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 ぼんやりと考えていると、どこからか魚の匂いが漂ってきた。風にのせて魚が燃えている匂いが漂うとそれはジュンの嗅覚を刺激した。そして、その美味しそうな匂いに誘われるまま、 匂いがする方にふらりと歩き出した。海岸沿いの向こうに誰かが浜辺で焚き火をしていた。よく見ると、それはテルキだった。


 彼は自分で捕まえてきた魚を棒に刺して、そのまま焼いていた。その光景にジュン思わず、釘付けになった。テルキは焼いた魚を一人でムシャムシャと美味そうに食べていた。つい、お腹が鳴ると空腹はMAXを超えた。



 あ、テルキ君! 一人で魚を食べてる…!


 ずるい……!


 僕なんかずっと飢えているのに…――!



 ていうか、どうやってアイツ火を起こしたんだ!?



 そんな疑問が不意に脳裏によぎると、ある事を思い出した。



 わかったライターだ! 



 あいつライターを持ってやがったんだ…――!



 その瞬間、愛は憎しみへと変わった。



 あのヤー公、一人で楽しやがって……!

 絶対にゆるさねぇっ!!



 ジュンは恋人のテルキに、激しい怒りの感情を燃やすと、そのまま彼の前にバッと姿を見せた。



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