運営裏話1

 これはスタッフルーム。一人の女性が涙を流して、沈痛な顔で同僚達が静かになっていた。


「もう無理……辞めたい」


 彼女は掲示板管理人スタッフの一人。数多くある、会社のホームページの一部を借りて話し合う、プレイヤーチャットルームの管理人の一人だ。今しがた辞表を持って主任に話に行ったが、のらりくらり躱されて仕事を続けなければいけない。


「大丈夫?」


「先輩無理です。掲示板のアカウント凍結権を持っている身として、これ以上は無理です!!」


 彼女の精神的不安定なところは仕事が始まり、あることが切っ掛けにどんどん酷くなっている。正直辞めさせ、休養を取るべきだが、会社の、クソ上司がそれを受け取らない。


 休ませない、アカウント凍結、はく奪などさせない。しかるべきことをやらせてくれないのだ。


「しかも、最前線の悪口を言う人達こそアカウントを凍結させるべきではないかって、頭がおかしい………」


 ここの会社はいま真っ二つに別れている。最前線と言うクランを組むプレイヤー全員のアカウント凍結、停止するべきと言う派閥と、それはいささかやりすぎではないかと言う派閥。


 なぜそうなったか、末端の彼らには理解できない。どれほど上司に聞いても最前線、特に問題を起こす幹部プレイヤーのアカウント凍結、停止はやりすぎと言って止めてくる。


 最初の頃はできたばかりの分野であり、発展途上しているVRゲームでそうそう問題を起こすのを嫌がっていたと思っていたが、あからさまな差別発言が目立ちだした。


『掲示板を荒らしているのは彼らだ。彼らのIDを調べてブラックリストに入れるべきだろう? 最前線のプレイヤーは、想定内ではあるんだろ?』


 確かに、プレイヤーが非協力的な行動、問題行動はゲーム内で裁く用に設定されて、できる限りゲーム内で終わらすよう心掛けるように言われている。


 だが彼らの行動は、止めろと言ったことを喜々としてやっている。これはさすがに他プレイヤーに迷惑がかかるだろう?


 β版では一切なかったことだ。その頃は少人数でしっかりやっていたのに、大量にメンバーを入れてからおかしくなった。すでに凍結や停止を受けた者もいるのに。


 なのに、一部上司達はそれをさせない。牢獄ルールは適応させているが、一か月近くゲームが牢獄内のみなのに、止めないんだ彼らは。


 数多くの注意喚起、警報をしている。ここ最近はNPCのみにしていたが、この前に一部プレイヤーの畑に入り、作物を盗ろうとしたり、破壊しようとした行為は完全な害悪プレイだ。すぐさまアカウント凍結、中には停止させる、するべきと進言してもゲームの中だと言って決定しない。


「なんでなんでしょうか、このままではこのゲーム終わってしまいます。いまだって数多くのユーザーが酷評してます」


「それは分かっている顔はしてるんだが」


 だがそれをやらせない。なぜだ?


「………」


 理由を知る男が歯を食いしばり、憤怒の顔でモニターを睨む。


 その様子から良い話ではないため、聞かないことにしているスタッフ達。ともかく、末端スタッフでは意味が無い。


 上の上に掛け合ったり、色々話し合って会社は二分割している。会長である人もかなりご立腹であり、ゲーム内、ゲーム世界を完全に超えての害悪プレイはやめさせる。辞めないのなら停止して出て行ってもらう方が良い。そう言われているのにだ。


 社長などがそういった情報を独自に拾うから、何人か首になったし、身辺調査で地方に飛んだりしている。


 彼らも彼らで自分達がグレーではなく、完全にアウトなのを理解しているから、日々青ざめた顔で過ごしている。下には威張り散らすが、それすらクビの材料になるため、なりを潜めている。


「………とりあえず、世界樹は切り落とされてないな」


「はい、オリハルコン品質★5以上の武器でやっと切り傷が付くようプロテクトをかけてます。火魔法でも火をつけることはできません。ですが」


「ほかの作物は汚されたりしてダメになりました。アッシュさんはクレームをこちらには入れていませんが関係者、他の畑所有者はクレームメールを。まあPKの無い世界ですので、こういうプレイされて怒り心頭です」


「だよな。一応、それは本来考えなしに魔法を使うと、NPCの町など壊すから使わせないように注意するシステムなのに、相手の作物をダメにするために使われるとは」


「ちなみに捕まったプレイヤーはゲーム世界で半年間プレイ不可能になり、改善を要求してます」


「最大一週間が予想範囲内に設定してるのに、なんで一か月や二か月も伸びてるんだよッ!?」


「彼らが出たすぐに問題を起こすからですよ。AIが不自然、なんでこうも牢獄から出すのか、AIがクラッシュ、バグが発生し出したとプログラムスタッフからクレームが来てます」


「そうだよな。AIからしたら、早く出し過ぎだ。プレイヤーだから優遇してる、なんて説明、NPCに通じるかクソハゲがッ」


 これも一部上司達が長すぎると文句を言って、牢獄時間を減らしているんだ。減らすなよッ、長時間牢屋の中にいないといけないのならもうバンしろよ。


 だがもう無理、限界だ。


 エルフ国は一部旅人を完全に悪人として見ている。エルフ国で問題を起こして、彼らが疑問に思わないくらい罪に見合う刑罰で無ければ、AIが壊れてしまう。矛盾が発生するからだ。


 すでにそれは発生していて、何度もプログラムスタッフに頭を下げに行っている。


 現実でもこの問題はゲーム雑誌やネット掲示板で使われていて、運営は無能と言われている。無能だから言い返せない。


 なんでダメと言われたこと、GMからするなと言われたこと、それらを喜々としてやるのか分からない。目立ちたいのだろうか? スクショを自分達のサイトに載せているし、目立ちたいんだろうな。


「………とりあえず俺が掲示板やるから、君はしばらく別の仕事をしてくれ」


「いいんですか………」


「仕方ない。別の仕事していればハゲも何も言わないだろう。今度のイベントは全プレイヤーが参加するから、人手は欲しいしな」


「ありがとうございます………」


 消えそうな声で頭を下げて、男は掲示板を見て注意、警告など、中には攻撃的過ぎてメッセージを消すほどの文章をすぐに直していく。


 もう限界だ。ハゲは分かっているのか? 自分の仕事を失うかもしれないんだぞ?


 いくら大金を受け取って、さらに前々からの恩義があるからってこいつらを放っておくと会社が傾く。


 そう思いながらもどうすれば良いか分からず、男はただ仕事をするしかなかった。

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