第58話・王族のバランス

 モードレッドの剣はオリハルコンの品質★8の最高攻撃力を持った剣である。


 名前を白銀剣クラレント、血魔法などの攻撃力を上げる魔法にて攻撃力の底上げを優先している。血魔法の加護はどうだろうと思ったが、モードレッドは喜々として使用するように命じていた。


「モードレッド、お前に何かあれば鍛冶師アッシュの功績に傷がつくのだ。もう少し代償のないものを考えて言わないか」


「ハッ、この頃の魔物討伐ではこれくらい無ければ無傷で帰る事はできません。バカ兄の好きな先行投資って奴ですよ」


 笑いながらクラレントを握り締め、無属性の攻撃特化剣に満足するモードレッド。その様子にガウェインは静かに考え込む。


「これほどの一品で無ければ聖域を始め、活性化しているダンジョン攻略は無理か。一応ドワーフとエルフの国のダンジョンに騎士団で行ったが、頷ける状態だからな」


「ふへええ」


 ガレスは驚きながら、鎧の方は別の者に頼むらしく、この剣を受け取るモードレッドは満足そうであり、そんな中で、若い女性が帰って来た。


「お母様、お帰りなさいませ」


「ただいま戻りましたガレス。おや、モードレッドは新しい玩具をもらったのね。あなたの遊びは命がけだから、良い物を選びなさいよ」


「はい母上!」


 アグラヴェインはため息をつき、アーサー王は静かに語りかける。


「モルガン。ここには神々に認められた者と我々しかいない。聖域の方はどうであった?」


「そうですか、あなたが………変わりなく、と言いたいところですが、滞在する神が好きにいじくっている感じですね。前は聖国の管理だけで済ませていたのにと言う印象です。あなたはなにか知りませんか?鍛冶師アッシュ」


 アッシュは問われて、知り合いの神を思い出すがそれらしいことは言っていない。むしろいまはそんなことをする神に思い当たりは無い。


「申し訳ございません。その神は女神ですか?」


「いいえ、女神の場合、なにかあるんですか?」


「現在他の神に所在を知られていない者で、秋の女神は探されています。自分は海の神、夏の神、創造神とは会っていません」


「ほぼ上位の神ですね。魔神や残りの四季の神々とはお会いに?」


「待て、秋の女神が不在なのか?」


 その会話に待ったをかけたのはアグラヴェイン。それに難しい顔をする。


「秋の女神は芸術と歌の女神、冬の女神は守護と月の神、春は豊穣と生命の神、夏の神は確か成長と太陽の神だな。その一つが欠けているだと? なぜ王家に報告しなかった」


「それは」


「バカ兄、そんなこと言って、俺らがどうにかできる話か? 聖域にも入れない者に用があるとは思えないぞ」


「それは………確かにそうだな。良いだろう、報告する義務も無いことだし、いまはそれを咎めん。だがまさか四季の神が欠けているとは」


「それだと夏の神も。こちらは意図的に言っていないようですが」


 それに重鎮が難しい顔をするが、モルガンが言いにくそうにため息をつく。


「鍛冶師よ、夏の神は気にするな。私が会ったこの国に滞在する神は、夏の神だ」


「はあ?」


 アッシュはそれに驚いた。鍛冶神がどこに行ったか頭を痛めていたのにと。それを聞いて他の重鎮も難しい顔をする。


「夏の神は秋の女神を探しているのか?」


「いいえ、自分の聖域を自分好み、正確にはこの国を自分好みの国にしようとしてます。聖国は創造神を崇拝するので、かなり困っていました」


 四季の神は創造神の次に偉い神達のことである。それの頼みを無碍にできる、聞ける範囲は叶えているそうだ。


「鍛冶神に報告しようかな? 神殿や簡易の教会で祈りを捧げれば伝わるようです」


「それならばぜひ頼みます。できる限り希望を聞いていますが、伝統を守りながらだと少し困っていました」


 なんでも夏の神は伝統ある祭りごとなどをやめて、毎日サーフィンだぜとか言って困らせているらしい。中には神が遊び続けて誘うものだから、若い者が昼間働かず遊びに出たりと。


「我が国は宗教国家で無いが、そんな神はご遠慮したいが」


「アッシュ、まともな神はいないのか?」


「まとも………一応全員仕事熱心ですので、他の方は問題ないかと」


 ため息をつくアーサー王。


「鍛冶師アッシュよ、面倒だが夏の神と出会うことがあればよろしく頼む。それと他の神に連絡もな」


「分かりました」


「頼む。君達のように『まとも』な者ならば我が国も歓迎するよ」


 アグラヴェインのまともと言う部分が、かなり強く言われている。おそらく最前線のような輩はダメだと言っているんだろう。


 全員に挨拶をかわし、アッシュは退席した。


 ◇◆◇◆◇


「それで、兄上としてアッシュ殿はどう思いで?」


 ガウェインがアッシュが去った後、すぐに聞く。モードレッドは不機嫌に、ガレスはおろおろしながら、アグラヴェインは静かに評価を下す。


「オリハルコンの武器化は大変素晴らしい。旅人が現れる時、厄災を跳ねのけるために彼らは我々に手を貸すだろうと言う神託を信用できる。彼だけならな」


 王国でも一部旅人の悪さは目立っていた。港町が使えなくなり、一時的に利益が消え去ったのも事実。代用品が売られていたが、どちらも欲しいのがその道のプロの言葉だった。


「国の益を守り、法を持って運用する私としては、アッシュ君、ジークフリード君などは私も賛同して受け入れる。が、統一されない旅人の評価はこのままなら、我が国も受け入れられんな」


 彼ら以外いらない。そうアグラヴェインははっきり告げた。


「ガウェイン、お前の考えは」


「民も旅人も人それぞれだ。一部の評価だけで全てを図るのは早計だと思う」


「中立か、結構。ガレスはまだその手の話はできないとなると、賛成派モードレッド、中立ガウェイン、反対派である私でバランスは取れている」


「私としては王家内で意見が違うのはいささか困るのだが」


「王よ、それは仕方ないのです。内政は私が、人気はガウェインが、武力がモードレッドでバランスは取れている。すべてに優れた王はいない。そういう点ではバランスの取れた我が国が、いま一番平穏で平和である証と考えております」


「ふう、お前は考え過ぎだと思うが、結果があるからなにも言えん」


「ありがとうございます」


「けっ」


 モードレッドは不機嫌そうにしている中、ガレスは少ししょんぼりする。自分に役割は無いからだ。


 だが実際、バランスが壊れたとき、祭り上げられるべきはガレスと考えているアグラヴェイン。最もどれにも無い者がバランスを新たに整える。そういう意味では大切にされているが、そのことを本人には伝わっていない。


 王族達はしばらくは骨を休める。なにかあれば動く。そう決めていまは心を休めることにした。

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