第6話

 そうして、日々を積み重ね──再び、春がやって来ようとしていた。


 手元に残ったのは、からっぽになったペンと、一冊の日記帳。


「美味であった」


 ごろごろ、ぐるぐる。

 満足気に喉を鳴らして、猫はまた、朗々と語る。


「我は新たな主を求める」


 ペンが、猫に従うように浮かび上がった。

 空になったはずのインクが、満たされている。


「これより先のページは、お前がかってに書くがいい」


 光る目が、ゆるやかに弧を描く。


「もうわかっているはずだ。お前は行きたいところに行ける」


 それだけ言うと、猫はくるりときびすを返して、姿を消した。


 一人取り残されたことに、記憶喪失で目覚めたその日よりも、うろたえそうになる。


 だけど、私には。

 日記を手に取り、少し古びた表紙をなでた。そっと、最初のページをめくる。


 次へ、次へと、ページをめくるごとに、見えてくるものがある。

 知らぬ間に、口元がゆるんでいく。


 最後のページをめくる。

 その先にもまだ、ページは続いている。


 ──今日は何をしよう?

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あなたのきせき 七嶋凛 @rin_7shima

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