、子供に相続させて自分が補佐役のようなポジションを得る事で、それなりに好きに出来るのだ。


「くどいぞ!」


 アルド公爵は怒り、大声を出す。


「娘。壁ドン。」


 セリアがボソっと発言すると、アルド公爵は体をビクリと跳ねさせ、少しだけ焦った様子ですぐさま言い返す。


「ふ、ふん。良く考えてみれば、証拠もないな。壁ドンがどうかしたのか?」


「もしかして、記録映像をご覧になりたいのですか? お姉様のいる前で?」


 セリアがその豊かな胸元から映像記録の魔道具をチラつかせると、アルド公爵は顔をサァッと青ざめさせ、手のひらを返した。


「さぁ! カリアよ。離婚の手続きを進めるぞ! 父はお前の恋を応援している!」


「流石はお父様! 娘の為を想っているのね……。」


 娘想いの父にカリアは嬉し涙を流している。


 そして、チラリと何度も魔道具を父に見せつける親不孝なもう1人の娘。


「早くしないと、ワシの立場が……じゃなくて、恋が逃げてしまうかもしれん! カリア、泣いている場合ではないぞ? 早くするのだ! 頼むから!」


 そろそろ良いかと、セリアが魔道具を見せつけるのをやめると……


「どうかされましたか?」


 執務室に入って来たのはカリアの旦那、ゼイルであった。


「あら、これは丁度良い所に。お久しぶりですわね?」


「あ、あぁ……ベリオーテ公爵夫人。お久しぶりですね。」


 ゼイルの顔が引き攣っている。彼女にされた数々の嫌がらせを彼は当然覚えているのだ。


「ゼイル! あなたとは離婚よ!」


「……何故急に?」


「あなた、俺様というものを勘違いしてるわ。ただ尊大に雑に女を扱えば良いわけじゃないのよ? ハッキリ言って痛々しいのよ! それでも私は雑食系俺様大好きっ娘だから、あなたみたいな俺様の成り損ないでも我慢していたけどね!」


「なんだ……と? いや、そう簡単に離婚出来るはずがない。そうですよね? アルド公爵!」


「離婚だ。」


「何故!?」


 言っているアルド公爵本人ですら納得はしていないのだが、セリアにチラッと視線を向ければ、彼女の口が上映会をするぞと声を発さず動いている。


「……離婚しなければいけない。」


「それでは納得いきません!」


「しかし、本人もこう言っている事だし、セリアも離婚しろと言っている。……ワシも……そのぅ……離婚した方が良いかなぁって。」


 アルド公爵の言葉が段々と弱まっている。


「そんな理由では離婚しませんよ!」


「離婚なさい。本人が嫌だと言っているのですわ。脳みその代わりにカニみそでも入ってらっしゃるの?」


 セリアの暴言が彼に突き刺さる。


「何故あなたにそのような事を言われなければならない!?」


「身内だからですわ。」


「もう許さん!」


「許さん? 二級魔法士の私に決闘でも挑むおつもりで?」


「くぅっ! ならば剣での決闘だ!」


「お受けするはずがありませんわ。たった今、ここで、無惨に、あなたを壁の染みにしてあげても宜しいのですが?」


「……。」


「それとも、人体実験に御協力頂けるのかしら? 勿論その際は失踪扱いにしておくのでご心配なく。」


「くそぉぉぉ!!」


 そう言ってゼイルは部屋から走って出て行ってしまった。


「セリア。こんな事して、彼の実家に抗議されないかしら?」


「大丈夫ですわ。お姉様ったらお忘れかしら。あの男の実家はとうの昔に没落して、今ではどこの後ろ盾もありませんのよ?」




 数日後、ゼイルの没落した実家から抗議文が届いたのだが、そもそも没落した家の抗議などには何の意味もない。


 離婚の原因は、ゼイルの横柄な態度やカリアを馬鹿にする発言の数々。


 これに関しては使用人からの証言が決め手となったのだ。


 使用人は他の貴族の次男三男である事が殆どで、公平さも保証される事から、貴族界隈でも問題視される事は無い。


 ゼイルは普通にしていればイリジウム王国有数の大貴族、クルライゼ公爵家の当主の父親というポジションに就けたものを、自らの行いによってダメにしてしまった。


 家族にはなじられ、実家を追い出されてしまったそうだ。


 一方で、元々の希望通りカリアは執事のマサーレオと再婚。


 2人は日々“俺様壁ドン”プレイに精を出している。

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