2、続・シェルター作りは大変

 鱗斧も完成したし、さっそく木をきっ――。


「あ、お~い、リョー! ゴブリンノコシカケが、焼けたよ~」


「……」


 今からって時に、焼きあがるなんて……。

 まぁいいや、エネルギー補充は大事な事だし。

 食べ終わってから伐採作業をするとしよう。

 僕は鱗斧を置いて、かまどの傍へと向かった。


「はい、どうぞ」


 アリサが焼きゴブリンノコシカケを渡してくれた。


「あ、ありがとう……」


 このプルンプルンなのは焼いても変わらないんだな。

 匂いは……んー……焼いたシメジに近いかな。

 一番の問題は味だけど、どうなんだろう。

 恐る恐る焼きゴブリンノコシカケを口元に持って行き、一口かじってみた。


「はぐっ……んっ!?」


 何だこれ!?

 プルンプルンしているから柔らかいと思ったけど、なかなか噛み千切れないぞ。


「んぎぎぎ! ――んっ!」


 何とかかじった部分を食いちぎり、口の中へと入れる事が出来た。


「もきゅ……もきゅ……もきゅ……」


 すごい弾力だな……あれだ、飲み込むタイミングが分からずに、ずっと噛んでしまう焼き肉のホルモンみたいだ。まぁキノコだから、肉の味なんて全くしないんだけども。

 味的にはシイタケに近くて、噛めば噛むほど旨味が出て来るからこれはこれで美味しくはある。

 ただ……ひと味もの足りないんだよな。

 塩かコショウといった味付けが欲しい。


 コショウってこっちの世界にもあるのかな。

 仮にあったとしても、この島に生えているようには思えないから考えない方がいいか。


 塩に関したら、海水を煮詰めて作っている動画を真似したらいけるかもしれない。

 ある程度、余裕が出来たら試してみるのもいいかもしれな。

 塩は味付けの他にも保存とか色々と使い道はあるし。


「モグモグ……ん~、おいひいねぇ~」


 アリサはゴブリンノコシカケを何の苦労もなく食べている。

 顎が強いのか、歯が強いのか……ハーピーだから両方かもしれないな。


「はぐっ……んぎぎぎ! ――んっ! もきゅ……もきゅ……」


 あーこの食べ方は疲れて来る。

 食事で疲労するなんて初めての経験だよ。

 普段はよく噛むようにしているけど、これ以上噛んでいると顎が変になりそうだ。

 仕方ない、ある程度大丈夫と思ったらもう飲み込んでしまおう。

 のどに詰まらせないように気を付けて……。


「ゴックン……ふぅ」


 食べるのは大変だったけど、お腹はいっぱいにはなった。

 これでシェルター作りのエネルギーは補充出来たし頑張りますか。


 今から作ろうと思うのは、Aフレームシェルター。

 家の屋根を地面に置いたような形の物だ。

 理想の屋根と壁がある家はどんな簡単なものでも、どうしても時間が掛かってしまう。

 だから、先に比較的簡単に作れるAフレームシェルターを作る事にした。


 差し掛けシェルターとは違って、Aフレームシェルターの屋根の部分は葉っぱにする事にしよう。

 流石にヒト2人が入る大きさの物で、屋根に隙間があるのはまずい。

 まぁそれでも雨漏りする可能性はあるが……その時はその時で、また考えよう。

 で、その屋根だけどサバイバル動画では落ち葉をかき集めたり、細長い葉っぱを編んだり、葉っぱを瓦のように並べていたりしたな。

 この島で、屋根に使える葉っぱと言えば……。


「えと、アリサ……さんに聞きたい事があるんだけどいいかな?」


「モグモグ……ん? なに?」


「に、虹色に光ってて、僕くらいの大きい葉っぱがあったんだけど、あれって人には無害かな?」


「虹色の、大きな……ああ、あれか。名前は知らないけど、町中でも、普通に生えてるから問題ないと思うわよ」


 あれが町中に生えてるってか。

 僕の世界でいうとこの、道に木が生えている街路樹みたいな物か。

 なら無害と考えもよさそうだ。


「そ、そっか。じゃあ僕は今から木を伐るから、その間びアリサ……さんは、あの虹色の葉っぱを出来る限り沢山採って来てほしんだ。シェルター……家みたいな物の屋根や地面に下に敷く為に使いたいんだよ」


「おお! 家作り! わかったわ、まかせて!」


 アリサは残っていたゴブリンノコシカケを口に入れ、森の中に走って行った。

 やる気のある事はいい事だけど、どうしてあんなに張り切っているんだろうか。

 ……まぁいいや、僕も負けじと頑張ろう。



「――ふん! ふん! ふん! ふん!!」


 鱗斧の威力は絶大で僕の腕くらい太さの木と、それより細く折れにくい木を約20本ほど簡単に伐り倒すことが出来た。

 ノミみたいに鱗で削った時とは大違いだ。


 アリサの方もかなり頑張ってくれたようで。

 僕が伐採をしている間に、虹色の葉っぱの山が出来てしまっている。


「よし、材料集めはこんなもんかな。えーと、アリサ……さんも手伝ってくれる……かな?」


「はい、は~い。うちは、何をすればいいのかな?」


「ま、まずはこの2本の棒を縛るから、動かない様に押さえててくれる?」


「……こう?」


「そうそう」


 2本の棒の上の部分を交差させて置き、それを蔓で縛る。

 そして、下の部分に横棒を置いて2本の棒に蔓で縛る。

 これで文字通り、A型フレームの完成。

 後は、地面に立てやすい様に端を尖らして……勢いよく地面に突き刺す。


「うん、これでいいな。後は、もう1個同じ物を作って反対側に建てよう」


 2個のA型フレームを建てたら、Aのてっぺん部分に長い棒を横に置いて蔓で縛る。

 そのてっぺんの棒に差し掛けシェルターの時みたいに、木材を45度くらいに斜めに立て掛けるけど、今回はぴったりと並べないで一定間隔に置いて行く。


「そして、上は蔓で縛って、下は地面に突き刺して固定すれば……骨組みの完成だ」


「……骨組みの完成って……うちが、思っていたのと全然違う……」


 家に反応していたからな。

 屋根だけ地面に置かれていたら、そりゃ違うってなるか。


「……ほっほら、次の作業に入るよ」


「……は~い……」


 明らかにテンションが落ちてるよ。

 どんな形になるか説明くらいしておくべきだったかな。

 今更だけど……。


「は、葉っぱの上の辺りを、この細目の棒でこんな感じで突き刺していってくれるかな?」


 裁縫の並縫いの様に、棒で葉っぱの表と裏を等間隔に突き刺してアリサに見せた。


「……こう?」


「そ、そうそう。それで、どんどん葉っぱを刺していってほしんだ」


 それで出来た葉っぱののれんを、骨組みの下の部分から蔓で縛って固定。

 下の部分が出来たら、その上に縫い目が隠れる様に葉っぱののれんを重ねる。

 それを瓦みたいに上へ上へと重ねて行けば屋根の完成。

 後はてっぺんの空いた部分に葉っぱをかぶせて、その上にバツ印の形にした木の棒を重石として置いて行けば、Aフレームシェルターの……。


「……完成だ」


「お~……うん、これは……あの……その……なんと、いうか……」


 アリサが言葉に詰まっている。

 まあ、そうなるのもわかるよ。

 屋根だけだから造形として地味。

 でも、虹色に光る葉っぱを使っているから見栄えはド派手。

 そんな陰と陽が混じったシェルターが、森の空き地にポツンと建っている絵面。


 このものすごくカオスな空間に、僕も戸惑っているのだから。

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