異世界SNS物語

ぽてゆき

1.初恋カミノホール

『ねえ一海カズミ君、異世界SNSって知ってる?』


 夜、ベッドの上、スマホゲームしている最中にピョコっと届いたメッセージ。

 イセカイエスエヌエス? 

 なんだそれは。

 続けてURLが送られてきた。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054883084911/episodes/1177354054883084932


 ちょうど今、時間限定で貴重なアイテムが貰えるイベント中で、他のことをやる余裕など無い……なんて気持ちは、送信者の名前に気づいた途端に吹き飛んだ。

 

『送信者:高岡涼葉タカオカスズハ

 

 中2の時のクラスメイト。

 学年末の春休みに転校してしまったので、もう3年は会っていない。

 というか、そもそも喋ったことは1度も無い。

 

 少しツンとしたクール系美少女で、その時めちゃくちゃ流行ってた某アイドルグループのメンバー、ドラマに映画に引っ張りだこの大人気女優も目に入らないほど、とにかくキラキラに輝いていた。

 クラスの全男子、いや学校中の男女問わず全員が高岡涼葉に釘付けだった、と言ってもまったく過言じゃ無い。

 

 大事なことだから繰り返すけど、僕は彼女と1度も喋ったことが無かった。

 スポーツ苦手で勉強も微妙、見た目もパッとしないこの僕なんぞ遠くから眺めるだけが関の山。

 どうせ、バスケ部のエースかサッカー部のチャラいアイツとでも付き合うんだろうな……とため息をつき続ける日々。


 ……が、しかし!

 高岡涼葉は誰とも付き合うことなく遠い町に引っ越してしまった。

 心の小さな僕は謎の喜びと明確な悲しみに、人知れず涙を零した。

 自分のダサさにヘコみながら、せめてもの抵抗として、その夜はゲームの代わりにキラキラした青春の歌を聴きながら寝たのを、3年経った今でもハッキリ覚えている。


 その高岡涼葉が僕にメッセージ?

 色々な違和感など丸めてポイして、大事なゲームのイベントも放棄して、浮かれながらそのサイトに飛んだ。


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 異世界SNS

 異世界歴2017年

 5月2日@初心者勇者


 今日、初めてモンスター倒した! 

 名前わからんけど、ボクにやられるぐらいだから弱いヤツだろう。

 次はもっと上を目指すぞ!

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 これは……なんなんだ?

 ……小説?

 ……SNS?

 そう、どっちかと言えば後者。

 異世界のSNS“イセッター”に投稿されたもの、というていだそうだ。

 小説サイトに投稿されているものみたいだけど、ページをめくって現れるのは勇者やら魔王やら魔物やら、ファンタジー世界のキャラの呟きだらけ。

 まあ、なんとなく読み進めてしまう謎の力があるけど……って、これがなんなの!?


 ねえ、高岡さん。

 これがどうしたの!?

 ……って、心の中で叫んでも通じるわけがない。

 かと言って、恋い焦がれた片思い相手、1度も喋ったことのない彼女にどんな言葉を打ち返せばいいのやら──。


『ねえ、一海君、ファンタジーに詳しかったよね』


 うわっ、こっちが返す前に続けて来ちゃった。

 って、確かに詳しいというか好きだけど、胸張って言えるようなもんじゃ……。


『一生のお願い。ねえ、こっちに来てくれる……?』


 ……えー!?

 こっちに来てって……高岡さんと会えるってこと??

 いや、言葉の雰囲気からすると、それ以上もあり得る……ってアホか。

 童貞の妄想力丸出しか。

 同じ教室で1年間過ごしたにも関わらず、たった一言も喋れなかったくせに!

 ……なんてツッコミとは裏腹に、僕は初めて返信した。


『うん。全然いける』


 ……待つ。

 ……ひたすら待つ。

 ……なんか間違ったか……不安が募り始めた矢先。


『ありがとう! じゃあ、さっきの異世界SNSを開いた状態で「出でよカミノホール! ルミノホカヨーデイ!」って叫んで』


 返事来た!

 間違ってなかっ……たんだ?

 と、言い切れないむず痒きメッセージ。

 僕の知る高岡涼葉は、大人っぽいクール系美少女だったんだけど……いやいや。

 自分は疑問を持てる立場の人間か?

 そんなことで高岡涼葉に会えるなら……迷わず叫べ!


「出でよカミノホール! ルミノホカヨーデイ!」


 ……待つ。

 ……ほんのり顔を赤らめながら待つ。

 ……苦笑いしながら待つ。

 ……ま、まあ、そりゃそうか……なんて呆れそうになった矢先。


 ボワワワワンッ!


 ふざけた効果音、そして僕の部屋にポッカリと大きな穴があいた。

 穴の向こうには、綺麗な緑色の草原が広がっている。


「なにこれ……」


 僕の呟きに答えるように、絶妙なタイミングでメッセージが届く。


『ちゃんと出た……? もし出てるなら、そこに飛び込んで!』


 マ……マジ?

 っていうか、高岡さんってば、ちょっとSっ気ある感じ……イヤじゃないけど、ぼそっ……。


『出たけど、これ大丈夫なの』


 と、打ち込んだ文章を送信しかけた指を止め、首を振りながら一旦クリア。

 なんてったって、相手はあの高岡涼葉だ。

 僕の中学2年を象徴すると言っても過言じゃ無い女の子。

 彼女のことを考えるだけで胸がドキドキして、幸せに思えた日々。

 なんなら、今でも好きだ。

 何をためらう。

 むしろ、ためらう理由なんて無い。

 僕は、メッセージの第二稿を打ち込んで迷わず送信した。


『おう、出たよ! 今から飛び込むから!』


 そして僕は、その言葉に偽ることなく、部屋着のままスマホ片手に謎の穴の向こうへ飛び込んだ。

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