事実は小説より。異世界ライフがリアル

第5話 二つの世界の感覚

　水分を摂（と）りつつ少し休（きゅう）憩（けい）したら、今度は雑（ざっ）貨（か）屋（や）を目（め）指（ざ）す。

　マーチャさんはまた、自転車のハブステップだ。

　ガタガタしなくて、慣（な）れたら快（かい）適（てき）で気に入ってくれたそうだ。

　道が綺（き）麗（れい）なんだから、ガタガタしようがないと思うんだけど。

　サスペンションがまだないから、乗り物は揺（ゆ）れるもの。晩（ばん）ご飯（はん）の時に大（おお）城（しろ）さんにそう教えてもらって、マーチャさんの言ったガタガタの意味と、私の勘（かん）違（ちが）いを教えてもらった。

　そっか、そんなのがゴロゴロあるんだと痛（つう）感（かん）した。

　雑（ざっ）貨（か）屋（や）まで、また人々の注目をこれまた集めながら無（ぶ）事（じ）到（とう）着（ちゃく）。

　二ヶ所登り坂があって、二回ともハブステップから降（お）りてもらったけど、人力のみが原動力の自転車だから許（ゆる）して。

　雑（ざっ）貨（か）屋（や）に着くと、ここでも店の人にお願いして自転車を店内へ入れさせてもらった。お礼に飴（あめ）も、もちろんお渡（わた）しした。

　雑（ざっ）貨（か）屋（や）ではタオル類（るい）、ナイロンがないから動物の毛の歯ブラシ、針（はり）とまち針（ばり）、糸を数（すう）種（しゅ）類（るい）をチョイス。いや、針（はり）とまち針（ばり）と糸はマーチャさんが使ってる物があるから、いくらか戻（もど）した。

　代わりに、かぎ針（ばり）と棒（ぼう）針（ばり）をチョイス。

　日本にもあったけど、動物の毛の歯ブラシは良く分からないから、マーチャさんに硬（かた）さや一（いっ）般（ぱん）的（てき）に使われている物をアドバイスしてもらって、何とか決めた感じ。

　衛（えい）生（せい）面（めん）、大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）かな。

　他に必（ひつ）要（よう）な物ができたら、その時に都（つ）度（ど）買う方向で話し合った。結（けっ）果（か）、ティッシュはないと分かったのでタオルが多目になっているだけで、買う種（しゅ）類（るい）は少なかった。

　今履（は）いてる靴（くつ）が濡（ぬ）れたら困（こま）るだろうと、雑（ざっ）貨（か）屋（や）に向（む）かって左三軒（げん）先の靴（くつ）屋（や）で、靴（くつ）も一足購（こう）入（にゅう）。

　ゴム製（せい）品（ひん）はやっぱりないか普（ふ）及（きゅう）してないかで、靴（くつ）底（ぞこ）がとても硬（かた）い。

　浴（ゆか）衣（た）の時に履（は）いた、下（げ）駄（た）に近い硬（かた）さかも。これは疲（つか）れそうだなぁ。

　雑（ざっ）貨（か）屋（や）と靴（くつ）屋（や）のお会計は、マーチャさんに甘（あま）えさせて頂（いただ）いた。

　マーチャさん、大（おお）城（しろ）さん、ありがとうございます。大事に使わせてもらいます。

　自転車を使った事で乗り合い馬車を使うより時間がかからず、他に必（ひつ）要（よう）な物も思い付かなかった。だから他の店を回る事もなかったので、お昼には早いが、八（や）百（お）屋（や）へ寄（よ）って帰る事に。

「優（ユウ）のいた時代の日本には、野（や）菜（さい）も肉も魚も保（ほ）管（かん）できる、『冷（レイ）蔵（ゾウ）庫（コ）』っていう魔（ま）道（どう）具（ぐ）が殆（ほとん）どの家にあるんでしょ？

　『すーぱー』って所でも、家にあるのとは違（ちが）う冷（レイ）蔵（ゾウ）庫（コ）のいろんな種（しゅ）類（るい）で、あらゆる食（しょく）材（ざい）が管（かん）理（り）されているのよね？

　それで、年中季（き）節（せつ）に関係なく、旬（しゅん）の物も反対の季（き）節（せつ）のお野（や）菜（さい）もあって、それに海から遠い場所でも魚まで生で売られているのよね？

　しかも、家でも生である程（てい）度（ど）の期間、腐（くさ）らせずに管（かん）理（り）できるんでしょう？

　凄（すご）い技（ぎ）術（じゅつ）よね～。憧（あこが）れるわ」

「冬に夏の野（や）菜（さい）を育てれる技（ぎ）術（じゅつ）とか、海外からも沢（たく）山（さん）輸（ゆ）入（にゅう）できたり、インフラも整（ととの）っていて、流（りゅう）通（つう）技（ぎ）術（じゅつ）やシステムがあって。遠くまで早く傷（いた）む前に運べて、店でも家でも冷して管（かん）理（り）できるおかげで、食（しょく）材（ざい）の入（にゅう）手（しゅ）や管（かん）理（り）には困（こま）りませんでした」

　マーチャさんはそんな事を話しながら、野（や）菜（さい）を選（えら）んでいく。

　そっか、道（どう）理（り）で野（や）菜（さい）の種（しゅ）類（るい）が少ないと思った。

　"国内外含（ふく）めて、生（せい）産（さん）者（しゃ）から購（こう）入（にゅう）者（しゃ）に届（とど）くまで新（しん）鮮（せん）なまま保（ほ）存（ぞん）、管（かん）理（り）、流（りゅう）通（つう）できる技（ぎ）術（じゅつ）、システムと利（り）器（き）が家庭まで普（ふ）及（きゅう）"してないと、季節の食（しょく）材（ざい）しかないんだ。

