勇者パーティーをクビにされたので、魔王軍のキメラ開発部局に転職しました。
友斗さと
第1話 完成!美人キメラ
これは、よくある勇者の物語。
魔族が領土拡大のために人間族を脅かしているこの時代。
魔王軍を討伐するため勇者は旅に出た。勇者の幼馴染であり友人であり、そして稀代の錬金術師であるジークもまた、その旅に同行したのであった。
しかし旅の途中、ジークは色々訳あって勇者パーティーから離れ今は魔王軍にいる。
捕虜になったとかそういうわけではない。
なんせ彼は今、魔王軍の一番奥にあるキメラ開発部局で黙々と、そして嬉々として研究を満喫しているのだから。
研究室の中には大きなビーカーのような物が立ち並び、その隙間を埋めるように研究員達の机があった。その机の上も様々な器具で埋め尽くされている。
そんな雑然とした研究室で電気もつけず、ジークは一人で研究に没頭していた。
薄暗い物置のような部屋の中、ジークはニヤリと不敵に笑った。
「できた」
その笑顔は元勇者パーティーの一員とは思えないほど気味悪いものだった。
「ジークさーん、調子はどうですかー?」
沢山の荷物を抱えた小柄な女の子がひょっこりと顔を出した。彼女の背中には黒い羽が生えていて、たまにパタパタと動いている。そしてクリクリした瞳は彼女を実年齢よりも幼く見せている。しかし、そうは言っても彼女も悪魔。人間の女性が持てないくらいの量の荷物も、悪魔である彼女は楽々と持ち運んでいた。
彼女の名前はシシリア。ジーク同様魔王軍キメラ開発部局に勤める研究員である。多すぎる荷物をジークの机の上に置き一息ついた。
「ああ、いいところに来たね!シシリア君!」
大袈裟な身振り手振りでジークはシシリアを出迎えた。その大袈裟すぎるジークの様子に、シシリアは思わず顔を引き攣らせた。しかし優しい彼女はジークの話に耳を傾けてあげた。
「いいところですか?」
「見たまえ!完成したぞ!」
そう言ってジークは指をさした。自信満々なジークの態度が癪に障るが、指摘するともっと面倒になりそうだったのでシシリアは渋々黙って視線を向けた。
「えっ」
しかしそれを見たシシリアはドン引きした。
なんとそこには全裸の女性が座り込んでぐったりとした様子で眠っているのだ。しかも美しい銀色の猫耳ともふもふのしっぽがついている。なによりも巨乳の美人だ。胸元寂しいシシリアはその豊満な胸に釘付けになった。
しかしすぐに我に返り、慌ててバスタオルを美人にかけてあげた。
「ちょ!裸のままって、どうなんですか!」
「む。すまん。自分のあまりの天才っぷりに酔いしれていた」
確かに男性のツボを押さえたような美人である。何故こうなったのかは分からないが、自慢げなジークをシシリアは心の底から軽蔑した。
「うわ。ないわぁ。いくらモテないからってこれはないわぁ」
「は?いやいや!これはやましい気持ちとかないからね!?」
必死に弁明する姿が余計に怪しい。
「……」
シシリアはジークを胡乱な目で見た。
「信じてよ!いや。ごほんごほん。そ、それよりもだね!これはようやく完成したキメラなのだよ!」
「え?キメラですって?!」
シシリアは目を丸くした。
巨乳を見るのは現実を突きつけられるので、できれば御免被りたいところだが、シシリアは彼女へと視線を向けた。
魔王軍では昔から戦闘キメラの開発に力を入れてきた。しかしなかなか成功する事ができずヤキモキしていたのだ。開発に携わってきたシシリアとしてもキメラが完成したと聞けば居ても立っても居られない。
どんなに観察しても限りなく人間に近い形をしている。魔族の気配を感じるものの、人間と混ざっているからか分かりにくい。美人で巨乳という意外は無害そうに見える。しかしよくよく見れば鍛えられた筋肉と、隠された膨大な魔力を感じる。
