①マザーグースが聞こえない ~非公式安楽死組織・ギフト~

shinobu | 偲 凪生

プロット

◯参考作品(敬称略)

「スズキさんはただ静かに暮らしたい」

「MIND ASSASSIN」


◯世界観

・現代日本のパラレルワールド。

・将来の資源枯渇を懸念した政府によって、人口削減の一環として安楽死が合法化されている(安楽死福祉法)。しかし申請には大量の書類と数回にわたる面接、五人以上の親族の同意、さらには多額の現金が必要なため、基本的に一般市民は利用することができない。

・そこで登場したのが非公式安楽死組織【ギフト】。詳細は謎に包まれているが、申請することができた人間は安楽死できるという都市伝説がまことしやかに流れている。生活困窮者や精神疾患持ちの人間が不審死を遂げる度、世間はギフトの話題で持ちきりとなり、非公式の自殺幇助は善か悪か激しい議論が繰り広げられる。

・ギフトで最も有名な殺し屋の名は【マザーグース】。その由来は依頼主の命が尽きるときに口笛で子守唄を吹くからと言われているが、依頼主は死ぬのに噂が存在するということで疑問視する人間も多い。時々マザーグースのものとされる口笛がインターネットに流れては削除されるが真偽は不明。

・ギフトを取り巻く組織として、逮捕しようとする公安警察や、患者を安楽死へ誘導してギフトの正体を暴こうとする精神科医、ギフトを神格化するカルト宗教などが存在する。また、公的安楽死については【資源庁】の管轄となっている。

・前述の通り資源不足が問題となっており、食料では動物たんぱくは貴重、嗜好品になりつつある。一般市民向けに、昆虫や人工肉が代替品となっている。


◯主要キャラクター

後守こもりレイン:主人公。男性、二十歳、一人称「俺」

・長身細身。面長。黒髪。前髪が長くて目は隠れがち。黒目に見えるが実際は金色で、コンタクトレンズを入れて黒に見せている。

・イメージ:高橋文哉さん

・普段は無気力。猫背。表情の変化が乏しい。サブスクリプションで延々と音楽を聴きながらソファーで眠ることに唯一の喜びを見出している。

・正体は「ギフト」の構成員で、コードネームは「マザーグース」。身体能力もIQも高く、依頼主のリクエストに応じた殺し方ができる。コードネームの由来は、裸眼の状態で口笛を聞かせた相手へ任意の幻覚を見せることができる超能力の持ち主であることから。

・「コーヒーなんて飲めれば何でもいいだろ」「それってアサシン・ハラスメント、略してアサ・ハラだぞ」「自分以外の人間は全員他人だ。結局、相互理解なんてできないんだよ」「……あいつの飯が食いたいな」


小鳥遊たかなしティアラ:ヒロイン。女性、十六歳(作中で十七歳になる)、一人称「あたし」

・小柄。丸顔。黒髪ボブ。黒目。

・イメージ:奈緒さん

・私立ペトリコール女学院二年A組の学級委員長を務めていて、ニックネームも「委員長」。奨学生。真面目でおせっかい焼き。喜怒哀楽がすぐ顔に出る。

・安楽死制度には疑問を抱いている。

・趣味はスーパーマーケットを渡り歩いて最安値を見つけること。

・実は父親が酒乱で時々暴力を振るってくるという秘密を抱えている。

・自分の名前を気に入っておらず、呼ばれることを激しく拒否する。

・「駅前のスーパーは毎週水曜日に卵一パックが税込み二百円になるんです。合成液卵ではない普通の卵を食べる唯一のチャンス」「名前で呼ばないでください! 嫌いなんです、自分の名前!」「へー。悪人なのに真っ当なことも言うんですね」「頑張ったら価値観の溝だって一ミリくらいは埋まると思いませんか?」


結伊ゆいラピス:依頼主。女性、十七歳、一人称「私」

・モデル体型。美人。黒髪はロングストレートで、前髪はぱっつん。目の色はよく見ると濃い灰色。

・イメージ:中島愛さん

・ティアラのクラスメイト。孤独を好み、冷たそうに見える。

・小学生の頃にいじめに遭っていた。理由は図工の時間に太陽を青で塗ったから。加害者から「普通じゃない」と罵られたというトラウマを持っている。

・家庭環境も複雑で今は親戚の家に身を寄せている。

・ギフトに殺されたと噂される元担任とは、元太陽を青で塗った過去を肯定してくれたことをきっかけに恋人関係にあった。

・「十七年間生きててよかったことは先生と出逢えたことだけなの」「あんたに何が分かるっていうの、この偽善者!」「普通って何か教えてほしい」「死なせてくれて、ありがとう」


