第68話・イベント進行:終わり

 全ての戦いが終わり、城中の者達があっちらこちらを行き来する。


「旅人達の奮闘により被害はほぼありません」


「死亡者はゼロ、報告、死亡者はゼロです!」


 それでも被害は出た。復興に時間がかかるだろうが、それには各国が手を貸すと話が決まり、こうして大騒ぎは終わりを告げた。


 ◇◆◇◆◇


「大人しく罰を受けます」


 夏の神はそう言って、多くの神々に睨まれていた。もとはと言えば、夏の神が封印を解いたようなもの。


「海神、水の回収はできてますか?」


「報告が来てすぐにお湯になったものを始め、海に流れたものは全て湖に戻した。あそこに水があれば、この国の土地の力は回復が速いだろう」


 戦神が解放されて、この土地もダメージを負ったらしい。夏の神は深々と罰を受け入れる態勢で座り込んでいた。


「予想外に水の減りが多いようですが、これはどういうことですか?」


「………それは俺も知らない」


 夏の神の言葉を裏付けるように、兵士から連絡が入り、最前線が水をお湯にも変えずに海に捨てていたことが発覚。ブーイングを受けるが最前線はどこいく風の顔をする者が多い。


「全ては検証、実験のための仕方のない犠牲。ゲームではあるあるなのですよ」


 そう言い加えたところ、夏の神は静かに決める。


「お前ら、刑務所生活1000年ね」


「………は?」


 それに最前線の者達はあっけにとられた。


「ふざけんな!それじゃゲームで遊べないだろ!」


「何様だよお前!ふざけんな!」


 そんなことを無視して、薔薇姫が聞く。


「いいのか?こやつらは腐っても創造神が招いた客人。そんな扱いで」


「ダメなことをしたんだ。俺も神の座を降ろされても文句言えない。ならそんな俺がこいつらのためにも、ちゃんとした罰を与えるべきだ」


 招いた客人を裁いた罪を受け入れる。それに夏の神は言い切った。ふざけんなと騒ぐのは最前線の者達だけ。


「まあまあまあ、大丈夫。所詮はNPC、ゲームAIの言う事なんて無視すればいいのです。ちゃんと運営に任せれば問題ありません」


「どの口が言うんだお前」


 ヒビキがそう言うが、周りのテンションは変わらず気にも留めない。


「この人が誰か知らないからそう言えるんだ」


「この人は、〇〇会社の御曹司様だぞ。こんなゲーム運営に声を出すの訳がねえんだよバーカ」


「そう、このゲームはパパがサポートしてるからできてるんですぞ」


 それに、バカはどっちだよと言う顔をする。


「………それだけか」


 ジークは怒りが揺るがない目で睨む。それには少しビビりながら、メガネは胸を張った。


「僕のパパーンに頼めば、ちゃんとした公平的な審判が下される。なんだって会社からそう任されてるんだから問題ないんだ。いくらでもやり直せる。なんならキャラを変えればいい」


「………君の言いたいことが分かった。けど」


 それは言うべきじゃなかったね?


 それを言われ、メガネは辺りを見る。


 周りのプレイヤーは冷ややかな目で見ている。それに少し汗を流す。


「そ、それがどうしたのですか。たかがプレイヤーの声なんて、いくら集まろうが無視できます」


「そう思うなら、君はよっぽどのバカなんだね。他の人はもう諦めた方が良い、彼は終わるよ」


「ふん!」


 こうしてイベントが終わり、残り日数でイベントを消化することになる。


「薔薇姫さん」


「なんじゃアッシュ」


「夏の神はどうなるんですか?」


「………さあな、神の座を降ろされても仕方ない。知らなかったとはいえ、戦神の封印を解かれたきっかけは奴だからのう」


 戦神はこの後は責任を持ち、薔薇姫達が封印するらしい。薔薇姫は任せろと言う。


「………どうにかなりませんか」


「………」


 薔薇姫は静かにこちらを見つめる。俺ははっきりと言う。


「あの人は反省してました。あのプレイヤー達よりも、本気で悔いて、反省してました。俺はまだ夏の神と仲良くなってないんです。このままお別れは」


 その言葉を口にしたとき、薔薇姫が静かに抱きしめた。


 満足そうにそうかそうかと嬉しそうに抱きしめる。


「なら仕方ないのう。減刑できるよう、話を付けておいてやる。今回だけだぞ」


「ありがとうございます」


「ふむふむ」


 こうして残りの日数は、秋の女神の記憶探しにプレイヤーは走り回り、中には復興を手伝うプレイヤーも出てくる中、イベントは終了。


 そのすぐ後に、緊急メンテナンスが入り、俺はしばらくゲームができない生活を続けるのであった………


 みんな………もう会えないなんて、ないよな………


 ◇◆◇◆◇


 少しだけ不愉快そうに過ごす青年がいた。


「まったく、AIの分際で1000年って、ゲームできないじゃないですか」


 そう呟きながら、これで何人かが辞めると宣言して出て行った。だが気にしない。今度は自分の指示をしっかり聞く人を呼べばいい。


 ああ気持ちいい、自分が王様になった気分だ。青年はそう思い、家の扉が開いた。待ち人来たるだ。


「パパーン、待ってたよ!」


 そう言って泣き付こうとした。いままでだって問題なかった。


 そう思っていたら、返って来たのは言葉ではなく、拳である。


「!?!!?」


「この………この大馬鹿者がッ!!」


 父親はそう叫び、青年は訳が分からず困惑する。


 だってパパは一番偉いんだ。このゲームが作れたのはパパがお金を払ったからだ。だからこそパパこそが神であり、自分はその息子なんだから、優遇されて当然だ。


 そんな考えが世間に露見され、ついに火種は燃え上がる。


 父親の会社を傾かせるほどのバッシングに、多くの支持者が離れていく。


 息子は殴られてもどうしてそうなったか分からないほど、自分が優遇されることが当たり前に育てられていた。


 母親は泣きじゃくり、父親と喧嘩し出すほど仲が悪くなった。


 これは自分の所為ではない。彼は部屋の隅で両親が言い争うのを聞きながら、現実逃避する。


 この日、一つの家族が責任と言うものを背負い、大変な目にあうが、それはアッシュ達とは関係ない、自業自得の物語。

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