第12話
「痛っ!」
「あっ、ごめんなさい・・・・きゃっ!」
「これほどまでに暗いとは、ね」
すぐ隣にいるはずの人の姿さえ見えないほどの暗闇の中、ドリィの呟きの直後、淡い灯りがあたりを照らす。
見れば、ドリィが全身に仄かな明かりを纏っている。
「綺麗・・・・」
その姿に、思わずユメミが感嘆の呟きを漏らしたが。
「まぁ、ね。これでも一応、僕は夢の妖」
「クスっ!早くライトっ!」
「りょ~かい。ちょっと待って」
あまりの暗さに苛立ったノイの怒鳴り声にドリィの得意げな言葉は搔き消され、代わりに柔らかな明かりがあたりを満たした。
「なにここ・・・・何にもないじゃない」
寒気でもするかのように自分の体を抱きしめるシキ。
シキの言うとおり、クスの明かりが届く範囲を見回しても、あたりには何も見えない。
けれども。
「きゃあっ!ちょっ、何よ、離せーっ!」
明かりから少しだけ外れた薄暗い場所にいたメアが叫び声をあげて、足をバタつかせた。
見れば、床から伸びた黒い影が、メアの足に巻き付いている。
「もー、しつっこいっ!これで、どうだっ!」
言葉と同時に、メアは肩から斜め掛けにしていた小さなボックスのボタンを押した。
すると、そのボックスからは【賑やか】の他には【騒々しい】としか表現のできない、けれども陰か陽かで言えば断然陽の音楽が流れ始める。
とたんに、メアの足に巻き付いていた黒い影は霧のように砕け散った。
「みんな、明かりの中に固まった方がいい」
ドリィの言葉に、全員がクスの照明が照らす明かりの輪の中に入る。
「気を抜かないで。闇は隙を見せたらすぐに僕らを取り込もうとするはずだから。さっきメア、『怖い』って、思わなかった?」
「うん・・・・思った。だってここ、薄気味悪いし」
「それ。恐怖は負の感情。闇はね、負の感情が大好物なんだ。だからここでは負の感情を持っちゃダメだよ」
全員が、ドリィの言葉に大きく頷く。
「あまり時間がありません」
リマの持つ大きな砂時計は、上の砂が四分の一ほどまでに減ってしまっている。
「で?こーんな何にもないところで、これからどうやって『ナナ』を探すつもり?」
シキがそうドリィに尋ねると。
ツンがフワリと浮かび上がり、真っすぐに進み始めた。
「ツン?そっちにナナがいるの?」
ツンを追うようにして、ユメミも歩き出す。
「ちょっ、勝手に歩き出したら危ないって・・・・あぁもう、ユメミっ!」
フラフラと歩き始めるユメミの手を取り、ドリィがため息を吐く。
「僕、さっき言ったよね?闇は隙を見せたらすぐに取り込もうとするって。ちゃんとわかってる?ここはそれくらい、危険な場所なんだよ。ユメミは生身の人間なんだ。生身の人間が他人の心の闇に囚われてしまったら、きっともう、誰にも助け出す事なんて不可能だ。だから、ユメミは絶対に僕の傍から離れないで」
「でも、早くしないとナナがっ」
「『ナナ』を助ける前にキミが闇に取り込まれてしまったら、誰が『ナナ』を助けるの?」
「そう、だね・・・・わかった」
頷くユメミにホッと息を吐くと、ドリィは言った。
「おそらく、ツンが向かっている先に『ナナ』がいる。僕がユメミとツンの後ろを歩くから、ノイ、シキ、メア、リマはその後ろから来て。悪いけどクスは一番後ろから、僕たちを照らしながら歩いてきてくれるかな?」
「りょうかい」
「それからメア、思い切り賑やかな曲、流し続けててね」
「オッケー!」
「ノイとシキは体力温存でね。『ナナ』がもし闇に囚われて沈んでしまっていたら、引き上げるのに相当苦労すると思うから」
「「らじゃっ!」」
「リマは時間管理を頼む。もしタイムオーバーになりそうになったら・・・・ユメミだけでも帰さないといけないからね」
「はい」
楽し気な音楽が響き渡る暗闇の中。
クスの照明に照らされて、全員が無言でツンの後を付いて歩く。
「ナナ・・・・お願い。教えて、どこにいるの」
祈るような気持ちがユメミの口をついて出て来た時。
ツンが突然動きを止めて振り返った。
その、ツンの後ろには。
首元まで闇に飲まれた『ナナ』の姿が見えた。
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