47.★公爵にご挨拶に行った時の話(★ハヤト視点)
アリーシャ様と結婚します、って公爵に報告に行った時の話。
貴族街に向かう道の途中で、三番街のお菓子屋さんに寄ってお土産にプディングを大量に購入した。
あんなに沢山買ったのは初めてだった。アリスが
「このプディング、在庫も含めてあるだけ全部下さい」
と言った時はお店の人がちょっとかわいそうになった。
全部で百個くらい出てきた。なのに
「足りない……」
と言った時は、マジで!? と思った。
使用人達の分も買いたかったそうだ。
全部で何人分欲しかったの? と訊くと、三百人分くらい、と返ってきて、そりゃ無理だよとしか言えなかった。
それ、事前に予約しないといけない量だと思う。
「ギリギリあるほうに賭けていました」
とはアリスの言。彼女は絶対にギャンブルに弱い。元々、危険に対して足を止めるべき場面でなぜか加速して突っ込んでいくタイプだと思っていた。賭け事はさせないように気を付けよう。
足りない分はプディングじゃなくクッキーとかにして、大量になった荷物は俺が影の中に入れた。
公爵家に着いた。いつ見ても凄い家。家って言うか宮殿。
領地のカントリーハウスはこれより凄いって話だから、貴族ってのは恐ろしい人達だ。
ぴかぴかに磨かれた黄銅の梟が乗っているドアノッカーで扉を叩くと、すぐにジェフリー氏が出迎えてくれた。
異様に伸びた背筋に、こっちまで姿勢を正してしまう。
「お帰りなさいませ、お嬢様、ハヤト様。お久しゅうございますね。皆様お待ちでいらっしゃいます。まずはお嬢様はお部屋でお召し替えをお願いいたします」
「えっ? このままではいけないのかしら。お話が終わったらすぐに帰るつもりで来たのだけど」
「淑女らしく仕上げてから通しなさいと旦那様より仰せつかっております。メアリーアン、フロリーナ、お願いしますよ。では、ハヤト様はこちらにどうぞ」
有無を言わさないオーラを放ちながら、ジェフリー氏は俺をアリスとは違う方向に誘導する。
怖い。
ご令嬢に手を出した罪で裁かれるのかな。いやまだ何もしてないけど。
公爵はそのつもりで俺をあの家に送り込んだんじゃなかったのか?
ちら、と背後を振り返ってアリスを見ると、彼女も不安そうな顔でこちらを見ていた。ますます不安になった。
ジェフリー氏が一室の扉を開けると、中には壮年の男ともう一人、俺と変わらないような歳の男がいて、俺達が入ると同時に椅子から立ち上がり片膝をついた。
彼らが処刑人なんだろうか。壮年のほうの首に白い紐状のものが掛かっている。あれで絞めてくるのかもしれない。
じっと見ていると、ジェフリー氏が振り返って言った。
「そんなに警戒なさらなくて大丈夫ですよ。ではテイラーさん、この子が例の子です。よろしくお願いしますよ」
「畏まりました」
テイラーさん。仕立屋か。
――仕立屋!?
「ではハヤト様、私はこれで一旦失礼します。終わった頃にまた参りますよ」
「えっいやあの、ちょっと」
さっさと退室してしまったジェフリー氏が閉めた扉を呆然と見ていると、テイラーさんが白い紐……じゃなくてメジャーを手に近寄ってきた。
「早速始めちゃいましょうか。時間がありませんしね。さ、上着を脱いで可能な限り薄着になって下さい」
「ま、待って下さい。俺は何も聞いてなくて。これは一体どういう事なんです?」
「私には分かりかねます。私はただ、最短で貴方様の礼服を仕上げるように仰せ付かっただけの者ですから」
「礼服!?」
なんで!?
さすがプロと言うべきか、何が何だかわからないうちにスルッと上着を脱がされて肩幅にメジャーを当てられた。
彼が口にした数字を弟子らしき男のほうが紙に記録していく。ついでに身長も測られた。何ヵ月か前よりちょっと伸びてた。やった。
採寸はすぐに終わり、彼らが道具を片付けている頃、まるで見計らったかのようにタイミング良くジェフリー氏が部屋に戻ってきた。
「いかがですかな、テイラーさん。期間はどのくらいになりそうでしょう」
「ひと月ほど頂きたく存じます。いつでも仮縫いに伺う許可を頂ければより確実かと」
「承知しました。ではそのように手配しましょう。よろしくお願いします」
……何が起こってるんだ?
