第17話 風紀を乱す奴ら、親衛隊の闇
そうこうしているうちに、足音が近づいてきて、風紀委員長が到着した。
「風紀委員長だ」
委員長は、襟が風に靡いていて、腕章が存在感を放っている。
登場かっけー。後ろに二人、風紀委員の生徒を連れている。
「よくやったなお前ら」
「っす」「っす」
風紀委員一人につき、加害者の生徒一人を連行して、被害にあった生徒にも着いてきてもらう。被害にあった生徒は別室で話を聞くようだ。俺は風紀室で、風紀委員長が加害者の生徒たちから経緯を聞いている間、書類にそれを書き連ねる。刑事ドラマに出てくる、取調室で刑事が犯人を取り調べている後ろで会話を書き取っている人みたいな仕事だ。
大体の経緯は現場で聞いたとおり、生徒会長の親衛隊の副隊長が、こいつらに指示して、あの生徒を襲わせたらしい。明確に何をしろと言われたわけではないようだが、脅かして、二度と生徒会長を独り占めする気が起きないようにしろと言われたようだ。つまり、あの生徒だけ目立って生徒会長からお気に入りになってしまい、他の親衛隊から嫉妬されて、あの事件に至ったようだ。
教師が駆けつけてきて、加害者の生徒たちは教員室に連れて行かれた。
「生徒会長の親衛隊副隊長を連れてきてくれ」
風紀委員長に指示されて、不良が生徒会長の親衛隊の副隊長を探しに行った。俺は風紀委員長に、聞いたまま書いたメモを差し出す。聞き逃さないようにと急いで書いたら、とても字が汚くなってしまった。しかし、特に怒られることもなかった。眉にシワを寄せながら真剣にそれを読む風紀委員長の顔を眺めて待つ。イガグリくんって感じ。
「お前が風紀委員に入ってくれて嬉しい」
全く嬉しそうじゃない顔で風紀委員長が言った。
「風紀委員に入るために、死ぬほど勉強しました」
「なにか、うちに入りたい理由があったのか」
「はい、生徒会の風紀を正してやりたいくて」
「向上心があって良いと思うぞ。ぜひ彼奴等の性根を叩き直してくれ」
話しているうちに、廊下から甲高いブチギレ声が近づいてきて、不良がチワワみたいな生徒を半ば引きずるように連れてきた。
「痛い、離してよ! ボクがなにしたっていうのさ」
「はいはい、あとの言い訳は風紀委員長に直接しな」
「なにここ貧乏くさ、てゆーか、汗くさ」
チワワ男子が風紀室を見回して言い放つ。
「いいから、座れ」
「やめろ貧乏人」
散々揉め合ったあと、ようやくチワワ男子はソファに座った。脚を組んで座り、ハンカチで自分の手を拭いている。次は、髪まで整え始めた。
「なぜ呼ばれたか分かるな」
風紀委員長が、向かいのソファに座って、背筋を真っすぐ伸ばして座り、じっと連れてこられた生徒の目を見ている。
「ボクのこと好きになっちゃった?」
「お前には、他生徒を先導して、生徒会長親衛隊に所属している生徒を襲わせた疑いが掛かっている」
一切動揺しない風紀委員長。チワワ男子が顔をしかめる。先程までの可愛らしさはどこへやら、ブサイクな表情だ。
「あいつらゲロったの」
「事実と相違ないか」
問い詰める風紀委員長の姿は、時代劇のお奉行様みたいだ。
「自分よりあの子が選ばれたことが気に食わなかったから、親衛隊から追い出そうとしたのか」
俺は、思わず口を挟んだ。
「ボクの方が生徒会長様に気に入られてる! あいつは勝手に勘違いして調子乗ってたから」
こんなことして、生徒会長が喜ぶと思っているのか。おそらく、怒りに任せてやったことで、あこがれの人にどう思われるかまで考えていなかったのだろう。
「お前は生徒会長が好きだったんじゃない、生徒会長に好かれてる自分が好きだったんだ。そうだろ。お前の行いで、生徒会長は親衛隊の手綱を握れていないという悪評がついた」
チワワ男子は反論しようとして口を開いたが、諦めて口を閉じた。肩を落としている。
親衛隊の行いが、生徒会の評判に繋がる。さながらアイドルとファンの関係みたいだ。厄介なファンによってコンテンツに悪いイメージが付くみたいなことがよくあるだろう。
「被害にあった子に謝る必要はない。全く悪いとも思っていないのに、口先だけで謝られても気分が悪いだろうからな。お前がやるべきは、きちんと罰せられることだ」
そう俺は付け足した。
「親御さんに連絡が行くだろう。これからの身の振り方を考えておくんだな」
風紀委員長はそう締め括った。
首謀の生徒が職員室に連れて行かれた。あの生徒がどうなるのかは、もう知る由もない。俺たち風紀委員長の仕事はここまでらしい。
「後味悪ぃな」
調書を取っていた不良がボヤいた。
たぶんあの生徒に再チャンスは訪れない。親がお偉いさんだろうと、一発退学になるようなことをしたからだ。実行犯の生徒たちも同じだろう。
大量に退学者が出ることになる。あの理事長なら、体裁よりも生徒のことを考えてくれるさ。
問題は被害にあった生徒だ。加害者が学校からいなくなるとはいえ、同じ様に学校生活をおくれるのだろうか。男でも、男性恐怖症になったりするのか?