神部かみべレオン:依頼主。男性、十六歳、一人称「僕」

・中性的な顔立ち。薄茶色の髪、青い瞳。

・イメージ:山崎賢人さん

・かつて人気子役として一世を風靡したが、現在は不治の病にかかって入院中。基本的に寝たきりで、歩行も困難。移動は車椅子に乗っている。闘病生活をSNSで投稿していて、フォロワー数も多い。

・デビュー作にして遺作にしようと、パソコンで曲を作っている。

・飄々としていて人懐っこい。

・「レインっていうの? 僕と一文字違いだね。君とは仲良くやれそうだ」「よろしく、レイン。僕をちゃんと殺してくれよ」「いつも笑っている人間だって心は傷ついているかもしれないからね」「もし人間に生まれ変われたら、今度は健康な体が欲しいな」


⑤哀川アサキ:ティアラの級友。女性、十六歳、一人称「ワタクシ」

・長身。赤縁眼鏡。ハスキーボイス。

・イメージ:山﨑ケイさん

・私立ペトリコール女学院二年A組在籍。オカルト研究会会長。ステレオタイプとしてのオタク女子であり、クラス内では特殊な立ち位置にいる。【ギフト】に異常な興味を示している。

・正体は【ギフト】の正体を暴こうとしている私立探偵。双子の姉が【ギフト】によって安楽死したという過去があり、【ギフト】を憎んでいる。

・「死にたいけれど自分で死ぬのは怖いと考えた人々へ救いの手を差し伸べる存在が登場しました。それが正義の味方【ギフト】なのです!」「口にした言葉だけが真実だと思っているなら、あなたはとんだ甘ちゃんですよ」(2巻以降)


◯物語構成

・全3章構成


プロローグ

・マザーグースの仕事現場。今回の依頼主は成人男性。依頼主は教師であるにもかかわらず生徒を愛してしまったことで罪の意識を抱いていると語り、最期に彼女の幻を見せてほしいと乞う。マザーグースは黄金の瞳を露わにして、口笛を吹く。毒薬を飲んだ依頼主は恋人の名前を口にした後、満足そうにこと切れる。


1章

・駅前ビルの大型ビジョンに朝のニュースが映し出される。一切苦痛を伴わないカプセル型安楽死装置【ウィル】の最新式がリリースされ、難病の資産家が利用したと報道されている。その遺産はすべて安楽死装置の開発に充てられるという遺言が公開され、遺族が反発するインタビューが流れる。

・私立ペトリコール女学院二年A組の担任が死んだ。朝礼では事故死と説明されたものの、生徒たちは、気弱な担任は教頭からのいじめに耐えられずギフトに安楽死を依頼したのだと噂する。

・オカルト研究会の会長がギフトについて熱弁を奮いはじめたため、委員長であるティアラは場を諌めようとする(2巻への引き)。

・二年A組の新しい担任としてレインがやってくる。亡くなった担任は気弱だったが、今度の担任はやる気がなさそうに見えるとティアラは怒る。

・休んでいたラピスが数日ぶりに登校したので隣の席のティアラは教科書を見せるなど積極的に関わろうとするが、ラピスに拒絶される。

・レインが美術準備室にいるとラピスが現れる。ラピスは、恋仲だった元担任の後を追うために死を希望していた。元担任は美術担当で、逢瀬の場所が美術準備室だったのだ。

・放課後、レインが駅前を歩いているとティアラに遭遇する。何故だかティアラからスーパーマーケットの特売情報を伝えられ困惑する。

・レインは空っぽのマンションへ帰宅する。音楽を聴きながら、ギフトの司令官へ今回の依頼主であるラピスと問題なく接触できたと報告する。

・レインは渡り廊下でティアラとラピスが口論する姿を目撃する。職員室に現れたティアラは、レインへ向かってラピスが自殺願望を口にしたことが気になり彼女を助けたいのだと訴える。ティアラは安楽死反対派で、ギフトのことも悪の組織だと考えていた。レインは、おせっかいは身を滅ぼすと忠告する。