俺抜きで進められていく会話に、早くも公爵のペースに乗せられてしまった気がした。
まだ姿すら見せていない公爵にこの後会うのが少し恐ろしい。こういう風に出鼻を挫かれた時って、大抵無茶なお願いが降ってくるものなんだ。
その予感は、思ってもいなかった方向で当たっていた。
「叙爵!? 俺にですか!?」
公爵家当主専用だと言う応接室に通されて、その豪華絢爛さに気圧されているところに現れた公爵から持ち出されたのはそんな話だった。
豪奢な室内に異様にしっくりくる雰囲気を持つ公爵は、向かい側に座りゆったりと足を組んで頷く。
「そう。うちの分家って事になっちゃうけどね。陛下ももうご存じだから、いつでもなれるよ」
さらっととんでもない事を言う。
いやいや、貴方にとっては何でもない事かも知れないけど、俺にはおおごとですよ、公爵。
俺はちょっと魔物の相手が得意なだけで、学も何もない人間だ。
今までにも同じような誘いは何回かあったけど、性に合わない気がするし何より貴族という人種が基本的に信用出来なくて、全て断ってきた。
さすがに今は公爵に対してはそんな風に思わないけど、でも
「なぜ……俺に?」
「だって、アリスと結婚するんでしょ? 今日はその話をしに来たんだよね?」
「それは、その通りではありますが」
もし違っていたらどうするつもりだったんだろう。
この部屋に来るまでの段取りからして、違う、とは言わせない雰囲気をこれでもかと出してきている。
もしこの場にアリスがいたらどうしたかな。
俺の立場を気遣って止めに入りそうな気もする。
……ああ、だから到着するなり別々に行動させたのか。
やっぱり公爵は怖い人だ。長いものとして相手を巻くやり方が上手い。
「……やはりアリーシャお嬢様と結婚するなら、それなりの身分が必要でしょうか」
「あるといいな、とは思ってた。無いなら与えればいいとも思ってたけど」
「はは……。さすがですね。発想が与える側の人間だ」
「君がそれに足る人間だっただけだよ。私達貴族がどのように成り立ったのかを考えれば血の貴賤など後付けの価値にすぎないと私は考えている。それで、どうする? 受ける?」
ここで頷く以外の選択肢なんてあるんだろうか。
そう思いながらも、すぐには答えられなかった。よりによってステュアート家当主直々のお誘いなんて、事がデカすぎだ。
どんな生活になるのか、想像もつかない。
「……受けた場合、生活はどのように変わりますか」
「そうだね……。しばらくはここに住んで、勉強をしてもらう事になるかな。もちろん全ての時間を使えなんて言わない。週末は今まで通り自由にしてくれて構わない。けど、平日は学院に通って貰おうと思ってる」
「学院ですか!?」
ほとんどの貴族子女が通うと言われている学院。
アリスもこないだ卒業したところだ。そんなところに俺が通うのか?
