事実は小説より。異世界ライフがリアル

第9話 魔法適正を調べに神殿へ

　緊（きん）張（ちょう）の商（しょう）談（だん）を終えた商（しょう）業（ぎょう）者（しゃ）ギルドを後に、神（しん）殿（でん）を目（め）指（ざ）す。

　自転車をこいでいるのは大（おお）城（しろ）さん。

　体（たい）格（かく）もしっかりしていて、筋肉も多い大（おお）城（しろ）さんをハブステップに乗せてニ人乗りできるほど、私は健（けん）脚（きゃく）ではない。

　よって、久（ひさ）々（びさ）の自転車の運転に、にっこにこの大（おお）城（しろ）さんが、自転車をこぐ方（ほう）を担（たん）当（とう）している。

　大（おお）城（しろ）さんは、神（しん）殿（でん）までの道も知ってるから、そういう意味でも適（てき）任（にん）。

　私は商（しょう）業（ぎょう）者（しゃ）ギルドで気力をガリガリ削（けず）られたので、体力的にも気分的にも楽をさせてもらえるという、乗ってるだけというありがたい方（ほう）を担（たん）当（とう）。

　しかし、神（しん）殿（でん）と教会？改（あらた）めて考えると不（ふ）思（し）議（ぎ）だ。その事を、大（おお）城（しろ）さんの背中に向（む）かって聞いてみる。

「それな。どっちも同じ宗（しゅう）教（きょう）の建（たて）物（もの）なんだが、神（しん）殿（でん）は神（しん）事（じ）関係やそれに類（るい）する事（こと）柄（がら）担（たん）当（とう）。

　怪（け）我（が）や些（さ）細（さい）な病気はポーションが効（き）くが、ポーションが効（き）かないレベルの、ある程（てい）度（ど）までの病気や怪（け）我（が）の対（たい）応（おう）も神（しん）官（かん）がしている。

　これは大きな町で一ヶ所だ。小さな町や村だと、教会と併（へい）設（せつ）になっている事もある。

　このクラスだと、神（しん）官（かん）が配（はい）属（ぞく）されてない事もそれなりにみられる。

　敷（しき）地（ち）の中で、必ず別の建（たて）物（もの）になってるのも特（とく）徴（ちょう）だな。

　で、教会は説（せっ）法（ぽう）や寺（てら）子（こ）屋（や）や孤（こ）児（じ）院（いん）の運（うん）営（えい）なんかの、対（たい）人（じん）面（めん）を担（たん）当（とう）って感じの機（き）能（のう）を果たしている。

　同じ町や村に、複（ふく）数（すう）ある事も多いな。

　俺は、神（じん）社（じゃ）の本（ほん）殿（でん）と拝（はい）殿（でん）が、別の場所に建（た）てられているって捉（とら）えている」

「神様のいる聖（せい）域（いき）はなるべく荒（あ）らさず、信者や用のある人は、聖（せい）域（いき）とは別れた場所に来てねって感じなんでしょうか。

　なんだか神様が大切に扱（あつか）われている感じがいいなぁ」

「お、そういう受け取りかたもあるか。

　俺なんかは、メンドクセーと思った罰（ばち）当（あ）たりモンだな」

「日本でも、神（じん）社（じゃ）とお寺、用によって行き先が変わるじゃないですか。除（じょ）夜（や）の鐘（かね）を撞（つ）きに、神（じん）社（じゃ）には行きませんよね？」

「そういやそうだな」

　大（おお）城（しろ）さん、あっさり納（なっ）得（とく）。ちょっと笑いそうになったのは内（ない）緒（しょ）。

　まだ聞きたい事はあったけど、神（しん）殿（でん）に到（とう）着（ちゃく）したのでこの話しは終わった。

　目の前には華（か）美（び）ではない、大きな白い建（たて）物（もの）がいくつか敷（しき）地（ち）内に立ち並（なら）んでいる。

　神（しん）殿（でん）って聞いて、パルテノン神（しん）殿（でん）みたいなイメージをしてたけど、普（ふ）通（つう）に教会やーん。

　イメージと実物にギャップが……。

　正門からまっすぐ延（の）びる道（みち）沿（ぞ）いすぐの右側の建（たて）物（もの）が、病気の対（たい）応（おう）をする病院機（き）能（のう）の建（たて）物（もの）。道の左側の建（たて）物（もの）が、怪（け）我（が）の対（たい）応（おう）をする病院機（き）能（のう）の建（たて）物（もの）。

　正面突き当たりの建（たて）物（もの）が、病院機（き）能（のう）以外の役（やく）割（わり）を司（つかさど）っているそうだ。

　メインの建（たて）物（もの）の裏（うら）に、部（ぶ）外（がい）者（しゃ）お断（ことわ）りの、神（しん）官（かん）や関係者の食（しょく）堂（どう）や部屋など、生活のための建（たて）物（もの）があるらしい。

　用があるのはメインの建（たて）物（もの）。

　その付（ふ）属（ぞく）の厩（きゅう）舎（しゃ）に自転車を置く。近くにいた厩（きゅう）舎（しゃ）の係の人に断（ことわ）って、柱にチェーンで繋（つな）いで、だけどね。

