ハズレの才能を引きましたが、仲間たちのお陰でなんとかやれています。

桜城カズマ

第一部 旅立ち

第1話 冒険者の世界は、『才能』で決まる。

才能センス

それは、モンスターとの戦闘がメインの冒険者という職業にとって、必須とも言える能力である。

ゆえに、冒険者の世界は『才能』で決まる。

『才能』は、一人ひとり違っていて、成長とともに確立されるため、いわば『個性』のようなものでもある。


「ダーケ、【狂化バーサーク】だ!」


今は、とある依頼でモンスターとの戦闘中だ。

呼ばれた長い黒髪の少女は素早く反応する。


「はいっ!……ウガアアアアッッッッ!!」


彼女は黒いオーラに覆われる。

普段の大人しそうな表情とは一変、黒かった瞳は赤く染まり、正しく【狂戦士バーサーカー】と呼べる変化した。

これが、才能センスの力。


彼女は眼の前にいるモンスターたちを、その双剣で何体も捌いていく。


「抜けたモンスターはヒガさんっ!」

「わかってるわよ!――【フレイム】!」


ヒガさんと呼ばれた少女は、薄く蒼い髪をたなびかせて杖に魔力を集中させ、魔法を放つ。

ダーケが討ち漏らしたモンスターを、炎の玉が襲う。


「おい、アタシは何すりゃいいんだ?」


俺の隣で、事の成り行きを見届けていただけの女の子が声をかけてくる。

名前はラドル・メラニアン。

長いブロンドヘアの似合う、豪快かつ快活な女の子だ。


「あ、どうしよう」


正直言って、考えていなかった。


「おいっ、ふざけんなっ!?」


ラドルがキレて俺の胸ぐらを強くつかむ。

しまった、


「適材適所、指揮官はメンバーの『才能センス』と性格を鑑みて指示をしろ」


という師匠の言葉を忘れていた。


「ったく、しっかりしろよリーダー」


ラドルは呆れて俺の胸ぐらから手を離す。

全く、初めて出会った日から思っていたが、乱暴すぎる。

才能センス偉大なる魔女グレイト・ウィッチ】が泣くぞ。


「あなたたちっ、特にメズくん!話していないで指示を出して!」


戦闘中のヒガさんから苦情が飛んできた。申し訳ない。


「ごめん!じゃあラドル、ダーケのサポートにあたってくれ」


ひとまず、彼女が戦いたがっているようだったので、戦闘の指示を出す。

雑すぎて、師匠が見たらどやされてしまうかもしれないが、許してほしい。


「あぁ、分かった!もちろん、全部ぶっ飛ばす!」

「ちょっ……!?」


ラドルは不穏なことを言って、彼女の杖であるほうきにまたがって飛んでいってしまった。


「はぁ……」


ため息を付いて、戦闘の行く末を見つめる。戦況は優勢。

初めはあんなに多かったモンスターも、もはやまばらにしか見られない。

これは、もはや勝ったと言えよう。

戦闘が終了したのを見届けて、俺は息を吐いて地面に腰を下ろす。

ようやく、まともに戦えるようになってきた。


今でもこれは、夢なんじゃないかとそう思う瞬間がある。


俺にとってハズレの才能を持って、彼女たちと出会って、ここまで来た。

これからだ。ようやく、冒険者として名を上げることができるようになる。


☆ ☆ ☆ ☆


「……ら、こら、メズ!」


怒鳴るように俺の名前を呼ぶ声がする。


「もう少しだけ寝ていたい……」


薄っすらと目を開けると、ぼんやりと人影が見えた。

覚醒しきらない意識の中、俺はそうつぶやいて布団の中に潜っていく。ぬくい。


「起きなさい!今日は『冒険者育成学校』の初登校日でしょ?」


ガバッ、と俺が潜り込んでいた布団が奪い去られ、明るい光が目に入る。それがあまりに眩しくて、目を閉じてしまう。


「……あ」


ああ、そうだった。

今年ついに16歳の誕生日を迎えた俺は、『冒険者育成学校』に通うための最低限の条件をクリアしたのだ。


「これで起きなかったら、もう遅刻確定よ」


母さんが呆れたように俺の頬を叩く。いたい。


「起きる、起きるよ」


俺は観念して、ゆっくりと体を起こし、寝心地のとてもいいベッドから降りた。

未だぼんやりとした意識のまま、時計に目をやる。

時計の針は後少しで俺が家を出なければならない時間を迎えようとしていた。

正直言ってまずい。

俺の意識は急速に覚醒する。


「やばっ!ご飯って出来てるの!?」

「できてる。とっとと食べて着替えていきなさい」

「ありがとう母さん!」


俺は2階から慌てて下へ降り、出来上がっていた料理をよく味わいもせず口の中に運んでいく。


『朝のニュースです。まず――』


ちらりとテレビを見やると、ここからは遠い国で強大な魔力爆発が起こったというニュースを放送していた。


「ぶっそうなものだの……最近はモンスターも以前より増えていると言うし、これはもしや本当に『魔王復活』の兆しなのかの……」


近くで新聞を広げていたじいちゃんがのんびりとした口調で言った。


「んなわけないだろ、確かに人類はモンスターの増減によって絶滅しかけたり繁栄したりを繰り返したりだけど、どこの歴史書にも『魔王』なんて存在いないって確かな情報があるんだから。『魔王』は創作の中だけの存在だよ」


俺は朝食を食べ終え、着替えを始める。

学校から支給されている制服だ。

一見するとただの白いポロシャツに青い長ズボンだが、耐刃、耐火、耐水など、さまざま耐性をつけられている。

高価でかつ一般の人間には購入が困難なため、学費に少しばかり上乗せで払えば学校が支給してくれている。


無論、お金がなくて学費は払えても、制服分は払えないという生徒も少なからずいるため、俺は両親には感謝しなければならないと思う。


「そうかの……この世はわしらには想像もできん出来事が起こるようにできておるぞ?」


俺の返事にそこまで気にした様子もなく、じいちゃんは言った。

確かに、最近国の周りで確認されているモンスターの数や種類が増えていることは話題だけれど、そこに『魔王』との因果は何一つ確証がないと明言されている。

『魔王』なんてもの、まさしく想像上の生き物でしか無いのだ。


「はいはい……ってやば、もうでなきゃ。じゃ、行ってきます」

「ほい、いってらっさい。冒険者の卵」

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