……俺、大丈夫かな。一応読み書きと簡単な計算くらいは出来るけど。
「そう不安にならなくても大丈夫だよ。入るまでの間に家庭教師を付けるから、最低でも最下位くらいの学力は身に付くと思う。なんせあそこにはピンからキリまで揃ってるから。必要なのは、あそこを卒業したっていう事実だけだ。編入前に試験を受けて、その結果次第では二年次のクラスからでも始められるようにしておく。上手くいけば半年で卒業出来るよ。その後はうちの領地を一部あげるから、そこを治めてもらおうかな。リディルってところなんだけど、のどかで良いところだよ」
領地をくれるとまで言った。
貴族にとって領地は大事なものなんじゃないのか。……それだけ公爵はアリスを大事にしているんだ。
ぽっと出の俺にこんな破格の扱いをしてくれる程に。
それからふと、リディルという地名に覚えがある気がして、記憶をさらってみた。
「リディル……。そうだ、一度行った事があります。農地に巨人型魔物が住み着いてギルドから討伐依頼が出た時に」
二年くらい前だった。巨人型魔物――アンタイオス。とても好戦的で、生き物を見れば襲い掛かる危険度最高クラスの魔物だ。
土から魔力を得て、無限に再生、復活を繰り返す厄介な奴。あの頃はまだ仲間と一緒だった。
ラヴも一緒にリディルに行って、討伐後は村の人達に酒を振る舞われて皆で困った記憶がある。
すると公爵はぽんと手を打ち、目を輝かせて身を乗り出してきた。
「ああ、あの時の! 覚えているよ、二年前だろう? 村長から『やたら強い子が一人いた』って報告書に書いてきてたけど、そうか、あれは君の事だったのか。いやぁ、あの時は助かったよ。神話クラスのモンスターだから凄く強かったろう? いや、さすがだね。今さらだけど、報酬額は見合っていたかな? ちょっと少なかったかなって後になって思ったんだ」
「いえ、じゅうぶんでした」
そうか良かった、いやぁあの時のが君だったのか、と、公爵はやけに嬉しそうに笑顔を浮かべた。
話が逸れて何となく気が緩み、ふと、購入してきたお菓子の存在が頭に浮かぶ。
もう渡しちゃおうかな。アリスはいつ来るか分からないし。
「あの、話は変わりますが、公爵家の皆様にとアリーシャ様がお土産を購入していました。三番街のパティスリーのお菓子です」
さすがに食べ物をポケットから出すのは憚られるので、テーブルの裏の影からプディングを取り出す。片手に乗るのはせいぜい二個だ。
まずは二つテーブルの上に乗せると、公爵は不思議そうな表情を浮かべながらも一つ手に取り、
「妻が好きなお店のものだね。ありがとう」
と微笑んだ。
「奥様の好物でしたか。アリーシャ様は使用人の皆様方の分まで購入されるおつもりでしたが、生憎そこまで在庫が無かったみたいで」
話しながら買ってきた分をどんどん出してテーブルに並べていく。十個を超えたところで公爵はストップをかけてきた。
「ちょ、ちょっと待って。君、それどこから出してるの?」
「影です」
「影?」
訝しげな顔で身体をかがめ、テーブルの下を覗き込む。
公爵ともあろう人がそんな姿勢を取らなくてもいいのに。
「そこじゃなくても、影さえあれば――いや、俺が影だと認識すれば、そこから異空間のような場所に繋がります」
そう言ってテーブルの上に少し身を乗り出し、自分の体で影を作ってその中に手を突っ込んで見せた。闇の属性に染まってなくても手くらいは入るのだ。
両手を使って一度に五個掴んでプディングを取り出す。
公爵は口を開けたまま目だけを動かし、その様子をじっと見ていた。
全て取り出し、テーブルに乗せ終わると、広いテーブルの上がお菓子でいっぱいになった。
「なんか……スゴイね、君。闇の属性をそんな捉え方で活用している人、初めて見たよ。目の前でやっているところを見ても、どういう理屈なのか分からない」
「俺もあんまり分かってないです。ただ、小さな頃、影って不思議だなって思って……そこが別な世界に繋がっているような想像をしながら魔力に闇属性を付けて流し込んだら、こんなふうになったんです」
俺が触れたところの影が、まるで水面のように波打つ。
公爵は息を呑んで食い入るように見つめ、そのまましばらくボンヤリした後ふと我に返り、背後に控えていたジェフリー氏にプディングを厨房に運んで冷やしておくように言い付けた。
