4、未知の動物

 朝日が昇り、辺りが明るくなってきたころに僕は木のベッドから起き上がった。

 このベッドの硬さには全くなれないな……体中が痛い。

 そろそろまともに寝られるようにしないと体がもたないな、こりゃ。

 今日は森の中を探索するから、何かしら対策が見つかるといいな。


「おーい、アリサさん。朝ですよー起きろー」


 僕は木の上で寝ているアリサさんに声を掛けた。

 彼女は野宿の時、基本的に木の枝の上で寝ていたらしい。

 普段は空を飛んで登っていたらしいけど、今は飛べないので手足の爪を木に引っ掛けて器用に登って行った。

 そこまでして木の上に行くのは、やっぱり鳥類だからなんだろうかと思った。


「んあ…………もう、朝……? ……ん~~~~…………よっと」


 目を覚ましたアリサはひと伸びをして、木から飛び降り華麗に着地をした。


「おはよ~……朝ご飯は、どうするの?」


 朝ご飯か、どうしたもんかな。

 火はもう消えちゃっているし、森の中を探索するから今からここで火おこしするのも……あ、そうだ。


「沢の近くに幸運の実があるから、顔を洗うついでにそれを採って食べようよ」


「幸運の実!? なにそれ、気になる! 早く、採りに行きましょう!」


 アリサは幸運の実という言葉に目を輝かせて、沢の方に向かって走って行った。


「あっ! ちょっと待ってよ! えと、流石に木のベッドを持ったまま森の中を探索するのは厳しいから、後で取りに来るとして……残りは木の箱に入れてっと……」


 僕は水を入れるためのビンや火おこしの道具を木の箱の中へ押し込み、急いでアリサの後を追いかけた。



「……なんだ、ただのリーンの実じゃない。期待して、損しちゃった……」


 アリサは手にした幸運の実を見てガッカリした様子。

 へぇー、このカラフルな実はリーンって言うのか。

 にしても、そんなにガッカリしなくてもいいじゃないか……水を見つけられたのはこのリーンの実のおかげなんだから。


「これ、そのまま食べれるけど……基本は絞って、料理に入れるのよね……」


 僕がこの島、いやこの世界で初めて食べた物はまさかの調味料。

 でも、この酸っぱさからしてそうなるか。

 僕もこれに関したら唐揚げの上にかけたいと思うし。


「あ、そうだ。この実を食べていた鳥がいたんだ」


「鳥? どんなの?」


「全身が黒くて、大きさはこのくらい。あと、額に目があったよ」


「その特徴からして、ミツメオオヴァラスね」


「そのミツメオオヴァラスって、危険な鳥なの?」


「そうね、普段は比較的大人しくて、頭もいい鳥よ。けど、繁殖時期に巣を脅かす、一度自分を攻撃して来たヒトといった、ヴァラスにとってこいつは敵だと思われたら、攻撃をしてくる可能性があるわ。あと光物を集める習性があるから、光物を身に付けていた場合も危険ね。……モグ……しゅっぱい!」


 ほぼそれカラスじゃん。

 大人しいのなら、別に隠れなくてよかったかな。

 ……いや、そんな楽観的な事を考えちゃ駄目だよな。

 ヴァラスの気分次第では襲われていたかもしれない。


「なるほど。また見かけた時は一応注意しておくよ。……パク……うーすっぱ!」


 さて、朝ご飯も済んだし島の探索を開始するか。

 僕とアリサがいた北側の海辺、そして東側は大雑把だけど探索をした。

 となれば、西と南のどっちに行くかだけど……今日は山を登らず南から回って西に向かうとするか。

 出来れば、南側に拠点が置けそうな場所があるといいな。

 西側でいい場所見つけたとすれば、この沢に水を汲みに来るのは大変だし。


「それじゃあ、島の探索をしようか」


「お~!」


 新たな拠点を目指し、第一歩を踏み出した――。


「……ん? あ、あれって」


 瞬間、アリサが別の方角、藪の中へと進んでいった。

 うん……色々見て探してほしいって頼んだのは僕だ。

 だからアリサの行動は間違ってはいない。

 ただ、空気は読んでほしかったな。

 この気合を入れて出した第一歩の右足が空しい。


「なにしてるの? こっち、こっち」


「……はい……」


 第一歩として出した右足を引っ込めて、アリサの後を追いかけて藪の中に入って行った。


「何を見つけたの?」


「卵芋よ。食べられる、芋の一種なんだけど……」


 おお、芋か。

 大きさ次第だけど、お腹にたまるのはありがたい。

 それに芋を乾燥させれば保存食にもなるぞ。


「じゃあさっそく採って……って、どうかした?」


 アリサは座り込んで地面をじっと見ている。

 僕は背後から覗くと、地面の一部が掘り返された様な感じになっていた。

 これは明らかに自然に出来るものじゃない。


「あの……これって……」


「うん、なにかの動物に、食べられてるね」


「なにかって……なに……?」


「ん~……候補がいっぱいだから、はっきりとは言えないわね」


 芋を掘るから肉食ではないとは思うけど、わからないってのは怖いな。

 ただ、動物となると貴重なタンパク質だから捕まえたい気持ちもある。

 となると、罠が必要か。

 えーと……。

 ・スネアトラップ

 ・デッドフォールトラップ

 ・ピットフォールトラップ


 スネアトラップはロープの輪っかを足とかに引っ掛けて獲物を捕まえる罠。

 罠の定番だけど、今手元にあるのは蔓のみ。

 これだと強度が足りなくて、動物相手だと引き千切られて逃げられるのが目に見えている。


 デッドフォールトラップは石や丸太をつなげて作った壁など重い物で獲物を押しつぶす罠。

 今は小型動物なら使えるけど、大型動物だと使えない。

 大型を押し潰せるほどの大きな岩や丸太の壁を僕1人で持ち上げるなんて到底無理だし、そもそも丸太をどうやって揃えるんだって話だ。


 ピットフォールトラップは穴を掘って獲物を落とす罠。

 簡単に言えば落とし穴だ。

 これに関したら今からでも作れるけど、獲物の大きさ次第で穴の深さがかなり変わる。

 獲物が入らない穴なんて掘っても無意味すぎるものな。


 ……罠を色々と思い出してみたけど、結局はその動物が何なのかわかってからでないと作れないな。

 というか、この世界って罠を作っても大丈夫なんだろうか。

 僕のいた世界だと、これらの罠設置は法律違反でアウトなんだよな

 まぁ異世界の無人島で生き抜く為には、法律とか言ってられないんだけども……。


「残った芋は、まだまだ小さいわね。今は採らずに土を戻して、1週間後くらいにまた来ましょ」


 アリサは掘り返された土を元に戻しはじめた。

 残念だけど、仕方がないか。

 次はその卵芋が食べられるといいなと期待しつつ、僕は近くの木に目印をつけ、防止になるかわからないけど芋の周辺に枝を地面に刺して簡単な柵を作った。


「さて、それじゃあ今度こそ探索に行こうか」


「お~!」


 気持ちを新たに引き締め、僕達は島の南側へと向かった。

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