最終話 ブッ飛び公爵夫人の楽しい契約結婚講座ですわ

「ただいま戻りましたわ。」


 セリアは往復一週間の馬車旅と、クルライゼ家に三日滞在した。


 計十日の日程を経て、ベリオーテ家に戻って来たのだ。


「お帰り、待ってたよ。」


「お帰りなさーい。セリアはまだか! ってケイスがうるさかったよ。」


 ケイスは嫁大好き人間である為、日に日にうるさくなっていたようだ。


「内緒だって言ったじゃないか!」


「どうせ使用人の皆からバレるよ?」


「ぬぬぬぬ……それで、クルライゼ家の呼び出しってどんな用件だったのか聞いても?」


 ケイスは一旦その話を追いやり、セリアに事情を尋ねる。


 彼女の説明はなかなかに衝撃的だった。


 姉の壁ドン趣味がバレて、誤魔化すついでに父親の脅迫材料を握った事。


 姉の旦那が嫌な奴で、姉を焚き付け離婚させた事。


 その際に父を脅して離婚に同意させた事。


 執事のマサーレオとの再婚を薦め、数日で再婚させた事。


「やっぱりあの二人はそういう関係になっちゃったんだ。」


「そう言えば、キャロルはあの二人を一番怪しんでいましたものね。」


 キャロルは事前情報無しで、なんとなくカリアとマサーレオの関係に怪しさを感じていたのだ。


「聖女の勘って奴かも。」


「そんな力があるんですの?」


「それは初耳だな。」


 あっても不思議ではない。実際に結婚してしまったのだから。


 しかも、互いが意識すらしていない段階で。


 2人がそう思っていると……


「そんなワケないじゃん。冗談だよ冗談。」


 とキャロルが笑い飛ばす。


「それにしては……一先ず聖女というのは横に置いて、勘は鋭いんじゃないか?」


「そうですわね。私も長年あの二人を見ていましたが、特に怪しいとは思っていませんでしたわ。」


「近くにいると見えないものもあるんじゃない?」


「そういうものでしょうか……。」


 セリアはいまいち納得がいっていないようだ。


 あるいは本当に聖女の勘が……そう思っているのかもしれない。


「それにしたってセリア、良くそんな風にトントン拍子に事を運んだよね。元から考えてたの?」


「今回の件は流石に予想していませんでしたので、咄嗟の思いつきで実行したのですわ。」


「何でそんな魔道具を持ってたのかとか、咄嗟に映像を記録しちゃうんだとか、色々と聞きたい事はあるんだけど……お父さんを脅すのはどうかと思うよ?」


「何かあってからでは遅いので、魔道具は普段から持ち歩いているのですわ。」


「えぇ?」


「それに。こうしなければ離婚の同意を得られませんでしたので。」


「まぁ……そうだね。セリアがお姉さん思いだったのは意外だけど。」


「言ってませんでしたか?」


「聞いてない。セリアがお姉さんに悪戯しまくってた事しか知らないよ。」


「それはうっかりしてましたわ。」


「さては、ワザと言わなかったの?」


「それはどうでしょう?」


 セリアは天邪鬼な所があり、良い人ぶるのがあまり好きではないのだ。


「ぐぬぬぬぬ……。」


「旦那様? どうかなさいまして?」


「俺だってセリアに壁ドンしたい!」


 ケイスは嫉妬まる出しで言い放つ。


「旦那様には似合いませんので、違うプレイを致しましょう。」


「おーい。私も居るからそういう話は2人でしてよ。」


 セリアは恥ずかしくて俯いてしまった。


「私もそろそろ相手を見つけないとなぁ……。」


 キャロルは2人を見ながらちょっぴり寂しさを感じていた。


「キャロルが出ていくのは嫌ですわ。」


「それは俺も嫌だ。」


 誰かと結婚するとなれば、当然この屋敷からは出ていくのだ。


 それを引き止めにかかる公爵夫妻。


「じゃあどうすれば良いのさ?」


「キャロルはどういう方が好みなんですの?」


「好みかぁ。」


 頭を悩ませ考え始める聖女。


「どうなんだ?」


「そうだね。先ずは、浮気しなくて……」


「うっ!」


「仕事を投げ出さなくて……」


「うぅっ!」


「後は、両親が変じゃない人!」


「ぐはっ!」


 ケイスはその場に倒れてしまった。


「それは全部、昔の旦那様が逆の意味で当てはまってますわ。」


「……セリア良くこんな人と結婚したね。」


 キャロルが床に倒れた男に向ける目は冷たい。


「旦那様には才能を感じたのですわ。」


「へぇー、どんな?」


 そんな才能あるの? と雰囲気に滲ませる聖女はとても辛辣であった。


「私を一番愛してくれる才能ですわ。最も大事な才能ですのよ?」


「セリア……。」


 ケイスは愛する嫁の綺麗な脚にしがみつき、感動していた。


「あーあ……私も結婚したいなぁ。こんな人は嫌だけど。」


 そう言って情けない姿のケイスを見るキャロル。


「それなら、キャロルには良いお話を教えて差し上げますわ。」


「なになに? 良い人を見つける方法?」


 食いつきの良い聖女は、セリアの話に耳を傾ける。


「これは私の実体験に基づいたお話でして、たとえ辛い状況であっても楽しい結婚生活を送れるお話ですのよ?」


「結婚後の話なの? それは参考になるのかな?」


「勿論ですわ。誰もが結婚したら幸せになれるワケでありません。そういう方にこそ、このお話を参考に前向きな気持ちを持って頂きたいのです。ほんの手助けとして……。本当なら金貨1枚取るお話ですのよ?」


「じゃあ聞いてみる。」


 現金な聖女であった。


「題して、ブッ飛び公爵令嬢の楽しい契約結婚講座! キャロルはお友達価格で無料ですわ。」

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【完結】ブッ飛び公爵令嬢の楽しい契約結婚講座。(今ならたったの金貨1枚ですわ。) 隣のカキ @dokan19

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