それから少し経ってようやくアリスが登場した。
ここに来た時とは打って変わって、ドレスを纏い髪も整えられ、初めて出会った時のような本物のご令嬢スタイルに戻っている。なんだか花のいい匂いまでする。
少し緊張したけど、話し出すといつものアリスでどこかホッとする自分がいた。
「あら? 二人ですか? 皆は?」
俺と公爵の二人だけで話をしていたのを不思議に思ったのか、アリスは少し首を傾げて室内を見回す。
「うん、ちょっと先に話しておきたい事があってね。それにしても久し振りだね、アリス。何だか表情が豊かになったんじゃないかい?」
「そうでしょうか? ……というか、一体何の話をしていたんです?」
「まあそれはこれからアリスにも伝えるけど……先にハヤトの返事を聞いてからだね。で、どうかな? 君にも色々思うところがあるのは分かるけど、ほら、アリスって基本こんな感じじゃない。これはアリスのためでもあるし、悪い話じゃないと思うよ」
話が戻ってきた。アリスのためなのは分かっている。
こうして見ると改めて思う。アリスはどうしたって立派な貴族のご令嬢だ。平民のところに嫁いでいい育ち方をした人じゃない。
俺も実際のところ、アリスに貴族の籍を捨てさせなくても済みそうな展開に安堵しているフシがある。
きっと、貴族社会は大変なところなんだろう。優雅で排他的な世界。
そこに俺が易々と入って行けるとは思えない。だけど、アリスが横にいてくれるなら。
「……わかりました。お受けします」
頷くと、公爵は微笑んでアリスに事の次第を説明した。
「叙爵の話をしてたんだ。もう議会の根回しは済んでいるし、陛下の了解も取り付けてある。後は私が正式に推薦すれば通る状態だよ」
「そうなんですか!? お父様ったらいつの間にそんな」
「アリスが出て行ってからすぐに段取り始めたよ。アリスのおかげでうちは王家に大きな貸しがあったから簡単だった。でも、二人とも婚約するのが遅いよ。もしかして無駄な仕事しちゃったかなと思って心配してたんだ」
フフフ、と笑う公爵を見て、何だかひと仕事終えた時のような脱力感がやって来て体の力が抜けた。
公爵は最初から俺を貴族社会に引き入れるつもりだったらしい。
そうとは知らず、身分差を思い日夜悶々とし続けた日々が脳裏をよぎる。
「……俺の葛藤は何だったんだ……」
「そうは言っても君、推薦の打診は初めてじゃないだろう? 断られたとかそもそも会う事すら出来ないとか言ってるのがいたよ」
「そうですけど……」
公爵は知っていたのか。
だから先に仕立屋まで呼んで、断れなくなるような空気を作ったのかな。
アリスのためだよって言えばそれで済む話だったのに。
アリス本人は少し心配そうに俺の顔を覗き込んで言った。
「……ハヤト、本当にいいんですか? それってうちの……ステュアートの言いなりになるという事ですよ。色々と不自由になりますし、もう少し考えたほうが……」
わかっている。
君は本当に可愛いな。
「普通の貴族なら受けない。……けど、いいんだ。もう決めた」
君のためのようでいて、案外そうでもない。
俺がそうしたいから決めただけの話だ。だから、何があっても誰のせいでもない。
アリスが気にする事じゃないんだよ。
「その心意気や良し。何、悪いようにはしないさ。女神様に誓ってね。で、早速なんだけど、あの大量のプディングをどこからどうやって出したのか後でアキュリスに詳しく教えてやってくれない?」
少し現金で強引な話の持って行き方がアリスそっくり。やっぱりアリスの父親だ。
よく似た親子だな。そう思った。
話が終わり、今日は一旦帰るけれど後日ここに仮住まいするのに先立ち、公爵に本を沢山渡された。今夜からでも勉強を始めておくようにとの事だ。
それからサロンで優雅にティータイム中の奥様にご挨拶して質問攻めを受けた後、アキュリス様とラヴに会いに部屋まで行く。
ちなみに義理の弟君は今学院に行っていて不在との事。ご挨拶は、いずれ。
「わぁ、アリーシャ様! お久し振りです! お待ちしておりました! お会いできて嬉しいです!」
「久し振りねラヴ、いえ、お義姉様と呼ぶべきでしたね」
「えぇ……? そんな、私から見ればアリーシャ様だってお義姉様ですよ? お互いにお義姉様って呼び合うのっておかしくないですか?」
