第59話・エンカウント

 王家のホテルから出て、町へと繰り出すアッシュ。色々見て回る中、町の様子が少しピリピリしている。


 聞き耳しながら進んでいると、どうも最前線とプレイヤーが衝突したらしい。と言っても、彼らは彼らで情報収集しているだけと思っているようだ。


(一度訪ねるだけで済ませばいいのに)


 隠し情報があることを前提に聞くから、隠している情報を話すのですと言って何度も聞き、付け回すらしい。


 条件を満たしていないのに隠し情報を話すかバカと言って、プレイヤー同士がひと悶着起こしかけたとのこと。


 そんなことを聞き、自分に矛先が向かないように人気を避けて道を進む。


 その時、曲がり角のときに輝夜が誰かとぶつかった。


「むっふー」


 激突した時、輝夜は平然としているが、相手の方を押し倒した。アッシュが慌てて手を掴んで倒れずに済んだ。


「大丈夫ですか?」


 ぶつかってきたとは言え、すぐに文句を言わず、相手の意見に耳を傾けることにして、最初はそういうが、おどおどして、へとへとな様子の女性。


「た、たすけてっ」


 その言葉にすぐにどうするか、彼は素早く決めた。


 ◇◆◇◆◇


「どこ行った!?」


「まだ情報聞いてないぞ!?」


「逃げ出したんだから、もしかしたらレア情報持ってるかもしれない。探せ探せ!」


 そんな声を聴きながら、影魔法を使い、影に隠れながら進むアッシュ達。


「頼むぞナイト」


「ゴウ」


 静かに移動する中、メンバーが戦闘するエリアに行かないからか、全員を引き連れての移動。マフィンに空から偵察してもらい、クロナやシンクが辺りを警戒。こうしてなんとか一団から離れだすことに成功する。


「ありがとうございます、助かりました」


 ぼさぼさな髪に絵具で汚れたワンピースを着込む少女。茶色の髪で厚めのレンズのメガネを付けた人は丁寧にお辞儀をする。


 アッシュはとりあえず安全な場所まで連れて行くと言って、それならばと街はずれの教会まで移動する。彼女の手元には荷物があり、それを持って移動した。


 海岸近くの古い教会で、傍に孤児院が建てられている。子供達が庭で遊んでいると、こちらに気づき駆け寄って来た。


「アキねえお帰り!」


「ただいま、神父様を呼んでくれる?」


「お客さん?わかったわ」


「絵は売れたの?」


「うん、おかげでお肉とお魚をたくさん買えたよ~」


 喜ばれる中、荷物を持って奥へと引っ込むアキと言われた人。神父らしき人が現れ、頭を下げた。


「どうも彼女を助けていただき、ありがとうございます」


「いえ、たぶん、同類だろうと思いますので」


 頭を下げるアッシュに、二人は首を傾げ、話を聞いた。自分が旅人であり、追いかけまわしたのは旅人だろうと告げた。


「いやはや、それでも彼女を助けたのはあなただ。その追い掛け回した奴らと一緒ではないよ」


「はい、こうしてしっかり、こちらの話を聞いてくれますから」


「そうなんですか」


「隠し情報を寄越せ?とか、よく分からないことを言うので、分からない、知らない。記憶が無いと言っているのに、話すまで帰さないと言ってきたので、怖くて逃げたんです」


「………本当にひどいな」


 アッシュは僅かに苦虫を噛むように顔を歪めた。記憶にないとはどういうことか聞くと、アキは隠すことなく答えてくれる。


「私は記憶が無く、ふらふらしてたところをここの子供達が保護してくれたんです。アキと言う名前も、その言葉しか覚えていなかったんですよ」


「そうなんですか」


「いまは絵を描いて、露店で売ったりしてます」


 そんな話をしながら、お茶をいただき、少し話を聞く。アッシュからこの国の人は旅人をどう思っているか、いま国はなにをしているか。


「この国はいま神への感謝祭をしていて、外国の方々を出迎えている最中ですね。城の中に聖域があり、各国の著名人を呼んでお祝いをしてます」


「旅人に関しては、申し訳ないですが人によりますね。嫌いな人はとことんと言うくらいで」


「なら長居するのは悪いか」


「教会は中立です、あまり気にしないでください。衛兵もその辺りを気を付けているらしいですし、問題さえ起こさなければ大丈夫でしょう」


 そんな会話をしながらお暇しようとするが、従魔達が子供達と遊び始めたので、しばらく滞在する。


「こんにちは、司祭様はいますか?」


「はいはい」


 アッシュはアキと共に掃除と料理を手伝い、畑の世話を手伝った。


「なかなか良い歌声だね。旅人さんは町の中で暴れている奴らだけと思ったけど違うようだ」


「すいません。彼らの所為で嫌な思いして」


「なあに、あんたが謝る事じゃないよ。実は俺も絡まれたけど、他の旅人が助けてくれて。他の奴にも言っておいておくよ」


「はい」


「しかし歌は良いね。昔を思い出す。できることなら、簡単なもんを教えてくれ」


「良いですよ、どんな歌が良いですか?」


 料理をするとき、裁縫をするときなど、しっかり合った歌を教える。それにお礼を言われながら司祭様と話に出向く町の人。


「それでは俺はここで」


「ありがとうございます。それでは、またご縁があれば」


 アキはそう言って、また遊びに来て欲しいと言われながら町から離れる。まずは宿に戻って一休みしよう。そう決めてアッシュは宿に戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る