第27話 不良の告白と打ち上げ花火

 日が落ちて、夕闇が広がる。花火がよく見えるように、日が落ちてから花火が上がるんだ。そろそろだ。隣りにいる不良の横顔を盗み見る。髪色が地毛だというのは聞いていたが、ハーフ顔というか、横顔がすごくきれいだ。


 大きな花火が打ち上がる。不良が意思を固めたようにこっちを向いた。一瞬、時が止まったように感じた。ゆっくりと不良の口が開く。


「好きだ」


 不良の青みがかった瞳が、俺を一新に見つめている。俺は、とうとうアレを言わなければならない時が来たのだと思った。これを言えば、こいつとの関係はぶち壊されるだろう。楽しかった思い出を、花火とともに思い浮かべる。一緒に問題児を追いかけて、問題児を追いかけて。風紀委員の仕事ってこれしかなくね?


 俺は1つ深呼吸して口を開いた。


「お前が、この学園で起きたすべての問題の根源だろ。異世界から来た外国人さん」


 俺は、不良の目を見つめ返した。


 生徒会長を脅していた生徒会長親衛隊の生徒は、魔法の瓶を学園内で見たことのない外国人からもらったと言っていた。おそらく、それまで不良の顔を見たことがなかったんだろう。金髪碧眼のこいつは、歩き方やメンチ切るのをやめればハーフや外国人に見えるし、こいつは4月に編入してきたばかりだ。知られていなくてもおかしくない。


「お前が何を言ってるか、分からねえな」


 今、目をそらした。やましいことがあるやつの視線の動かし方だ。


「お前が使える魔法、なんだっけ」

「今はもう薄れちまったけど、地図を出す魔法だろ。それを使って生徒会長の居場所を見つけたんじゃねえか。俺が諸悪の根源なら、生徒会長を助けて魔法の瓶を持っているやつを矢面に立たせるなんて真似しない。あいつが何も言わなければ、謎の外国人の存在が知られることはなかったんだからな」


 確かに生徒会長を追うときに助けてくれたのはこいつだ。言っていることには一本筋が入っているようにも聞こえるが。


「お前が魔法が使えること自体がおかしかったんだ。魔法の液体は学食に混ぜられていた。お前、金が無いからっていつもコンビニで飯食ってたよな? 学食を食っていない先生たちは魔法が使えなかった。それを考えれば本来、お前は魔法が使えないはずだろ?」

「チッ。どっかのタイミングで飲まされたんじゃねーの」

「いいや、お前は自分で魔法の瓶から飲んだか元々魔法が使えたはずだ。認めたくないなら、仕方がない。決定的な証拠がある。お前はいつも、あそこの植物園で昼休みを潰してた。あそこに、荷物置きの小屋があるだろ。あそこの床に、魔法陣を見つけたんだ」


 その小屋は木材が組まれた造りで、地面は土や砂でザラザラしていた。そして床に光り輝く魔法陣が、どこか別の空間へと繋がっているようだった。


「アレをみたのか」


 不良は目を見開いた。決定的な証拠を前に、良い返す言葉もない様だ。


「一つわからないことがあるんだ。教えてくれないか? どうして、お前は生徒会長を脅していたアイツの居場所を俺に売ったんだ? 仲間だろう。お前が居場所を言わなければ、俺はお前にたどり着くことができなかった」


「あいつは俺より強い力を得た。そうしたら暴走し始めたんだ。あいつが生徒会長に何を使用が構わないが、俺の駒として役に立たないなら排除するまでだ」


 自分で手綱を制御しきれなくなったから、退学に追い込んだということか。そんなことをしたら不良が裏で操っているところまで喋ってしまうだろう。頭にきていて、そこまで頭が回らなかったのか?


「そうだ、まだあった。お前はこの学校に席がないだろう。認識を歪める魔法が使えるはずだ。本来俺か一緒に来た転校生、副会長な、そのどっちかが入るはずの寮の部屋。お前が使ってたけど、本当はそこ、空き部屋だったんだろう。勝手にお前が使い始めた。だからふた部屋空いていると思った先生がカードキーで外側から開けたのに、中にお前がいたから俺とあいつは2人でひと部屋を使うことなったんだ」


「全て正解だ。しかし俺が使えるのは実は地図を見れる魔法じゃない。空間を自由に操る力だ。地図で小部屋を見つけたんじゃない。あれは俺が作った空間。そもそもあんな場所存在しなかったそして」


 空間が歪み、地面がエスカレーターのように動いて、俺は遠くに離されていく。驚いた俺は転ばないように体制を低くして動きが止まるのを待つことしかできない。景色が高速道路を車で走っているときのように素早く流れていく。そのまま生き物のように形が変わり続ける校舎へと吸い込まれていった。上下左右がとにかく滅茶苦茶。床に奈落があったり、シャンデリアがあったりする。壁からコンビニが横に生えるように立っている。通路の場所も滅茶苦茶。


 何が目的なのか、聞きそびれてしまった。だから、どうしてやつが俺を遠ざけなければいけなかったのかが分からない。目的はなんだ。俺はこれからどうするべきか?