　後は"季節外の野（や）菜（さい）や果（くだ）物（もの）を育てる技（ぎ）術（じゅつ）"とかかな。

　マーチャさんがいくつか野（や）菜（さい）を選（えら）んでいる間にした会話で、食べ物に関する事だけでも、色々日本の生活の有（あ）り難（がた）みが分かった。

　魔（ま）道（どう）具（ぐ）の作（せい）成（さく）とか改（かい）良（りょう）と、農業に携（たずさ）われば、皆（みんな）がいつでも美（お）味（い）しい物を食べれられるようになるかな？

　しっかり充（じゅう）分（ぶん）食べられる事は、働（はたら）くにも穏（おだ）やかな日（にち）常（じょう）生活を過ごすにも必（ひつ）要（よう）不（ふ）可（か）欠（けつ）。

　そんな思（し）考（こう）に沈（しず）んでいるうちにマーチャさんは買い物を終えていて、荷（に）物（もつ）を受け取り自転車のかごへ入れる。

　靴（くつ）以外はかごから落ちないように……、は入らなかったから、野（や）菜（さい）以外は袋（ふくろ）を肩から提（さ）げた。

　バスタオルもタオルも買ったから、軽いけどかさはどうにもできなかった。

　お昼はどうするかと話しながら、家へ向（む）けて自転車を押（お）して歩き始める。

　人が結（けっ）構（こう）いて、自転車を走らせるのは危（き）険（けん）そうだったからだ。

　どうとはと聞いてみると、「日本では食事は三食が普（ふ）通（つう）なのよね？この国では二食と三食食べる人の比（ひ）率（りつ）が半々くらいで、お昼を食べる時は外食か屋台で買って食べるのが基（き）本（ほん）なの。外食と屋台のどっちがいいかなって」という事だった。

　大（おお）城（しろ）家はお昼は食べるのか聞いたら、大（おお）城（しろ）さんは食べる派（は）。

　建（けん）築（ちく）というお仕事柄（がら）、体力使うだろうし食べるのが普（ふ）通（つう）だもんね。

　マーチャさんはその日によるって。

　今日の気分を聞くと食べたいそうで、屋台で何か買って帰って家で食べませんかと提（てい）案（あん）。オッケーって事で、マーチャさんお勧（すす）めの屋台料理を適（てき）当（とう）に買いこみ家へ。

「正午の鐘（かね）がなってちょっと経（た）つから、先にお昼ご飯（はん）にしましょう。お昼を食べたら、優（ユウ）はタオル類（るい）以外を片付けて。

　タオルは脱（だつ）衣（い）所（じょ）に優（ユウ）の引き出しを作るから、そこへしまったら後で場所を教えるわね。

　部屋は使ってもらってる部屋しかないから、そこをそのまま使ってね。あ、家具も使ってね」

「ありがとうございます。宜（よろ）しくお願いします。

　部屋と家具、下さってありがとうございます」

「優（ユウ）は娘になってもらうんだもの。娘が嫌（いや）なら姪（めい）ね。どちらにしても家族になるんだもの、当たり前よ」

「……家族……」

「家族になるのは嫌（いや）？」

「嬉（うれ）しいです！お母さんには若いなって、ちょっと戸（と）惑（まど）いと驚（おどろ）きがあっただけで……」

　テーブルにはすでに屋台で買った料理と常温の水の入ったピッチャー、冷（れい）蔵（ぞう）箱（ばこ）から出されたレモン入りの水のピッチャー、焼（や）き物のカップがニつ並（なら）べられていた。いつの間に……。

　手で座（すわ）るように促（うなが）され席に着き、食事をしながら話しは続く。

「私達は娘のつもりであなたを扱（あつか）うわ。私には優（ユウ）くらいの歳（とし）の子供がいるしね。

　優（ユウ）はいつか私達を家族だと思えた時にお父さん、お母さんって呼（よ）んでくれたらいいわ。もちろん、呼（よ）べないままでもいいのよ。

　今は名前で呼（よ）んでもらえたらいいわ」

「子供？！」

「私は子連れの寡（か）婦（ふ）だったの。縁（えん）があってオオシロと再（さい）婚（こん）したのよ。

　子供は今年二十三歳（さい）。もう独（どく）立（りつ）しているから、近いうちに紹（しょう）介（かい）するわね」

　マーチャさんって何歳（さい）だろう。女同士でも歳（とし）は聞きにくい。

「大きな息（むす）子（こ）さんのお母さんなんだ。私は今年二（は）十（た）歳（ち）だから、三つしか歳（とし）が変わらないわ」

　……、うん。お母さんって呼（よ）べるようになったら呼（よ）ばせて下さい。

　良い人達でも、信（しん）用（よう）できても、いきなり家族になって父（ちち）母（はは）と呼（よ）ぶのに抵（てい）抗（こう）がないかと問われれば、さすがに抵（てい）抗（こう）がある。

　今は、親（しん）切（せつ）すぎるおじさんとおばさんかな。

　ご夫（ふ）妻（さい）をいつかお父さん、お母さんと呼（よ）べたらいいなと考えつつ、お昼ご飯（はん）の片付けまで終えた。