「そう!ネコの魔獣と人のキメラだ!魔力の低い人間と組み合わせることで、魔族特有の魔力の気配を消す事ができる。しかし!魔獣の力強さは健在というわけだよ!」
「おお。ちゃんとした理由」
シシリアは心から驚いた。そんなシシリアの態度にジークはちょっぴり傷ついた。
「え?まだ疑ってる?」
ジークの問いかけに、シシリアは深く、そしてしっかりと頷いた。
「まあ。日頃の行いのせいですよね」
「日頃の行いは品行方正そのもののはずだけどな」
ジークは首を捻った。研究に勤しむ真面目な魔王軍の一員のはずなのに。何故こうも信用がないのか訳がわからないという表情をしている。
シシリアは深い深いため息をついた。
何故分からないのか、呆れて何も言えない。
しかしジークは本当にわかっていない様子で考え込んでいる。シシリアは仕方なく、つい昨日ジークが起こした事件について話し始めた。
「昨日は女子風呂で女子を待ち構えていたそうじゃないですか」
昨晩のこと、魔王軍の女性たちが和気あいあいと風呂場に入ると、湯船に浸かってくつろぎまくっているジークがいたらしい。
間違いなく女子風呂であるそこに、男性であるはずの彼がいるのは何故か。
覗きにしてはあまりに堂々とした振る舞いに、女性たちは何が起こったかわからなかったという。
「それは違う!本当に間違っただけだ」
ジークは必死に弁明した。
ジークは本当に男子風呂だと思って入っていたのだ。掃除当番が表示を間違っていたらしく、ジークは男子風呂だと思って女子風呂に入ってしまったのだ。
決してやましい気持ちなんてない。
紛れも無く
けれど女性たちの誰一人としてジークの言い分を信じなかった。おかげ様でジークは立派な変態と認識されたという訳である。それにしても一夜にして魔王軍中の噂となろうとは、ジークも予想外である。
「信じてくれ!シシリア君!」
まだ信じきれていないシシリアが我が身を守るようにジークから一歩離れた。
そんな事されるとジークだって地味に傷つく。
「他にもあるじゃないですか。ほら先週は下着泥棒したって聞きますよ」
「違う違う。下着泥棒を捕まえたの!」
先週、研究室から出たジークは下着を握りしめた一人の男と出会った。焦った様子で走ってくる男を見て、ジークはただ事ではないと判断して、その男を捕まえた。
仮にも勇者パーティー出身の錬金術師。
ジークはそれなりに体術も使えるのだった。
あっさりと男を捕まえ、無事下着を取り返した。男を突き出し、下着を女性たちに返したはずだが、何故か下着泥棒の犯人はジークという事になっていたのだ。
その噂を耳にした時ジークは愕然とした。
とんだ冤罪である。
「とにかく魔王軍女性陣からは苦情の嵐ですよ」
シシリアは大げさなため息をついた。
「全部濡れ衣だから!!なんだよ!みんな!俺が勇者パーティー出身だから虐めてる?ねえ?おれ虐められてる?」
そう言って膝から崩れ落ち、頭を抱えた。落ち込むジークに、シシリアは少し言いすぎただろうかと反省した。
確かにジークは変態っぽいが根っからの悪い人ではない。厨二病を患っているようだが、魔王軍にいるのが不思議なくらい善良な人間だ。
「それはそれでなんかイケナイ扉開きそうだけど」
「そういうところですよ」
ちょっぴり嬉しそうなジークの表情を見て、虐められて可哀想と一瞬でも思った事を後悔した。
こう言う事を言ってしまうから女性から変態扱いされるのだ。少しは自重すれば、女性達の態度も変わると思うのに。シシリアはガックリと肩を落とした。
「むしろ皆さんはコイツ、勇者パーティークビになって当然だわって思ってます」
「何だって!?」
ジークは大きな衝撃を受けたのであった。
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