　異世界の品なんで、ちょっかいかけられないように念（ねん）のため見ていてくれと、大（おお）城（しろ）さんはお願いもしていた。

　ここでも物（もの）珍（めずら）しそうに、ジロジロ見られたのは言うまでもない。

　神（しん）殿（でん）では緊（きん）張（ちょう）するような事は何もなく、すんなり魔法適（てき）正（せい）の確（かく）認（にん）は終わった。

　商（しょう）業（ぎょう）者（しゃ）ギルドの物とは色が違（ちが）う水晶に手を乗せると、色んな色に輝（かがや）く。その色と光の強さで、どの系（けい）統（とう）がどのくらいの強さで持ち合わせているか測（はか）る。

　この世界は、数（すう）値（ち）として表されないタイプみたいだね。

　適（てき）正（せい）結（けっ）果（か）は、金色の聖（せい）属（ぞく）性（せい）で癒（い）やしや浄（じょう）化（か）に結界。銀色の雷（かみなり）属（ぞく）性（せい）で、雷（かみなり）が扱（あつか）える二系（けい）統（とう）が強目の、マルチタイプとの事。

　マルチは凄（すご）い突（とっ）出（しゅつ）した使い手は少ないけど、日常生活では一番役に立つそうだ。

　火（ひ）種（だね）に困（こま）らないし、飲み水もどこでも出せるし、風をホウキとかハタキみたいにして部屋の掃（そう）除（じ）に使えるしと。

　考えたら色々やれるとかで、考えるのが楽しみ。

　普（ふ）通（つう）に魔法が使えるだけでわくわくするしね！

　能（のう）力（りょく）を使いやすくするのに、能（のう）力（りょく）の開（かい）花（か）の祝（しゅく）福（ふく）を受けて終了。

　呪（じゅ）文（もん）は使っても使わなくても使え、しっかりイメージすれば呪（じゅ）文（もん）は必要なく、イメージではなかなか上（う）手（ま）く狙（ねら）った通り発（はつ）現（げん）できないようなら呪（じゅ）文（もん）を使う。

　呪（じゅ）文（もん）は、魔法使いギルドで有（ゆう）料（りょう）で必要な物を教えてもらえるそうだ。

　呪（じゅ）文（もん）を使っていても、慣（な）れて呪（じゅ）文（もん）が必要なくなる事も多いらしい。ちなみに知ってる人から教えてもらってもいいそうだ。

　この緩（ゆる）さ、好きだなー。

　厩（きゅう）舎（しゃ）へ向（む）かうと、何やら黒山の人だかりができている。

　もしかしなくても自転車か？！

　大（おお）城（しろ）さんと、すいません、出ますので通して下さいと人だかりをかき分け、自転車を回（かい）収（しゅう）して、脱（だっ）兎（と）の如（ごと）く逃（に）げた。

　たぶん大（おお）城（しろ）さん、神（しん）殿（でん）の敷（しき）地（ち）出るまで本気で自転車こいでいたと思う。

　ご迷（めい）惑（わく）をおかけしてすみません。

　最後の最後に、冗（じょう）談（だん）抜（ぬ）きでへろへろになりつつ無言で帰（き）宅（たく）。

　針（はり）仕事の仕事部屋から出てきたマーチャさんが驚（おどろ）き、慌（あわ）ててさっぱりした果（か）実（じつ）水（すい）を持ってきてくれた。

「すまん、マーチャ。ありがとう」

「マーチャさん、ただいま。お水、ありがとうございます」

「二人とも、お帰りなさい。

　どうしてそんなに息（いき）急（せ）き切っているの？」

「神（しん）殿（でん）から帰る時、自転車の周りが黒山の人だかりでな。

　さっさとずらかろうと、歳（とし）がいもなく自転車をせかせかこいだらこのザマだ」

「スピードのある自転車の二人乗りは、後ろでも意外と疲（つか）れるんでへろへろです」

「それは……、お疲（つか）れ様」

　マーチャさんは苦（にが）笑（わら）いを浮（う）かべ、イスに座（すわ）ってゆっくりなさいなと言い残（のこ）して仕事部屋へ戻（もど）って行った。

　私は自転車を入り口入ってすぐの、もはや定位置になっている壁（かべ）際（ぎわ）に自転車を寄（よ）せて止めてからイスに腰を下ろした。

　大（おお）城（しろ）さんには、先に座（すわ）ってもらっている。

「大（おお）城（しろ）さん、今日はお時間あけて付き添（そ）って頂（いただ）いてありがとうございました。

　最後の自転車でダッシュ、すみませんでした」

「面（めん）倒（どう）みるって言ったろ？気にすんな。

　自転車のダッシュも優（ゆう）ちゃんのせいじゃないんだ、気にすんな。

　歳（とし）だから堪（こた）えたが、久（ひさ）しぶりに自転車をこいで味わう爽（そう）快（かい）感（かん）は最高の気分だったぜ」

　そう言って笑う大（おお）城（しろ）さんは、満（まん）面（めん）の笑みだった。