第18話 近づく為に
ロベリスさんに1枚目の手紙を届けてから一週間が経った。
ちゃんと筒の中が花弁だけになって帰って来てるから、届いてはいるのだと思うが、未だにロベリスさんからの手紙は届かない。
「キャリー。今日の分だ。頼む」
「ピィ! ピィ!」
「よしよし。お前も利口さんになったもんだ」
キャリーの頭を撫でながら、ラビットの肉をやる。
「本当は、お前のご飯は今でも俺のご飯の一部の予定だったんだけどな……」
4日前、部屋でこっそり飼っていたキャリーがセマム様にバレてしまった。
キャリーの為に食事の一部を少しだけ取り分けて食べさせていたのが、不審に思われたらしい。折角そうできるように雑食の種類を選んでたんだけどな。
バレた後は、少し説教された後、半ば強引にキャリーの食費を渡されてしまった。
「前の5万ダリアの件も有耶無耶にしてもらったのに、貰えません。給料だって貰いすぎなくらいです」
と断った筈だが、
「あれは正式なあなたへの対価です。このお金もそうです。もし、何処かに漏れて、ローディア家は、子供にまともに食事させていないなんて伝わったらどうするのです? そもそもあなたは昔から欲が無さすぎるのです」
などと、ごり押されてしまった。
「まぁ、お前もセマム様に感謝するんだぞ?」
「ピィ!」
食べ終わると、キャリーは元気よく飛び立っていった。
「よし! 俺も切り替えて、買い出しでもいくか!」
ぐっと背伸びをする。
そして、身支度を済ませて家を出た。
――
「お姉さん! 今日もお肉安くしてくれてありがとう!」
「おう! でも、お姉さんは恥ずかしいからやめてちょうだい」
「そうですか? まだ俺からしたらお姉さんですけどね」
「まったく、お世辞まで言えるようになっちゃって。始めの頃は、かたっ苦しい敬語ばかりだったのにね」
「そうでしたか? 今も敬語で変わってないように感じますけど……」
「いやいや! あんちゃんは変わったよ。他の店の周りの奴も言ってたけど、ウチらに歩み寄ってくれるようになったからね。かなり接し易くなった」
「もしそうだとしても、お姉さんたちのおかげですよ。この通りの店はファミリー感が強いですから」
「それはウチらの接客態度に問題があるとでも?」
「ソ、ソンナコトナイデスヨ」
「あんちゃん、声がカタコトだよ、まったく……。っと、そうだった。あんちゃんって、確か腕っぷしには自信あるんだったよな?」
「いや、別にちょっと格闘技をかじってるだけ……ってこれなんです?」
肉屋のお姉さんは、1枚のチラシを手渡してきた。
「いいから、見てみな」
「なになに……3日後……リブロニア領最強武人トーナメント大会? ……賞金100万ダリア!?」
「おうよ! リブロニア領全土……いや、ダリエリア王国全土から猛者という猛者が集まる大会らしいよ。なんでも、参加条件が、『戦えること』『非犯罪者であること』の2点のみだ。国中の冒険者から騎士まで何種類もの職業者が集うんだって。もし勝てたら100万だ。やる価値はあるんじゃないの?」
「いや……ここの『試合中の殺害は禁止(故意か判定できない場合は事故死と見なす)。ただし、試合中に起きた事故や怪我に関しては、一切責任を負わない』ってようは、バレなきゃ殺っていいってことでしょう? 危なすぎ……ん?」
「あんりゃ、そんなあぶねぇ大会だったのかい? そこまで見てなかった――」
「いや、やっぱり俺、この試合出るよ。お姉さん!」
「ど、どうしたんだい? さっきまで乗り気じゃ無かったじゃないか。それに危険な大会なんだろう?」
「いや、気が変わったんだよ。俺、出るよ。でも、絶対にセマム様には言わないでくださいよ?」
「なんでだい?」
「絶対バレたら止められるからですよ」
「それじゃあ、黙ってたウチまで怒られちまうじゃないかい!」
「……お願いだ、お姉さん。男にはやらなきゃいけないときがある。それが今なんだよ!」
「……わかったよ。ただし、必ず生きて帰ってくるんだよ。 知り合いが死んだら目覚めが悪い……それに何より、セマムさんへの申し訳が立たないからね」
お姉さんは、俺の目を見つめると、どうやら納得してくれたようだ。
「ありがとう! お姉さん!」
そう告げて、店を出る。
「さて、早速受付に向かいますか」
俺は即座に受付会場へと向かった。
――
受付会場に着くと、ローブを被った怪しい男や、大男など、様々な参加希望者達が並んでいた。
どうやら、思ったよりも多くの参加者がいるらしい。
「これは、なかなか大変そうだな……」
物好きも多いものだ。
こんなデンジャラス過ぎる大会にこれだけの参加者がいるとは……。
そもそも俺だって副・賞・が無ければ、参加していない。いや、副賞狙いの奴も結構いるのか?
俺を心変わりさせた副賞……それはーー
『リブロニア家令嬢の専属騎士就任の権』
これだ。
まぁ、確かに魅力的な権利だ。100万ダリアをもらえる上に、素晴らしい就職先まで用意してもらえる。それも、公爵家での勤務だ。給料や扱いも保障されているようなものだ。
つまりは、他の参加者の目当ては、金と安定の職なのだろう。
ただ、俺にとっては違う。
これは、リブロニア家に取り入る……つまりは、ロベリスさんに近づく絶好のチャンスだ。可能性としては低いが、このリブロニア家令嬢が、ロベリスさんであるかもしれないし、そうでないとしても、近づけるのは事実だ。
俺は、黙って待つことはしないとロベリスさんに伝えたのだ。
「ロベリスさん、あなたに近づく為に」
頑張るとしよう。
先ほどは謙遜したが、幸い腕っぷしには多少の自信がある。
「この大会で彼女の隣に!」
俺はそう意気込むのだった。
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