第2話 経営コンサルタントのスカウト

「大丈夫よぉ。ショック死くらいなら私がその場で蘇生できるものぉ」


 目玉だけで得意顔を表現する金味噌。

 その水槽の周囲にパリパリと電光が走る。

 あの電光を自動体外式除細動器AED代わりにして蘇生するつもりか。


「知ってるかもしれないけどぉ、一応自己紹介するわねぇ。私の名前はリュートよぉ。リュート・ヴィゲン。宇宙海賊やってまぁす。特技はぁ、電撃バチバチねぇん」


 知ってた。

 脳と片目以外の肉体を機械置換サイバー化した宇宙海賊。

 電気操作能力特化で、この宙域の宇宙海賊の実質的な頂点トップだ。


 船室の電気関係がすべてダウンしたのは、この金味噌がやったのだろう。


「名前はニュースでよく聞きます。しかし、実際の力は噂以上でしたね」

め言葉として受け取っておくわぁ」


 今の話を信じるなら、何十隻なんじゅっせきといた宇宙船団の中から、たった一人のショック死したやつを見つけるほどの探索能力まである。

 そして止まった心臓を動かすよう調整した電撃を、遠隔でピンポイントに浴びせられる精度の能力の持ち主。

 この場では、こいつが一番の危険物だろう。


「さぁて、挨拶あいさつはこれくらいにして。そろそろ用件を言っちゃおうかなぁ」


 来た。一番の謎。

 なぜ俺はここに連行された?

 俺はただの一会社員であって、別に重要人物じゃないぞ。


「お願いします」


 俺は平静を装う、というより半ば諦めの境地で言った。

 たとえ警備ロボがいなくとも、この金味噌に目をつけられている時点で逃げるのは不可能。

 今は逆らうようなことをしてはいけない。機会チャンスを待つんだ。


「実はねぇ。私たちの経営状況の見直しを手伝ってほしいのよぉ」

「……なるほど」 


 危なかった。

 つい「は?」とか「はぁ」とか言うとこだった。

 こんな受け答えで機嫌を悪くされたらたまらない。


「まずは、これを見てちょうだぁい。まだ集計中だけど、今回の襲撃の収支予測よぉ」


 金味噌が映るモニターの隣、別のモニターに文字と数字の羅列られつが表示される。

 装飾はないが、わりと見やすい収益表だ。

 海賊にしてはしっかりしてるな。


 しかし、いきなりそんなものを見せられても、って、なんだこりゃ。


「あぁ、何も言わなくていいわよぉ。その顔で大体わかっちゃったもの」


 しまった。顔に出たか。


「これは、失礼を」

「いいのよぉ。ひどいもんでしょお? あれだけ獲物があったのにギリギリ黒字が出るかどうかだものぉ」


 金味噌の言う通りだった。

 俺が乗ってた宇宙交易船団は、惑星規模とまではいかずとも、相当な量の物資を積んでいるはずだぞ。

 それを奪い尽くして、ギリギリ黒字?


「どーお? 率直な感想を聞かせてくれるぅ?」

「これを見る限りですが、襲った船団の規模に対して収入が少なすぎますね。それに支出も大きい」

「そうなのよねぇ」


 ざっと見る限りでも不自然に感じるくらいだ。


「私たちってば、最近はずっとこんな感じなのよねぇ。もうけが出ないのよぉ。今はなんとか回ってるけど、事故ったらヤバいかなぁって思ってるの」


 金属まぶたを半分おろして物憂ものうげな様子を表現していた金味噌が、その目の位置をこっちに向ける。


「あなたのお仕事、経営コンサルタントなのよねぇ?」

「そうですね」

「あなたに経営改善をお願いしたいのよぉ。私たち海賊団、SHOCKのねぇ」


 ちょっと予想外すぎて一瞬思考が停止したが。

 これは商売ビジネスの話なのか?

 しかも商材は俺自身。


「それじゃ、うちの主要メインメンバー3人を紹介するわねぇ」


 俺が黙ってる間に、金味噌が勝手に話を進める。

 モニターの金味噌が縮小し、入れ替わりで別の画面が拡大された。


 そこには、横を向いた青い金属兜の姿があった。

 肩から下、全身も鈍い青色の金属製。おそらく人型機械ロボットだろう。


「最初はぁ、ビゼンちゃん」


 兜の中央につけられた、視覚用アイカメラに見える部分は下に向けられている。

 画面外からは、たまに小さな火花が飛び散っていた。

 金属加工でもしているのだろうか。


「完全自立型の人型機械ロボットでぇ、重力花火職人よぉ」


 重力、花火?

 聞きなれない言葉に戸惑っていると、ロボットが作業の手を止めずアイカメラだけをこちらに向けた。

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