2章 嵐の後

1、流れ着いたモノ

「へっくしょんっ! ……ずずっ……あーひどい目にあった……」


 嵐が過ぎ去り、全身ずぶ濡れ状態の僕はシェルターから這い出た。

 いくらこの島が暖かい気候とはいえ、濡れた服を着ていると体が冷えてしまうから早く脱ごう。

 僕はTシャツとジーンズを脱いで、絞ったりバサバサと大きく振って水分を飛ばしてからジーンズを近くにあった木の枝にかけ、Tシャツは濡れた髪や体を拭いてからもう一度水分を飛ばして木の枝にかけて干すことにした。

 こういう時に火があればすぐ乾くんだけど……。


「あーあ、やっぱり全部濡れちゃっているよ……」


 火板、棒、薪にしようと思っていた枝が全て湿っている状態。

 乾かそうにも、辺りはもう薄暗くなり始めている。

 今から別の物を探して火おこしをするのも難しい。

 となれば、服が乾くまでこのままでいるしかないけど。


「…………パンツはどうしよう」


 パンツもずぶ濡れ状態。

 だから履いていてすごく気持ちが悪い……けど、外でパンツを脱ぐのはものすごく抵抗がある。

 無人島だから他の人に見られる事はない。

 それはわかっている……わかっているんだけれど……あと一歩僕には踏み出せない。


「……――いやっ! 何を迷っているだ、僕は!」


 今は生きるか死ぬかのサバイバル。

 こんな時に羞恥心なんてもってどうするんだ。

 僕はパンツの端を両手で持ち……。


「――そい!」


 勢いよくパンツを降ろして脱ぎ、絞ってから木の枝にかけた。


「……………………」


 なんだろう、今までに感じた事がないこの解放感は。

 何かに目覚めそう……って、今はそんな事に目覚めている場合じゃない! 次だ、次!

 シェルターの中、外もぬかるんでいる状態。

 そんな上で寝転ぶのは無理がある。

 となれば……シェルターを利用するか。


 柱に固定した両端の蔓を切って、屋根を地面へと落とす。

 この状態だと傾いているから、もう片方に余っていた木材を差し込んで平行にして蔓で固定っと。

 これで屋根からベッドに早変わりだ。

 とは言ってもまだ湿っているし、全裸で木の上に寝転んだら絶対に痛い。

 まぁぬかるんだ地面の上よりは遥かにましだよな、贅沢は言っていられない。

 僕はスニーカーを脱いで木のベッドの上へとあがった。


「……やっぱり硬い……痛い……湿ってる……」


 スニーカーを柱の上に引っかけて、夕日が沈んでいくのを眺めていた。



 今日も日が登り、辺りが明るくなってきたころに僕は目を開け起き上がった。


「ふあー……いてて……」


 結局2日連続もまともに寝られなかった。

 さて、スニーカーは……んーまだ中が湿っているな。

 とはいえ靴を履かないわけにもいかないから我慢しよう。

 服の方は……よしよし、全部乾いてる。


「服が濡れたら裸になるってしまうというのは良くないよなー」


 それに動き回っていたら必ずボロボロになって来る。

 この辺りもどうするか今後の課題だな。


 で、木の枝は……んー乾いた感じもするけど、このまま天日干しをしておいた方が良いか。

 より乾燥した方が燃えるし。


「その間に海辺に行くとするか」


 僕は海辺まで向かう事にした。

 狙いは漂流物だ。

 昨日の嵐でより多くの漂流物が打ち上げられていたらいいな。



「おー、これは思ったよりあるな」


 予想通り、砂浜には色々な物が打ち上げられていた。

 僕は物色しつつ砂浜の上を歩き始めた。


「何か使えそうな物はないかなっと……」


 大小の流木が多い。

 中には加工された木片も混じっている。

 板状とか、今の僕には加工するのがかなり難しい物はかなりありがたい。


「…………おっ」


 布切れを発見。

 広げてみると、服のようだった。

 女性物もあるな。

 これは何の素材なんだろう……? まぁいいや、布の存在はかなりありがたい。

 さっきの着替え問題を一瞬で解決してくれた。

 ただ、海から流れついた物だから真水で洗濯しないといけないな。

 この無人島に石鹸なんてないから、灰汁を使うしかないか。

 が、その灰汁を作るには灰が必要……となると火が必要。

 何をやるにも火がほしくなる……絶対、今日中に火を手に入れるぞ。


「お?」


 少し大きめの木箱が3個ほど打ち上げられている。

 中に何か入っているかな。

 食料だと嬉しんだが……そう思いつつ、木箱に近づいて蓋を開けてみた。


「ビンだ!」


 木箱の中には液体の入った透明なガラスビンが6本入っていた。

 その中の1本を手に取って外に出してみる。

 形的にはよく見る一般的なワインのボトルに似ている。

 作りが若干雑なのが気になるけど、この世界にガラスが存在するのはわかった。

 で、注ぎ口にはコルクじゃなくて普通の木の栓か。


「これなら僕の力でも抜けるかな? よっと……抜けたっ」


 中身の臭いは……んーほのかにいちごの様な香りとアルコール臭がする。

 ボトルの形にフルーティーなアルコール臭……多分だけどこれは果実酒っぽいな。

 僕はお酒が苦手だけど、これなら甘そうだしいけるかもしれない。

 一口だけ飲んで確かめてみよう。


「…………――んんっ!? ブッ! ぺっぺっ! なんじゃこれ!」


 すごく辛い! あっー! 口の中がひりひりする!

 一口だけなのにこれって、この酒の度数はいくつなんだ!?

 おいおい、この世界の人はこんな物を飲んでいるのか?

 だとしたら、この世界の人が怖いよ。

 むー……ただでさえ苦手なのに飲めないとなると、勿体ないけど中身は捨てるしかないな。

 そうしないと水の入れ物に使えないし。

 あ、でもアルコールはあった方がいいか。

 恐らく後の2個も中身は果実酒だろうし、何本かは中身を残しておいて……。


「? あれは……?」


 残りのうちあがっている木箱2個の内、1個の木箱の横に茶色いの毛玉みたいなのが見える。

 さっきの場所だと、木箱の陰で気が付かなかったな。

 一体なんだろうと近づいた瞬間――。


「――――っ!!」


 僕は驚きのあまり声にならない悲鳴をあげて、腰を抜かしその場に尻餅をついてしまった。

 木箱の陰から見えた茶色い毛玉……それはもじゃもじゃの長い髪の毛で……羽根をまとった姿のヒトがうつむきで倒れていた。


「しっししししししししししした――」


 僕はその場から逃げようとするも、足が動かない。

 その場でガタガタと震えていると。


「……っ……」


 ピクリと倒れていたヒトの体が動いた。


「…………今、動いた……ような……」


 下半身が海に浸かっているから、波のせい……か。

 けど、もし波のせいじゃなくて息があったら?

 そう思い、恐る恐る這いつくばりながら近づいてみると……。


「……うう……」


 うめき声が聞こえた。

 体も上下に揺れて息をしてるのがわかる。


「大変だ! 早く助けないと!」


 僕は慌ててそのヒトに近寄り、砂浜の上まで引き上げた。

 そして……。


「――――っ!?」


 そのヒトの姿に2度目の声にならない悲鳴。

 引き上げたのは羽根をまとったもじゃもじゃの髪が長い少女。

 だが、その羽根はまとったわけじゃない……確実に生えている。

 そう少女の腕は鳥の羽になっていて、海に沈んでいた下半身は鳥の様な形をしている。

 つまり、僕の目の前にいるのは半人半鳥の女性型モンスター。


「……ハーピー……か?」

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