「なんだこれ!」

「あれ、どうしてお前が?」


 友人が目の前の扉を開けて出てきた。


「え、なんで一階に? ここ生徒会室なんだけど」


 開け放たれた扉からは、確かに見覚えのある生徒会室がある。後ろのソファで誰か横になって居眠りしているが。


「他の人は」

「みんな花火見に行った。俺も行こうと思ったんだけど」

「じゃあ一緒に行こうぜ、今からよ」


 俺はニヤリと笑った後、友人の手を引いて、うごめく校舎からの脱出を試みる。振り返ると扉はなく、四方が扉に取って代わっている。


「動きが止まった」


 地鳴りのような音が止まり、壁や床の動きが止まった。不思議の国のアリスの世界みたいにごちゃごちゃした校舎内。近くの窓の外は壁。階段を降りたら途中から階段がねじれて登りに変わっている。


「いや、無理くね?」


 どうやったら外に出れるんだ。立ち止まって考える。花火の音。


「あっちが校舎だ」


 角を曲がっても、花火の音を頼りに外を目指す。エントランスに出た。


「これは、渡れないね」


 ショッピングモールの吹き抜けみたいに、二三階はあろう空洞が開いている。その天井近くの高いところにちょこんと玄関扉があった。元々、玄関の天井は高くなっていたんだ。それが上下ひっくり返されて、ありえない高さに玄関がついている。


「しっかりつかまっとけよ」

「何する気!」


 友人がワケも分からず俺にしっかり掴まってくれた。俺は残った魔法の力を頼りにするしか無い。この力が諸悪の根源だけどな。


 思いっきりジャンプしたら、バスケ選手も真っ青のジャンプ力。窓枠に足をかけ、もう一度ジャンプ。もう少し、もう少しで玄関に手が届く。俺の指先が、ギリギリ玄関ドアの枠を掴んだ。開いた状態の自動ドアの縁に、四本ずつ両手の指が引っかかっていて、二人分の体重を支えている。


「気合い入れてけ」


 自分を鼓舞して、指先に力を込める。関節からバキバキ音が鳴る。指が折れそうだ。そうしたら床に落ちて一巻の終わり。指先の力で体を持ち上げて、なんとか上半身を外に乗り出す。建物の中からみたこの自動ドアは高いところにあったのに、外ではここが地上になっている。振り返るとまるで校舎が埋まっているようだ。


「もう力が抜けそうだよ」


 か細い悲鳴が腰元から聞こえてくる。なんとか掴まっていた友人の俺に捕まる手の力が弱まってきている。


「今上がるからな。おい、ここに手をつけ」


 なんとか上がり、友人の手が地面についた。俺に掛かっていた体重が軽くなる。先に俺が地面に上がって、友人を引っ張り上げる。友人の手の爪が割れてしまっている。


「あっちだ。植物園の近くにあいつがいるんだ」


 俺は友人に経緯を話した。隣を走りながら聞いてくれる。友人は体育祭の練習のおかげか少し走る格好が良くなっている。汗が目に入って、腕で汗を拭った。


 向こうに不良あらため異世界人が目を瞑って仁王立ちしている。いま魔法を使って校舎を滅茶苦茶に動かした状態にキープしているのだろう。異世界人に駆け寄る俺と友人。こいつに攻撃魔法は使えないだろう。使えていたら、俺を直接攻撃していたはずだ。逃げるつもりなら、もうさっさと逃げていてもおかしくない。時間稼ぎをしているのか?


 俺はそのまま正面突破で不良のいる方に向かっていこうとしたが、相手に見つからないほど手前で立ち止まった。


「どうしたの?」


 急に立ち止まった俺に困惑する友人。


「このまま行ったら、また地面の形とかを魔法で動かされて、アイツから離されてしまう」

「ほんとじゃん。どうしよ」

「なぁ、お前のポケットに俺をしまってくれないか」

「え! 人が入って大丈夫なのかな?」


 友人のポケットは魔法の力によってポケットの大きさに関係なく物を出し入れすることができる。魔法の力がまだ残っていれば、友人のポケットに俺が入って隠れることができるだろう。友人が一人で近づけば、まさか俺から情報が言っているとは思わず、しらを切ろうとするに違いない。その隙に俺が飛び出すという考えだ。


 友人は俺の身を案じてくれているようだが、もうこのやり方しか思い浮かばない。


「たのむ」

「分かったよ。何かあっても恨みっこなしだよ!」


 友人が広げたポケットに飛び込む。重力も上下左右もない空間に飛び出した。ちゃんと空気がある。真空だったらポケットに入れたものが全部ぺちゃんこに潰れちゃうもんな。


 巨大な手が現れて、俺をひっつかんだ。ポケットから飛び出す俺。友人と不良が対峙しているところだった。上手くいったらしい。


「くそ、お前どこから」


 俺は不良の方に駆け寄って、背中に、おんぶの格好で飛びかかった。脚を不良の体の前でクロスして、がっしりと掴む。


「やめろ! 重い、離しやがれ」

「こうしたら、お前がいくら魔法を使って地面とか建物を動かそうと、お前と俺は一緒に移動するだけだ。諦めるんだな」


 騒いでいた不良が、ため息をついて地面にあぐらをかいて座る。俺は不良に掴みかかったまま一緒に座った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る