・レインが任務のためにラピスと接触する。レインがコンタクトレンズを外すと、金色の瞳が輝く。レインがラピスを殺そうとしたところへティアラが乱入してきた。邪魔をされたことに怒ったラピスは、ティアラの頬をぶってその場から立ち去る。

・死ねなかったラピスは思いつめて、美術準備室へ立てこもる。そこにはラピスを描いた油絵が隠されていた。ラピスは最初から自殺すればよかったのだと考え、首吊りを試みる。そこへティアラが現れ、窓を叩き割ってくる。錯乱するラピスが中庭へ飛び降りようとしたため、ティアラも後を追う。

・レインはティアラだけを助けた。ラピスの体には布がかけられている。詰め寄ってくるティアラに対して、レインは自らの正体がギフトの「マザーグース」だと明かし、ティアラは依頼主ではないから命を守る義務があるのだと説明する。

・レインはコンタクトレンズを外し、意識混濁状態のラピスに向けて口笛を吹く。ラピスは恋人の幻覚に見守られながら、微笑み息を引き取った。

・レインは組織経由で女学院へ辞表を提出し、マンションも引き払い、元のアジトである探偵事務所へと戻った。

・ある日、路地裏から聞き覚えのある悲鳴が聞こえてきた。嫌な予感がしたためレインは空地へと向かう。そこにはごろつきに襲われるティアラの姿があった。ティアラは複数のスーパーマーケットへ聞き込みを行い、執念と直感でレインの居場所を探し当てたのだった。


2章

・何故だかレインの探偵事務所にティアラが入り浸るようになる。さらには毎日夕食を作り出しはじめ、食事を共にするようになっていた。ティアラはレインに対して、仕事で不在がちな父親と二人暮らしの自分はずっと誰かと食事をしたかったのだと説明する。さらには、レインならば男女間の間違いも起こらないだろうし、食に興味のないレイン自身の栄養状態も改善できるので一石二鳥だという謎の理論を展開してきた。食に興味のないレインだったが、対応する面倒くささが上回り反論は諦めた。時たまレインが時々スイーツを買って帰ると、ティアラはとても喜んでスイーツをSNSに投稿するのだった。

・新たな依頼を受けてレインが向かったのは総合病院の最上階にある特別個室。依頼主は元子役のレオン。現在は闘病生活をSNSに投稿している。レオンはマザーグースの噂を耳にしてからずっと憧れていたとレインへ熱を向け、SNSに載せていいか尋ねる。即答で拒否するレイン。勿論、レオンも冗談だと笑う。そんなやり取りの後、レオンは海を見てから死にたいと言う。

・レインがレオンを乗せた車椅子を押しながら総合病院の玄関へ降りて行くと、ティアラが待ち伏せていた。当然ながらレインはティアラを追い返そうとするが、ティアラの存在を面白がったレオンは同行を許可する。レインは諦めて、三人で海へと向かうことになる。道中、レオンへ死にたい理由を訊くと、合法的な安楽死制度の利用については金銭的に問題なかったが、周囲から猛反対されたためにギフトへ安楽死を依頼したのだと飄々と語った。どうせすぐ死ぬのなら死に方は自分で決めたい、とレオンは笑う。

・海岸近くのコンビニでジャンクフードを買い、食べながら三人は海を眺める。子どもの頃から芸能界にいたレオンはジャンクフードを初めて食べたと言って興奮する。そこでティアラは安楽死を撤回しないか提案したが、レオンはもはや死を待つのみの状態であるため、考えを改めることはなかった。海を動画に収め、レオンは満足そうに帰途につく。

・病室で録画した海を眺めるレオン。ティアラも特別個室へ出入りする許可を得て、ありきたりな会話をするようになる。

・レオンは、俳優業自体は楽しかったし大人の期待に応えるのは面白かったと語る。そして、密かに作曲中だというメロディーを紹介する。曲の完成したときが自らの死ぬときだと言うレオン。

・ティアラはりんごの皮を剥きながら、自分にできることはないか尋ねる。するとレオンはティアラのことを抱きしめたいと申し出て、ティアラはすんなりと了承した。その会話を、レインは廊下で聞いていた。

