第25話 【side親友】 綺麗な生徒会長
「と、いうわけで。本当にごめんなさい!」
俺は生徒会のみんなの前で頭を下げた。
「うっそー! 転校?」
「副会長になったばっかじゃん!」
双子が顔を合わせてびっくりしている。そうだよね。そもそも俺、転校してきたばっかりだし。
「つまり、また新たに副会長を探す必要があると」
生徒会長は眉をひそめた。そうそう、親衛隊には、生徒会室に入らないように生徒会長が追い返したんだ。だから今は会長と俺、会計と双子しかいない。
「寂しいじゃん」
チャラ男会計が俺に肩を組んだ。あまり話す機会はなかったけどね。
「文化祭まではいるんだな?」
「うん。それまでに次の副会長に引き継ぎをしないと」
「そしたら、おい弟の方」
会長は双子の弟を指さした。生徒会役員の方だ。
「はーい」
「お前が次の副会長だ」
「げっ、やだよ。面倒くさい」
双子の弟は舌を出して嫌そうな表情をして見せる。
「仕方ないじゃん、他にいないよ?」
「兄ちゃん代わってよ」
「俺は書紀の仕事があるでしょ」
「よし、決まったな」
今日初めて気づいたけど、生徒会長って決断早いよね。
「貴様には大変な役割ばかり任せてしまった」
「そうだね。でもあなたのせいじゃないよ」
「たしかに。オレ様のせいじゃないな。何もかもアイツが悪い」
「立ち直るの早いよ」
「ハハハ」
髪型はライオンみたいだし、笑うと悪党みたいだ。けど元気そうでよかった。もっとたくさん、この生徒会長と一緒に生徒会活動したかったな。
そしてさっきから何気に仕事の手が止まっていないのがすごい。今は退学生徒の手続きにハンコを押している。生徒会長のことを脅していたあの生徒のことだ。恨みのこもった力強い押印に苦笑してしまう。
「一発くらい殴ってやればよかったのに」
生徒会長はあの生徒に散々な目に合わせられたのに、解決したらすぐ皆に今までの無礼を詫て、仕事に戻っていた。恐ろしくさっぱりした性格だ。
「言うねぇ」
チャラ男会計がケラケラ笑う。
「オレ様の手が汚れるだろう。貴様と同じ時期に転校してきた風紀のアイツが代わりに締めてくれたからな。あいつはオレ様が一度生徒会に誘おうとしただけある逸材だ」
幼馴染を褒められると自分のことみたいに嬉しいね。嫌いになったのかとおもっていたけど、風紀委員としての素質を認めて、無理に生徒会に勧誘し続けなかったんだ。
すっかり善人に戻った生徒会長は、今まで提出物は取りに来てもらうまで放置していたのに、普通に書類を抱えて風紀室に向かっていった。入り口から会長の背中を覗いてみたら、廊下の取れかかった掲示物に画鋲を刺し直している。廊下は目についたもの全て蹴飛ばして歩いていたあの頃とは大違いだなと、変わりように思わず口を半開きにして眺めてしまった。
体育祭の当日、前生徒会副会長がいない寂しさを噛み締めていた。せっかく一緒に練習したのに、彼はいない。快晴なのに心が晴れなかった。
けれど練習をしたかいがあって、結局ビリではあったんだけど、あまり他の人から離されずに走ることができた。あとは生徒会長と風紀委員長の400m対決で生徒会長を応援。風紀委員長に負けた生徒会長は悔しそうだ。
「オレ様に、てめぇより劣ってるところがあったなんてな」
「今更知ったのか」
すっかり2人は良きライバルって感じだ。軽口を叩き会う関係だったんだね。俺がこの学園に来たときにはすでに魔法のせいで生徒会長と風紀委員長は最悪の仲だったから、高校生らしい2人に微笑ましくなるよ。
その後は、リレーで敵のはずの幼馴染を心の中で応援した。スポーツとして走る幼馴染を見るのは初めてだ。追い越し追い越されの展開に手に汗握った。
太陽が西に傾いて、少し過ごしやすい気温になる。体育祭の閉会式が終わった頃には、たくさん抱えていたつらい気持ちが少し和らいでいた。汗と一緒に流れていったみたい。
大変なのは体育祭が終わってから。文化祭の準備は体育祭の数倍忙しい。やっぱりお金のやり取りが必要になる分、準備にたくさん時間がかかるんだ。
「おい会計、文化祭の予算決まったか」
「えっと、もうちょっと時間ちょうだい」
チャラ男会計はペンを片手に、片手でごめんのポーズをする。
「そもそも手を付けていなかったんだろう。いいさ、今日から深夜まで皆で溜まった仕事をしよう」
「えー」
「無理」
「嘘ー」
「さいあくー」
皆がブーブー言うから俺もノッてみたけど、会長は涼しげに仕事をしていた。おっ、ブラインドタッチもできるんだね会長。画面に視線を固定したまま高速タイピングしてる。
「皆で夕飯だ。嬉しいだろう」
