第43話 力を授けましょう

 閉じられて、光など一切入るはずのない視界に一筋の光が差す。


 光は徐々に広がりを見せ、ブラックアウトしていた視界には世界が映った。


「これは……うわっ!?」


 気づけばよくわからない羽衣のようなものが俺の体の周りをふよふよと漂っている。

 そして、体の傷がみるみるうちに癒えていく。

 痛みは引き、空っぽになったはずの魔力は元の量より大きく回復しているのを感じる。


『もう一度機会を与えましょう!』と言った謎の声が会場に響く。


「勇者よ! 目が覚めたのですね! それでは、始めましょう――勇者の物語を!」


 声の主を探そうと会場全体を見渡してみるが、それらしい人物は見当たらない。


「なにを――っ!」


 俺が言い切るよりも速く、ユレイン先生が相手取っていた女の子が俺に接近した。


「お前が勇者! 魔王様の……ご主人さまの敵ッ!」


 刃を失い柄と鍔だけになった両手剣だったものは、それでも俺を守ってくれた。接近した女の子の短剣を、どうにか防いだ。


「さっきからどうなってんだよ……ッ!」


 俺よりも幼く見える少女との、鍔迫り合いとも言えぬぶつかり合いは、俺が負けを察して距離を取らざるを得なかった。

 そもそもこいつは先生が戦っていたはず。先生はどうなってる。


「勇者よ。貴方は弱い! あまりにも弱い!」


 女の子の相手だけでも大変だというのに、今度はどこからともなく俺をバカにする声が会場に響く。

 一番意味がわからないのはこいつだ。俺を勇者だのなんだのと。しかも弱いとか言いやがる。


「魔法に優れた魔道士が。剣技に優れた狂戦士が。才覚あふれ努力を惜しまぬ賢者がいたとしても。勇者、貴方が弱くては意味がない!」

「はァッ!」

「ぐ……!?」


 謎の声が話しているのもお構いなしに、女の子は俺に肉薄する。刃のない両手剣で無理やり攻撃を防いではいるが、時間の問題だ。


「死ねっ! とっとと死んでご主人様の贄となって!」


 攻撃は止まない。


「少しくらい、話を聞いてはいただけませんかね」

「ッ!?」


 驚きの声を上げたのは俺か、女の子か。どちらのものか分からないが、それはどうだっていいことだった。

 俺の首元に迫る少女の短剣が、すんでのところで止まっていた。少女も戸惑いを見せたが、すぐに別角度から俺の体を切り刻まんと短剣を振るう。しかしそのどれもが俺の体に迫りはするものの、当たることはなかった。


「勇者よ。何度も言いましょう貴方は弱い――故に。力を授けましょう」


 謎の声が聞こえると、ずっと俺の体の周りを漂っていた羽衣のようなものが、手招きをするような動作をする。


「それは選ばられた者のみが使うことのできる羽衣。名は『シラトリ』。使いこなすことができれば、貴方は勇者としての力を一つ得たことになる。安心しなさい、シラトリはすでに貴方を勇者と認めている。あとはそれを貴方が使いこなすことができるかどうかのみ」


 そこまで言うと、謎の声は聞こえなくなった。声の主が去ったことも、なぜだかわかった。きっとこれからあの声が聞こえることはないだろう。少なくとも、今この場では。


「けどどうやったらいいのかわからん!」


 使いこなせと言われても、そもそも使い方がわからないんじゃどうしようもない。


「なら、力を貸します!」

「貴方はもっともっと私達を頼りなさい!」

「チッ」


 打つ手なしで手をこまねいていた俺の両隣に立ったのは、ダーケさんとヒガさんだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る