・探偵事務所で、ティアラはレインへ不治の病の治療法を探せないかと訴える。レインは歯がゆさを感じながらも、ティアラは子どもだから分からないのだと切り捨てる。言い争いになり、ティアラは部屋から出て行く。今まで他人との関わりを持ってこなかったレインは己が動揺していることに戸惑う。

・ところがレインが任務を遂行する前にレオンは病状が悪化して亡くなってしまう。ニュースでも大々的に報道される。ティアラとレインはお別れの会に参加して、レオンがいかに愛されていたかを知る。

・落ち込むティアラに、レインは自らがギフトに所属している理由を語る。超能力の持ち主であるレインは両親から気味の悪い子どもだと蔑まれて虐待を受けていた。やがて両親は離婚して、レインを引き取った母親は自殺した。そのとき組織に拾われて今に至るのだと説明したレインは、ティアラへこれ以上非日常に関わらないようにと告げる。そして、もう二度と探偵事務所には来るなと拒絶するのだった。

・レインは一人で初めて夕食を完成させて口にするも、まずいと呟く。無意識に吹く口笛は、レオンが作り、ティアラへ聴かせたメロディーだった。


3章

・別の街へ引っ越したレインは静かな日々を取り戻していた。順調に安楽死の依頼をこなす毎日。一方で簡素な食事に慣れていた筈なのに、時々スーパーマーケットに立ち寄ってしまう。そして、買った総菜を食べながらティアラの平穏無事を想い、住む世界が違ったのだと自らに言い聞かせる。

・司令官から、新たな依頼主がマザーグースを指名してきたと告げられる。指名制なんてありえないと鼻で笑うレインだったが、なんと依頼主はティアラだった。

・驚いたレインは携帯電話へ電話をかけるも、番号が使われていないと返ってくる。しかたなしに、夜の公園で依頼主としてのティアラと再会する。するとティアラは変わり果てた様子で、朗らかさはどこにもなかった。実は父親から虐待されていたティアラは、決定的な暴力を振るわれて家出していたのだった。生きることに疲れ、もう死んでしまいたいと繰り返すティアラ。

・レインが口笛を吹くと、ティアラは幻覚を見て涙を流す。しかし、何を見たのかはレインへ説明しない。途方に暮れたレインはティアラを現在のマンションへ連れて行く。

・レインは、いつも明るく見えたティアラがずっと心の傷を隠して生きてきたことに想いを馳せる。

・何故だか任務を遂行できないレインは、ティアラと共に山奥のアジトへ逃げることを決める。

・少しずつ動けるようになったティアラは料理をするようになり、ふたりでハンバーグをつくる。レインはティアラから包丁の使い方などを教わる。武器では簡単に扱えるのにと玉ねぎのみじん切りに苦戦するレインを、ティアラは気長に見守る。

・ついにレインはパウンドケーキを焼くまでになり、ティアラの17歳の誕生日を祝う。ティアラがレインの誕生日を尋ねると、レインは分からないとはぐらかす。

・穏やかな日々も束の間。二人の前に、組織内でマザーグースをライバル視しているコードネーム「スケアクロウ」が現れる(2巻への引き)。ティアラを庇って傷を負ったレインを見て、ティアラは依頼をキャンセルすると涙ながらに訴える。力を取り戻したレインはあっという間にスケアクロウを追い込み、スケアクロウは退散した。

・死にたいなんて言うなと口にするレイン。柄にもないとティアラは泣きながら笑い、自分が口笛で何の幻覚を見せてもらえたか明かす。それは、レインが笑って幸せそうにしている姿だった。

・任務から逃走したレインは組織に拘束され、裁きを受ける。レインをかつて組織へと連れてきた人間、つまり現在の司令官は、これからもマザーグースとして任務を遂行したいというレインの葛藤と矛盾を人間の成長だと受け止めた。

・ギフトの実態を調査する公安が、インターネット上の情報を集めてレインの正体に気づきかける(2巻への引き)。


エピローグ

・組織内裁判を経て、レインは組織に戻ることになった。さらに、レインは組織の力を借りて、帰る場所のないティアラと暮らしはじめる。

・ティアラは通信制高校へ編入し、高校卒業を目指す。ティアラから目標を訊かれたレインは答える。「生か死を自ら選べる権利をなくさせないために、俺は生きる」と。

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