悪魔か否か

 そのように感じたのはいつだったろうか。わたしが食べた物がわたしであるのか?この指先はいつからわたしの物だと思い始めたのだろうか? 足は? 心臓は? どこからどこまでがわたしなのかわからなくなってきて、そのように考え始めたらその所有権はどこにも帰属していないのに気が付いた。そうして、わたしと言うものは消滅した。

 それでも変わらず生活はする。お風呂に入って、何を食べようか考えて、買い物をして、木こりだったら木を切っていただろう。悟ったとかそういう類の話ではない。執着もしないし、求めはするがそれが得られなかったとしても、あきらめが早くなった。それだけの話。いろんなことがどうでもいい。ポジティブにどうでもいい。今の所、どうでもいいのは自分のことに限る。この先、人の事がどうでも良くなったとしたら、悪魔に乗っ取られたのかもしれないので注意しよう。幸いなことに、戦争とか、略奪とか、道理に反したことには腹が立つ。なのでたぶん大丈夫だと思う。

 わたしと言うものが消滅したら、今までわたしだったものはどこに行ったの?それはなんとなくわかる。どこにもいなかったし、どこにでもいる。よく使われる言い回しだけど、そのようにしか言えない。履いていた靴だし、庭に咲いている紫色の花だし、読みかけの本でもある。

 

 そのようでありながら、いつも身近な人の身を案じている。万人を愛せよ。わたしにはできない。その努力もしていないが。今問うている。この答えを知っている誰かに。それは駄目なことなのだろうか。ここは終着点ではないのだろう。

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