「……本当ね。じゃあどうするのが良いかしら」
「今まで通りが良いと思います!」
手を取り合ってキャッキャする妹とアリスをアキュリス様と並んで眺める。
微笑ましいはずの光景なんだけど、ちょっと気まずい。
まるでアキュリス様と俺は妹を交換……いや、やめておこう。
深く考えたら負けだ。
頭を空っぽにしてアキュリス様に顔を向ける。
するとビクッと跳ねるようにして驚かれた。
……まだ何も言ってないのに。
「アキュリス様、妹の腕……ありがとうございました。とても自然で、義手とは思えないくらいよく動きますね」
「そっそそそうですか良かった! でもまだ改良したい点があるんだ」
「どんなふうに?」
「皮膚感覚を付けられたらいいなって思ってる。今はまだそういうの無いから。やっぱりね、ものの感触とか温度とか感じたほうが人生が豊かになると思うんだよね。本当は仕込みナイフとか付けたいんだけどそれはダメって父上に言われたから諦めるしかないかなぁ。そういう特殊な機能にダメ出しされるとやれる事って少ないよね。各指にそれぞれ違う魔法の属性つけて二属性以上を混ぜた魔法が簡単に使えるようになる案も残念ながら却下されたし。あとはもう爪をアクセサリー感覚で交換できるようにするくらいしか思い付かないんだよなぁ。ほら、女の人って爪に色つけたり絵描いたり石つけたりするの好きじゃん。でもそれってちょっと僕の専門外だし、ガワの仕事ならそういう職人がちゃんといるから」
突然すらすら喋り始め、しかも途中からどんどん早口になっていくアキュリス様に圧倒されながら話を聞く。
とりあえず妹は変わらず大事にされているらしい。良かった。
「そうだ、アキュリス様。さっき公爵から頼まれたんですが、卿に魔法をひとつ教えてやってほしいと」
話をぶった切って割り込むと、アキュリス様はぴたっと口を閉ざして止まった。
この人が次期公爵かぁ……。
少し心配になりながら、壁に手をかざして影を作る。
「こんな、感じのやつなんですけど」
影が波打つ様子をアキュリス様は目を丸くして眺めた。
「これは……どういう意味が……?」
「ええと、この中に空間があります。物の出し入れが出来ます」
端的に伝え、実際に手を突っ込んで適当に金貨を何枚か取り出す。するとアキュリス様は口をポカーンと開け、さっきの公爵と同じ表情になった。
「……少し、触ってみても?」
「どうぞ。あ、この金貨入れてみます? 投げても大丈夫ですよ」
金貨を渡し、おそるおそる放り投げる様子を見守る。
壁の中に吸い込まれるようにして金貨が消えた瞬間、彼の中で何かのスイッチが入ったのを感じた。
「お、お、おおお! 面白い! 何これ! 中はどうなってるの? ちょっと入ってみていい?」
「入れません。たまにしか」
「たまに入れるんだ!? 入れない時と何が違うんだろうね? 心当たりは?」
「身体が闇属性寄りになった時ですかね。でもあんまり無いです」
「身体が闇属性寄りに? そんな事ってあるの? 得意な属性って生まれ持ったものだから普通は変わらなくない?」
するとラヴが話に入ってきた。
「クリス様。兄はちょっとおかしいんです。周囲の魔力に影響を受けて得意な属性が変わる時があるんですよ」
「へぇ~。何事にも例外はあるものだねぇ。ラヴさんは火が得意なんだよね。情熱的で素敵だなぁ」
「まぁ、うふふ。クリス様こそ、氷が得意なのですよね。生まれ持ったクールな魅力がよく現れていますわ」
「生まれ持った、クールな……魅力……?」
アリスがぽつりと呟いて俺を見た。同意を求めないで欲しい。
俺は何も考えてない。
「ええと……。私達はそろそろ帰ろうかしら。またすぐ来ますし、お邪魔みたいですから」
「えっ!? ついさっき再会したばかりではありませんか! お邪魔だなんてちっとも」
「そうだよ、もうちょっと詳しく話を聞いてみたいから座って座って!」
妹夫妻(予定)に押し留められ、アリスと並んでソファーに座らされる。
それからしばらくの間、俺とアリスは質疑応答の合間に妹夫妻のいちゃつきを見せ付けられる地獄を味わった。
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