「初日から疲れただろう。毎日これくらいの忙しさだから、今日はよく休んで明日に備えるように」
今期の風紀委員は俺含めて疲れてげっそりしている。掛け時計を見ても遅い時間というわけではないが、短い時間に一気に疲れてしまったようだ。
寮に帰ろうと廊下に出ると、ちょうど生徒会の奴らが帰るところらしかった。生徒会室のほうが廊下の奥にあり、風紀室から出てきた風紀委員たちがエレベーターホールに向かうのをかき分けるように、機嫌の悪そうな生徒会長がドカドカ歩いて俺たちを追い越していく。皆迷惑そうにしている。
「邪魔だ、どけ」
「わっ」
「おい大丈夫か」
一年生の風紀委員が生徒会長の前方を運悪く歩いていたため、つき飛ばされてしまった。一年風紀委員は尻もちを付いたがすぐ立ち上がる。怪我はなさそうだが、一応、駆け寄る俺。一年風紀委員は、何だアイツといった風に生徒会長の背中を睨んでいる。
「平気です」
生徒会長は更に向こうで廊下においてあったゴミ箱を蹴飛ばして行った。最近の生徒会長は更に身勝手になっている。何がアイツを更にイライラさせているのか。俺も風紀委員に入れたことだし、何か生徒会長に関わる情報を掴みたいところだ。
友人もすぐ来るかと見てみたが、見当たらないので普通に不良と寮まで帰った。
寮に帰ると、ソファーに寝そべった。ふかふかしていて俺ん家のベッドより寝心地が良い。タッチの差で友人が帰ってくる。
「おかえり」
「風紀の人たち帰るところみたいだったから君もいるかなって思ったんだけど」
「わるい、見当たらなかったから先帰ってきた」
「いいのいいの、僕も親衛隊の子と話ながら帰ってきたから」
今までは生徒としての仕事、今からは大人としての仕事があるのに、一度横になると動く気が失せる。友人がそばにしゃがみこんで、目を閉じている俺のほっぺたに何か冷たいものがくっつけられた。
「エナドリ買っておいたよ 。これから、また仕事でしょ」
目を開けると、俺が愛飲しているエナドリを友人が悪戯っ子の笑顔で掲げている。可愛いな。
「いいのか? 体に悪いって言ってたのに」
「たまにはいいじゃん。せっかくだから、それ飲みながら風紀委員の話、聞かせて」
俺にエナドリを差し出しながら、小首をかしげる友人。
「あー好きだー」
「何さ、いきなり。知ってるよ」
ひと通り今日あったことを話すと、友人はプンプン怒り出した。
「なにそれ、そんな悪いやつがいるの」
「今まで見てきたどの学校より治安悪いよな」
「お金持ち特有の悩みがあるのかな」
顎に手を当てて考える友人。
「あるんだろうな」
俺は少し、ここの生徒たちの気持ちが分かる気がした。俺は親が会社をやっていて、本来は会社を継ぐため、大学を卒業したらコネ入社する予定だった。しかし大学時代に自分で会社を立ち上げたくなって、親にそれを言ったらかなり揉めることになったんだ。何度も考えを改めるよう説得されたし、突然仕送りを止められて、元々バイトはしていたが、シフトを増やすことになって、勉強とバイトで殆ど寝れない生活を送る羽目になった。
まあ、大学時代にそれをクラスメイトに愚痴ったら、そいつが仕送りなしでバイトで学費稼いでるやつで、今まで恵まれていたことに全く親への感謝が足りないと逆に怒られたんだけど。今では親との仲も良好だ。
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