「でも今、食堂使えないじゃん」
「コンビニが使える。庶民の飯も意外と美味いぞ」
会長実はいい人だけど、コンビニのご飯のこと庶民の飯って呼ぶのは素だったんだ。まあ会長に選ばれるのは学園一のお金持ちだからね。
「俺ちょっと食べてみたい」
「皆でご飯は楽しみだね」
不満そうな会計とは反対に、双子は嬉しそう。
ちょっとの間だけど、楽しく生徒会活動ができるのは俺も楽しみだな。文化祭を見て回る余裕は流石にないかなぁ。見て回れたらいいけど。
夜になっても本当に生徒会の仕事が終わらない。途中でいろんな委員会が次々仕事をもってきて、しかも溜まった仕事もあるから結局、夕飯は仕事をしながら生徒会室で摂ることになった。親衛隊の子たちが、俺たちの夕飯を買ってきてくれると言うから、お任せした。
「失礼しまーす、買ってきましたぁ」
飲み物はカップの蓋にストローを刺して飲むタイプのドリンクが色々、それからペットボトルの水とお茶。食べ物はパスタが色々、店内で手作りしてるカツサンドとエビサンド。デザートにハーゲンダッツ。なんかチョイスがオシャレだね。
「サンキューな」
パソコンから顔を上げて、会長が差し入れをしてくれた親衛隊の子たちに片手間のお礼をいうと、親衛隊は大喜び。
「きゃー身に余る光栄です」
「サンキューだって」
「かっこいい!」
すごい高い声で喜びながら帰っていった。さっそく双子と会計が飛びつく。
「かいちょー何食べる? パスタとサンドイッチがあるよ」
「サンドイッチ」
「飲み物は?」
「それ」
会長は片手で画面をスクロールしながら片手でカツサンド、たまにストローに口をつけて飲み物を飲んでいる。ドラマに出てくる忙しいサラリーマンみたい。
「お米ないじゃん」
会計はとりあえずケチつけてから、和風パスタを食べ始めた。双子はとりあえずアイス食べてる。俺はこの双子がちゃんとしたご飯を食べてるところを見たことがない。すごい量のお菓子を食べるんだ。俺はエビサンド。エビ大好きなんだ。これちょっと高いやつだからエビもおっきくて美味しい。タルタルソースも美味しいし、これ食べながら仕事とかできないや。まず夕飯に集中しよう。
「ふふ」
「いま会長、俺見て笑ったでしょ」
「リス」
「あはは、ほんとだ。お口ちっちゃいねぇ」
「ひゃーめーてー」
生徒会長には笑われるし、チャラ男会計は俺のほっぺをもちもちしてくる。おもちゃじゃないよ。双子は俺の残りのエビサンドを持っていった。しっかりして見えてもちゃんと子供だね、みんな。
結局、夜中まで仕事した。疲れたけど、会長はお疲れ様って言ってくれて、外出たら親衛隊の子たちが待ち受けててお疲れさまですって言ってくれて、風紀の人たちが提出書類を催促しに来て、とりあえず急ぎの仕事はなんとかなったし、みんな暖かい人ばっかりだ。
文化祭当日、天気は気持ちいいくらいの快晴。
俺は文化祭が終わったら学園を去ってまた悩める青少年を助ける仕事に戻らないといけない。そのための引き継ぎが必要な分、俺には文化祭を楽しむ暇はない。生徒会長と双子は仕事の合間に、ちょっと出し物を見に行った。頑張っている生徒の顔を見に行ったり、親衛隊と一緒に文化祭を見て回るサービスを兼ねているらしい。
「あの、どうして君まで生徒会室に残ってるの?」
特に急ぎでもない仕事を、のんびりやっている会計。チャラそうな見た目から、勝手にこういうときに騒ぎたいタイプだと思っていた。
「俺、騒がしいの苦手なんだよね」
「意外」
「でしょ。うちは大家族なんだ。家でさんざん騒がしい思いしてきたから、学園では静かに過ごしたいの」
「何人兄弟?」
「六人兄弟。姉2人、妹三人。大叔母様とお祖母様、叔母様が同居してて、男は父様と俺だけ」
「す、すごい女系家族だね」
彼の家は平屋造の屋敷だと聞いたことがある。庭に枯山水があるって話してた。枯山水っていうのは、砂とか岩で川を表現するお庭の種類なんだって。スマホで調べたら、昔旅館で見たことがあった。とにかく普通の家にあるものじゃない。
「妹たちが文化祭に来たいっていうから、山の上だから怖い虫がたくさん出るぞって言って来たくないようにしてやったんだ」
「見たかったな、君に似てる妹ちゃんたち」
「あんまり似てないよ、ほら」
スマホで家族写真を見せてくれた。背景は家の中だ。梁の上に祖先と思われる着物の女性と男性の写真が飾ってある。妹ちゃんたち、お人形さんみたいに可愛い。ほんとに似てなかったね。想像した倍可愛い。
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